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帰還したら西暦5000年でした ~TSエルフ大魔導師、歴史オタクの天才ハッカー少女とジャンク屋を営みながら文明遺産を発掘します~  作者: 白黒鯛
第三章 未来世界のサルベージャー

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20/21

第十七話 緑の眠る熱砂を目指して★

 千年の深海の闇に眠っていた全地球記録の最終保管庫『藍色セクター』から、琥珀色のデータ保存用結晶体を無事に持ち帰り、三千年前の美しい花火大会の映像を再生したあの奇跡のような夜から数日。


 私とステラの秘密のセーフハウスは、次なる非合法サルベージの冒険に向けて、再び心地よい活気と超科学の駆動音に満たされていた。

 前回の深海探索の大成功と、表の顔である『ステラ・ジャンク・リカバリー』の大繁盛によって、私たちの手元には十万クレジットを遥かに超える、下層セクターでは考えられないほど潤沢な軍資金が残されている。おかげで、中央AIの監視の目を完全に遮断する最高級の隠蔽マテリアルも、日々の贅沢な有機合成食材も買い放題となり、私たちの共同生活の糖度は日を追うごとに増していくばかりだった。


「よしっ! 結晶体のデコード(解凍)ログから、次なるロスト・エリアの座標の完全な特定に成功したよ、ルナ! 海の次は……果てしなく広がる『砂の海』。この環境管理都市ネオ・エデンの外隔壁の向こう側に広がる、不毛の大砂漠エリアへと繰り出すわよ!」


 ステラがメインコンソールの前に陣取り、真っ赤なタイツで覆われた両脚を嬉しそうにバタバタと鳴らしながら、空中へ一枚の巨大なホログラムマップを展開した。

 そこに映し出されていたのは、ネオ・エデンの巨大なドーム構造物のさらに外側、熱線によって赤茶けて歪む、見渡す限りの広大な砂漠の立体映像だった。


「今から約千年前の激しい地殻変動の際、海の底に沈んだ『藍色セクター』とは逆に、大陸の激しい隆起と急速な砂漠化によって、完全に不毛の熱砂の下へと呑み込まれてしまった旧時代の巨大施設が存在するの。その名も、超巨大地下植物プラント――通称『翡翠セクター』よ! ここは当時、絶滅の危機に瀕していた地球上の様々な天然植物や、特殊な薬草の遺伝子コードを保護・育成していた、世界最大規模の地下緑化ドームだったと言われているわ。効率を重視して本物の自然を排除したこのネオ・エデンにおいて、そこはまさに、手つかずの超古代の財宝が眠る、緑のワンダーランド(ロスト・エリア)なのよ!」


「地下植物プラント……『翡翠セクター』。薬草の育成施設だなんて、なんだか異世界ユトラントの薬草園や、エルフの古き大森林を思い出させる響きね。そこへ行けば、私の魔法の触媒になるような特別な植物のデータや、当時のリアルな地球の植生が手に入るかもしれないのね」


 私はベッドの端に腰掛け、大きなサイバーヘッドホンをきゅっと位置調整しながら、その藍色から新緑へと移り変わる次なる冒険の舞台に、小さく胸を高鳴らせていた。

 大魔導師としての純粋な探求心、そして中身である高校生の少年の意識が持つワクワクするような冒険心が、ステラの熱い言葉によって心地よく煽られていく。


「そうと決まれば、さっそく砂漠用の『防砂・耐熱装備』のお着替えタイムだよ! 今回の衣装はね、私がルナのために、下層の高級ブティックの特注ハッキングスロットを使って、デザインからマテリアル構成まで、ミリ単位で完全プロデュースした自信作なんだから! ほら、まずはカーテンの向こうでこれに着替えてみて!」


