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帰還したら西暦5000年でした ~TSエルフ大魔導師、歴史オタクの天才ハッカー少女とジャンク屋を営みながら文明遺産を発掘します~  作者: 白黒鯛
第三章 未来世界のサルベージャー

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第十四話 いざサルベージへ!★

 環境管理都市『ネオ・エデン』の第八下層セクターに、未知の熱狂をもたらした『ステラ・ジャンク・リカバリー』の一日看板娘計画。


 私が異世界ユトラントでの千年間におよぶ貴族社会での社交経験と、二十一世紀の日本におけるコンビニエンスストアでのアルバイト経験を融合させて披露した「完璧なるおもてなし」、そして構造解析魔術『物質解析アナライズ・マテリアル』による瞬時修理の神業は、泥と鉄錆に塗れた下層のジャンク乗りたちを完全に恐怖と感動の渦に巻き込んだ。

 その結果、店舗の売得金データバンクに刻まれた純利益は、ステラが最初に提示した十万クレジットのチップに加えて、さらに数万クレジットという莫大な追加資金を叩き出していたのだ。

 カウンターのホログラムディスプレイに表示された天文学的な数値を前に、ステラはしばらくの間、回路の焼き切れたドローンのように固まっていたが、やがてその琥珀色の瞳に不敵な、そして最高にエキサイティングな輝きを宿して私を振り返った。


「これだけの軍資金と、昨日集まったジャンク乗りたちからの口コミ情報があれば、ずっと温めていた『あの計画』に一気にフルコミットできるわ!ねえ、ルナ。私たちの等価交換の契約を、次のフェーズへ進めよう!」


 ステラが興奮気味にメインコンソールへ飛びつき、真っ赤なタイツを履いた脚を忙しなく動かしながら展開したのは、これまでの都市マップのさらに下層、物理的な限界深度を超えた領域を示す、深い藍色の立体ホログラムだった。


「これまでに私が中央AIの厳重な防壁を潜り抜けてサルベージした断片データによると、このネオ・エデンの遥か真下、今から約千年前の地球の地殻変動に伴う大津波によって、完全に水没した旧時代の海洋研究施設が存在するの。通称『藍色セクター』。現在の管理都市の公式アーカイブからは、なぜか不自然なほど意図的に、その存在自体が根こそぎ抹消されている最高機密の領域ロスト・エリアよ。そこには、今の効率主義の未来世界が捨て去った、超古代のロスト・テクノロジーや、あなたのいた時代に繋がる貴重な地球の遺物がそのまま眠っている可能性が極めて高いわ!」


「千年前の水没施設……。私のいた二十一世紀前半から見れば二千年後の未来だけど、今のあなたたちから見れば千年前の過去、ということね。国名も歴史も失われたその場所に、私の故郷の足跡が眠っているかもしれないのね」


 私は胸の奥が微かに震えるのを感じた。

 中央AIが意図的に歴史を隠蔽しているという事実。そこに、私がこの時代に還ってきた意味が隠されているのかもしれない。大魔導師ルナリアとしての冷徹な探求心と、五十鈴飛鳥としての郷愁が、その藍色の未知なる領域へと強く惹きつけられていた。


「そうと決まれば、善は急げだよ! 闇市場のディーラーに掛け合って、深海の凄まじい水圧に耐えられる特別な骨董品――『深海潜水艇ポッド』の基本フレームを丸ごと買い付けてきたわ! 今からガレージで、私たちの手で最高に尖った仕様にカスタマイズするよ!」


 ステラに導かれ、私はセーフハウスの最下層にある、広大なプライベートガレージへと移動した。

 ガレージの中央には、鈍いチタン合金の輝きを放つ、直径三メートルほどの卵型の深海潜水艇が鎮座していた。

 長年放置されていたのか、装甲の随所に微かな塩噛みの痕跡や錆が見られるが、内部の動力機関の基本構造は確かに生きているようだ。

 深海の過酷な水圧と、水没施設内に今なお残存している可能性が高い自律型の防衛システム(セキュリティドローン)に対抗するためには、この骨董品をそのまま使うわけにはいかない。

