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帰還したら西暦5000年でした ~TSエルフ大魔導師、歴史オタクの天才ハッカー少女とジャンク屋を営みながら文明遺産を発掘します~  作者: 白黒鯛
第一章 千年の孤独、三千年の邂逅

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幕間一 非合法サルベージャーの夜

 ネオンの毒々しい光が、濡れたアスファルトに反射して紫やピンクのモザイクを床に描いている。

 私は防壁遮断仕様のジャケットの襟を立て、上空を飛び交う反重力シャトルの駆動音を聞きながら、旧市街の暗い路地裏を歩いていた。


「……ここもハズレ、か」


 ため息をつきながら、手首のホログラムディスプレイを消去する。

 私――ステラの趣味は、この都市を管理する中央治安維持AIの監視の目を盗み、失われた過去の遺物を掘り起こすこと――いわゆる非合法の「サルベージ」だ。

 富裕層が肉体をクローンに乗り換えて不老不死を貪るこの退屈な世界で、数千年前の地球、まだ人類が泥臭く肉体を持って生きていた時代の歴史や文化の収集だけが、私の心を裏切らない唯一の娯楽だった。


 今日も、三千年前の『電子ネットワーク時代』の断片データが遺棄されているという噂を頼りに、この廃棄エリアの路地裏を探索していたのだが、空振りに終わりそうだった。

 踵を返し、セーフハウスに戻ろうとした、その時。


――ビビビッ!


 手首のポータブル・スキャナーが、鼓膜を突き刺すようなけたたましい警告音を鳴らした。


「な、何これ……!? 空間の量子位相が……反転してる?」


 ディスプレイのインジケーターが、見たこともない乱高下を記録している。

 熱力学の法則を完全に無視した、爆発的なエネルギーの局所的発生。ナノマシンの駆動光ではない。もっと根源的で、原始的で、けれど圧倒的に濃密な未知の粒子が、数十メートル先の路地裏の最奥で急激に収束し、そして霧散していくのが分かった。

 もし中央AIの広域センサーがこれを見つければ、一瞬で治安維持ドローンが飛んでくるレベルの異常数値だ。


「……行くしかないでしょ、こんなの!」


 恐怖よりも、抑えきれない好奇心が勝った。私はネオンの光が届かない闇の奥へと駆け出した。


 水溜まりを飛び越え、曲がり角を抜けた先。

 回路パターンの明滅する金属壁に背を預けるようにして、それは倒れていた。


「――っ!? 嘘、何これ、人間……?」


 思わず声が漏れた。

 そこにいたのは、信じられないほど美しい、銀色の髪を持った女の子だった。衣服は、滅多に見ることのない、天然の繊維を雑に編み込んだような、ボロボロの黒い布地。

 私は彼女の前に勢いよくしゃがみ込み、スキャナーを向けた。


「ちょっと、大丈夫!? しっかりして!」


 それが、私が彼女――ルナリアにかけた最初の言葉だった。当然、ルナは虚ろな目でこちらを見るだけで、何の反応も示さない。

 画面に表示される生体データを見て、私はさらに目を見開いた。


「体内ナノマシン保有率……ゼロ!? 遺伝子改造ゲノム・エディットの形跡……なし!? 完全な自然原種オリジナルの人間型生命体……ううん、違う!」


 スキャン結果が告げているのは、目の前の少女の身体を構成する細胞が、この地球上のどの生物の進化系統樹にも属していないという、狂った現実だった。

 興奮で心臓が破裂しそうだった。星の彼方のエイリアン? それとも先天的な遺伝子異常――。

 その時、彼女の長い銀髪の隙間から、信じられないものが覗いているのに気づいた。


「耳が……尖ってる……?」


 私は吸い寄せられるように両手を伸ばし、その耳に触れた。つんつんと指先で突いてみる。

 シリコンのフェイクパーツじゃない。中に細い血管が通り、体温が通っている、本物の生物組織。国立アーカイブの最深部、架空の神話セクターに描かれていた、森に住むという伝説の亜人種「エルフ」の記述が、脳裏を電撃のように駆け抜けた。


「嘘でしょう……!? 生体パーツじゃない、本物のエルフ!? 架空の生物が、なんでこんなところに倒れてるのよ!?」


 私の言葉に、彼女は酷く怯えたような、けれど鈴を転がすように可憐な声で悲鳴を上げた。

 彼女の言葉の体系は全く理解できない。けれど、その怯える姿があまりにも儚くて、そして強烈に私の庇護欲を刺激した。

 彼女の全身の細胞は、今にも活動を停止しそうなほどエネルギーが枯渇している。このままここに放置すれば、あと数分で彼女は死ぬか、あるいはドローンに回収されて実験室のモルモットになるか。


「――待って、今助けるから! 私のセーフハウスに来て!」


 私は彼女の両肩を掴み、顔を近づけて真剣に語りかけた。言葉が通じないのは分かっていた。けれど、伝わって欲しかった。

 私は彼女の細い身体を抱き起こし、自分の肩に彼女の腕を回した。

 驚くほど軽くて、折れてしまいそうな身体。けれど、そこからは確かに、世界を揺るがすような大いなる運命の匂いがしていた。


「大丈夫、私に任せて。絶対にあなたを守るから」


 意識を失い、私の胸に頭を預けてきた銀髪の少女をしっかりと支えながら、私は夜の街へと歩き出した。私の退屈だった人生が、この瞬間、完全に終わりを告げたのだと確信しながら。

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