「え⋯…」


 ステラはそう言うと、クローゼットから一着の、これまでに見たことがないほど洗練された美しい衣服の山を取り出して私へと手渡してきた。

 私は前回の『防水サイバースーツ』という、全身の身体のラインを完全に丸裸にされる極限のボディストッキングの洗礼を思い出し、再び「今度はどんな露出度の高いギャル服なのかしら……」と、胸の奥で少年としてのピュアな防衛本能ドギマギを全力で稼働させながら、おずおずと白いお着替えカーテンの向こう側へと足を踏み入れた。


 衣服を一枚ずつ身に纏うたび、その驚くほど軽やかで、しなやかな未来の最先端ハイテク素材の感触が、私の透き通るようなエルフの肌を優しく包み込んでいった。

 まずベースとなるのは、前回の防水スーツと同様に、砂漠の過酷な熱線や紫外線、そして衣服の隙間から侵入しようとする超微細な防砂粒子を完全にシャットアウトするための、肌に吸い付くようにタイトな黒のアンダーサイバースーツだ。これだけでも私の細いウエストや脚のラインがくっきりと強調されてしまうのだが、ステラが今回用意したデザインの『本命』は、その上に羽織る上着にあった。

 それは、砂漠の吹き荒れる強風に美しくたなびくように設計された、薄手で半透明の、ネオンブルーのエネルギーラインが各所に走る、フード付きの美しい『サイバー魔導ローブ』だった。

 未来の超科学で作られたその軽量コートは、私がユトラント世界において千年間、最高位の大魔導師として誇り高く身に纏っていたあの懐かしい「魔導ローブ」の神秘的なシルエットをベースにしながらも、現代のネオ・エデンの洗練されたスタイリッシュな未来的ストリートテックが、非の打ち所がない黄金比率で融合された、まさに私のためだけの特別仕様オーダーメイドの衣装だったのだ。


「……できたわ。ステラ、これで合っているかしら?」


 私は恥ずかしさよりも、そのあまりにも自分に馴染む衣服の完成度に小さく感嘆の声を漏らしながら、さらりとカーテンを開けて外へと足を踏み出した。


「――っ、……あ」


 カーテンの前に立っていたステラは、私の姿を目にした瞬間、まるで見えない電撃の魔法を全身に浴びたかのように、その場にカチリと完全に硬直した。

 彼女の琥珀色の瞳は、驚愕と、それを遥かに凌駕する狂気的なまでの胸のときめきによって極限まで見開かれ、その両頬はみるみるうちに沸騰したようになす術もなく真っ赤に染め上げられていく。


 鏡の中に映っていた私は、これまでの露出度の高さに羞恥していた美少女の姿ではなかった。

 漆黒のタイトなアンダーウェアの上に、半透明の琥珀色とネオンブルーの光を放つサイバー魔導ローブを優雅に羽織り、長い銀糸のような髪がフードの隙間から美しく流れ落ちている。大きなサイバーヘッドホンがエルフの尖った耳を自然にカバーしつつ、全体として、神秘的な大魔導師としての圧倒的な気高さと、未来世界のスタイリッシュな冷徹さが完璧に共存した、凄まじいビジュアルの輝きを放っていたのだ。


「う、うわぁぁぁぁぁぁっっっ!!! かっこいい……っ、かっこよすぎるよ、ルナァァァ!!! 何これ、私の想像を何千億倍も超越して、完全に一目惚れしちゃうレベルだよぉぉぉ!!!」


 ステラは突然、限界突破したオタクのように大音量で叫ぶと、ベッドの上から飛び上がって私の元へと肉薄してきた。そのまま、私のウエストに両腕を力強く巻き付け、私の胸元へと顔を思いっきり埋めてグリグリと擦り付け始める。お着替えのブーメランを食らって完全に心酔しきった彼女の甘い少女の体温が、ローブを通して私の肌へと直接伝わってくる。


「ちょ、ちょっとステラ、急に抱きつかないでってば! かっこいいって、私は女の子の服を着せられているのよ!?」


「やだ!離さない!今のルナ、外見は最高に可憐な美少女なのに、纏ってるオーラが完全に『世界を救う伝説の英雄イケメン』なんだもん! 私のハッキング脳がキュンキュンしてオーバーロードしちゃう!」