 私たちは作業着代わりの衣服に身を包み、未来の超科学工具を手に、潜水艇の強化作戦を開始した。


「ルナ、そっちの反重力マニピュレーターの固定ボルトをレーザーレンチで締め付けて!内部のプラズマ配線は私がハッキングしてバイパスを繋ぎ直すから!」


「ええ、分かったわ。この位置で固定すればいいかしら?」


 未来のレーザー工具から放たれる鮮やかな光が、薄暗いガレージを不規則に照らし出す。私はエルフの優れた動体視力と器用な指先を駆使し、ステラの指示通りに複雑な機械パーツを組み上げていった。

 しかし、元は車両用の狭いガレージだ。大型の潜水艇と、周囲に乱雑に置かれた追加の重機パーツ、そして無数のホログラム設計図が空間を埋め尽くし、私たちの作業スペースは次第にすれ違うのもやっとというほどに狭くなっていった。


 トラブルは、カスタマイズが中盤に差し掛かった、まさにその瞬間に発生した。

 ステラが潜水艇の上部ハッチに登り、大型の『高出力駆動ジェネレーター』をクレーンで吊り下げて固定しようとした時、劣化した固定フックが未来の強力な磁気過負荷によって、パチンと不吉な音を立てて弾け飛んだのだ。


「――っ!? しまっ――、クレーンの磁気固定が切れた!?」


 数十キログラムはある重厚な金属の塊であるジェネレーターが、バランスを崩し、真下にいたステラの方へと猛烈な勢いで傾き、落下し始めた。未来のナノ結晶合金とはいえ、生身の十七歳の少女の身体にこれが直撃すれば、骨折どころでは済まない。


「ステラっ!」


 私の身体は、完全に思考を置き去りにして躍動していた。

 前世である二十一世紀の日本において、私は二歳下と四歳下の二人の妹を持つ、三きょうだいの長男だった。

 幼い妹たちが、高い棚から落ちてきた荷物に押し潰されそうになったとき。あるいは、自転車に衝突しそうになって道路で立ちすくんでいたとき。私はいつも、自分の身の安全など顧みず、全力で彼女たちの身体を突き飛ばし、あるいは抱きすくめて守ってきた。

 その長年、魂の奥底に染み付いていた「兄としての絶対的な保護本能」が、大魔導師のエルフとしての超人的な身体能力を介して、無自覚に限界突破のスピードで発動したのだ。


 私は床を強く蹴り、一瞬にしてステラの元へと肉薄した。落下の軌道上にいた彼女の華奢なウエストを、私の細い両腕で力強く、けれど壊れ物を扱うように優しく引き寄せ、そのまま自分の胸元へと強く抱きすくめた。

 ドスン!!!という、ジェネレーターが床の金属板を激しく凹ませる凄まじい衝撃音がガレージに轟き、火花が私たちのすぐ側をかすめて飛び散る。

 私はステラを抱きかかえたまま、潜水艇の装甲壁に背中を預けるようにして、彼女の身体を完全に私の肉体の下へと庇い隠していた。


 ガレージを支配する、重苦しい沈黙。

 私の胸の中で、ステラの小さな身体が、恐怖と驚きで微かに震えているのが伝わってくる。私は彼女を抱きしめる腕の力を少しだけ緩め、顔を覗き込んだ。

 中身が男だとか女だとか、そんなことは完全に忘れていた。ただ、妹のような大切な相棒を救えたという安堵感だけが私の心を支配しており、私の口からは、前世の長男時代に妹たちを落ち着かせるために使っていた、あの少し低めで、信じられないほど凛としたイケメンすぎるトーンの言葉が、自然と零れ落ちていた。


「……怪我は無い、ステラ? 突発的なシステムの不具合とはいえ、危なすぎるわ。これからは、絶対に私のそばを離れないで。いいわね?」


 私は彼女の短い栗色の髪を、左手で優しく、ぽんぽんと宥めるように撫でながら、真っ正面から彼女の瞳を見つめた。

 エルフの美しい顔立ちが、内面にある妹二人の兄として培われた精神の絶対的な包容力と凛々しさを伴って、至近距離から注がれる。

 その瞬間、ステラは言葉を完全に失ったようにフリーズした。

 彼女の琥珀色の瞳が、驚きと、それ以外の強烈な感情で激しく波打ち、次の瞬間には、顔中どころか、首元、そして露出した鎖骨のあたりまでが、カッと沸騰したようになす術もなく真っ赤に染め上げられていったのだ。