「もう、大げさね……」


 至近距離で顔を紅潮させ、潤んだ瞳で私を見上げてくるステラのあまりの純粋な熱量に、今度は私の中身の少年のピュアな動揺が猛烈な勢いで舞い戻ってきて、私のほうが顔を真っ赤にしてそっぽを向く羽目になってしまった。

 しかし、前回の防水スーツの時のように羞恥心でノックアウトされるのではなく、今回は大魔導師としてのビジュアルを全肯定された誇らしさが勝っており、二人のセーフハウスの空気は、最高に甘く、ストレスフリーな多幸感で満たされていった。


「さあ、お着替えが完璧に決まったところで、次は私たちの無敵の愛車のカスタマイズだよ!ガレージへ出発進行!」


 ステラに手を引かれ、私たちは再び最下層のガレージへと移動した。


 ガレージの中央には、前回深海の超高圧を完璧に耐え抜いた琥珀色の『魔導潜水艇エーテル・ポッド』が佇んでいた。

 今回は砂漠の仕様に変更するため、ステラは手際よく船体の下部から深海用のスクリューや重厚なバラストタンクを解体し、代わりに闇市場の軍資金で購入してきたリング状のの『反重力浮上ジェネレーター』を四基、機体の左右に前後一つずつボルト留めしていった。


「ルナ、ここからが魔法と科学の等価交換の見せ所だよ!このホログラム設計図の通りに、反重力ジェネレーターの出力ノズルへ、ルナの風の魔法の術式を直接刻み込んでほしいの!」


「ええ、お安い御用よ。――大気を駆ける無形なる風よ、我が魔力の軌跡に従い、地を滑る無敵の翼となれ」


 私は細い指先をノズルの特殊合金へと触れさせ、物質変生魔術『物質変生アルケミー』と、風の移動魔術の術式を並列で展開していった。

 私の指先から溢れ出した琥珀色の魔力粒子が、未来の反重力回路の隙間へと滑らかに染み込んでいき、科学の推力と魔法の風圧が、完璧な調和を保って融合していく。

 装甲の強度には、前回の深海仕様の多層次元構造がそのまま生きているため、砂漠のどんな流砂や岩石の衝突にもビクともしない。世界初の、砂の海を縦横無尽に滑走できる『魔導反重力ホバーエーテル・ホバー』の完成だった。


「完璧だよ、ルナ!システム同期率、常時九十九パーセントを維持!これなら、ネオ・エデンの外殻の外に吹き荒れる、最高風速五十メートルの超巨大砂嵐スーパー・サンドストームの中にだって、お茶の子さいさいで突入できちゃうわ!」


「ふふ、頼もしいわね。さあ、ステラ。不毛の熱砂の下に眠る『翡翠セクター』へ向けて、いざ出航よ!」


 私たちは完成したエーテル・ホバーの並列シートへと滑り込んだ。

 防砂サイバースーツと薄手の魔導ローブに包まれたお互いの身体の曲線が、狭いコックピットの中で否応なしにぴったりと密着し合う。彼女の太ももの確かな柔らかさと甘い体温が、私の脚へとダイレクトに伝わってくるが、もう私たちに照れはなかった。あるのは、これから始まる大冒険への、圧倒的なワクワク感と無敵の信頼感だけだ。


 ステラがメインレバーを力強く前方に押し出すと、エーテル・ホバーはガレージの気密ハッチを突き抜け、下層セクターの外縁部に位置する巨大な廃棄排気ダクトの闇を、猛烈な速度で上昇していった。

 やがて、前方の巨大なハッチがプシューと開放され、私たちの視界が急激に開けた。


「――っ、……わぁ……!」


 フロントの大型透過スクリーンに映し出されたのは、管理都市ネオ・エデンの快適な空調ドームの中からは絶対に拝むことのできない、圧倒的なスケールを持った『大自然の猛威』そのものの光景だった。


 見渡す限りの地平線まで、赤茶けた熱砂の波が幾重にも重なってうねりを上げ、頭上には、太陽の熱線が直接大気を歪ませる、どこまでも青く、そして残酷なほどに高い空が広がっている。

 遠方からは、砂の粒子を大量に巻き込んだ、視界を完全に遮断するレベルの巨大な砂嵐の壁が、生き物のように咆哮を上げてこちらへと迫りつつあった。

 普通の未来人が見れば絶望するようなその死の世界。しかし、私たちのエーテル・ホバーは、地表からわずか数十センチメートルの空間を反重力でふわりと浮遊したまま、砂の海の上を、まるで氷の上のスケート選手のように、驚くほど滑らかに、そして凄まじい速度で滑走を開始した。


「ヒャッホーーーウ!凄い、凄いよルナ!魔法の風圧が反重力ジェネレーターの熱を完全に冷却しながら、推進力を三倍以上に跳ね上げてる!砂の抵抗なんてゼロだよ!」


 ステラがレバーを握りながら、短い栗色の髪を風(艇内の空調)に揺らして、子供のように無邪気な笑顔を弾けさせた。

 ズゴォォォォッ!!!という凄まじい轟音と共に、私たちは前方の超巨大砂嵐の真っ只中へとダイレクトに突入した。視界は一瞬にして赤茶けた砂の粒子で完全にゼロとなり、数万発の弾丸のような砂礫が、もの凄い勢いで潜水艇の装甲へと叩きつけられる。


「ルナ、砂嵐の風圧と摩擦熱が最大値に達するわ!防壁システムの出力を上げて!」


「ええ、任せて。――光の理を敷き詰め、我が前に絶対の盾を築け。――『金剛光輪障壁ダイヤモンド・ライト・シールド』!」


 私は魔導ローブの袖から細い右手を伸ばし、コックピットのフロントガラスに向けて第二階梯・防御魔術を展開した。

 潜水艇の船体全体を包み込むようにして、淡い琥珀色の六角形の結界が美しく出現する。その瞬間、艇内を襲っていた激しい振動と、砂礫の衝突音は、文字通り一瞬にして『完全なる無音』へとシャットアウトされた。

 結界の内部だけは、ネオ・エデンの最高級ホテルのスイートルームよりも快適で、静かで、冷涼な空調が保たれた、完全なストレスフリーの快適空間セーフ・ゾーンと化していた。

 窓の外では世界が崩壊するような砂嵐が吹き荒れているのに、私たちはその中で、お互いの太ももを密着させながら、優雅に合成果実ジュースのストローを啜るという、あまりにも理不尽で愉快な砂漠ドライブを楽しんでいた。


「あはは、本当にルナの結界魔法は、この世界の物理法則に対する最大のハッキングね!外は風速五十メートルの地獄なのに、艇内は涼しくて、ルナの髪からすごくいい匂いがするくらい快適だもん!」


「もう、運転に集中しなさい、ステラ。……でも、前方の砂の波の底から、私の『物質解析』のセンサーに、明確な植物のマナの反応が返ってきているわ。――近いわよ」


「よしっ、それじゃあ一気に流砂の渦を突き抜けて、地下植物プラント『翡翠セクター』のメインハッチへエントリーするよ!しっかり掴まってて、私のイケメン大魔導師様!」


「だ、だからその呼び方はやめなさいってば……っ!」


 ネオンの海を越え、深海の闇を破り、私たちは今、熱砂の吹き荒れる世界の果てで、確かに新しい神話の扉を開こうとしていた。お互いへの無敵の信頼と、科学と魔法のチートなコンビネーションがあれば、この地球上のどんな過酷なロスト・エリアだって、ただの最高に楽しい二人のデートコースに過ぎない。

 エーテル・ホバーは琥珀色の光の尾を砂漠に残しながら、失われた新緑の財宝が眠る、翡翠の深淵へと向かって、最高速度で滑走を続けていくのだった。


挿絵(By みてみん)

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