「あ、あ、う、ル、ルナ……あの、その、距離が、ち、近いっていうか、お兄ちゃん、じゃなくて、あの……っっ!」


 いつもなら私に露出の高い服を着せて楽しそうに笑っている攻め気全開のステラが、今や私の胸の中で、完全にウブな子猫のように縮こまり、両手を胸の前で小さく握りしめてカタカタと震えている。

 その立場の完全な逆転劇に、私は数秒遅れて「あ、今のムーブは完全に前世の男(お兄ちゃん)のやつだった!」と気づき、途端に猛烈な気恥ずかしさがブーメランのように自分自身に返ってきた。


「コ、コホン! 失礼、取り乱したわ。でも、本当に無事でよかった」


 私は大慌てで彼女の身体を離し、エルフの耳の先まで真っ赤にしながら、誤魔化すように床に落ちたジェネレーターへと視線を向けた。ステラもまた、膝を折るようにしてベッドスツールへと転がり込み、顔を両手で覆って「心臓が爆発するかと思った……」と小さくブツブツと呟いている。


 お互いに強烈なドギマギを胸に抱えながらも、私たちは気を取り直してカスタマイズの最終工程へと移行した。ここからは、大魔導師としての私の本領発揮だ。


 私は闇市場で購入した、未来の超科学の結晶である『特殊伝導合金』を潜水艇の基本装甲の上へと配置した。そして、細い指先をその冷たい金属の表面へと滑らせ、ユトラント世界における高度な錬成魔術の術式を脳内で高速展開していく。


「――ことわりを変質せよ。無機なる殻に我がマナの回路を刻み、深淵の圧力に耐えうる絶対の器へと変生せよ」


 私の唇から、美しくも威厳に満ちた異世界の詠唱が紡がれる。

 発動させたのは、物質変生魔術――『物質変生アルケミー』。

 指先から溢れ出した琥珀色の魔力粒子が、潜水艇のチタン装甲へと吸い込まれるように染み込んでいき、金属の分子構造そのものを原子レベルで再構築していく。未来の超科学合金が、魔法のマナと融合し、鈍い輝きから、深みのある神秘的な琥珀色の光沢を放つ未知の素材へと変生していく。


「凄い……っ!科学の分子結合が、魔法のコードによってさらに強固な、多層次元構造に書き換えられていく……!」


 ステラが照れを忘れてスキャナーの画面に齧り付く。画面には、水深数千メートルの超高圧にもビクともしない、理論上あり得ないレベルの防御数値が表示されていた。


 私はさらに、潜水艇の推進ジェネレーターの核へと私の魔力を直接接続し、船体全体に結界魔法を常時展開できるシステムを構築した。ステラの持つ未来の反重力テクノロジーと、私の異世界の魔術理論が、完璧な形で噛み合った瞬間。


「できたわ。世界で初めての、科学と魔法の結晶――『魔導潜水艇エーテル・ポッド』の完成よ」


 私が誇らしげに告げると、ステラは「これなら藍色セクターのどんな防衛システムだって防ぎきれるわ!」と、再び目を輝かせて歓喜の声を上げた。

 しかし、そんなメカニック日常での爽快な達成感の後に、私にはさらなる「最大の洗礼」が待ち受けていた。


 カスタマイズを終え、いよいよ出発の準備を整えるため、私たちはセーフハウスの居住スペースへと戻った。するとステラは、クローゼットの奥から、不敵な笑みを浮かべながら「これがないと深海には潜れないからね!」と、二着の衣服を取り出してきたのだ。

 それを見た瞬間、私の中の男子高校生・五十鈴飛鳥は、昨日のお着替えの時を遥かに凌駕するレベルの、猛烈な絶望の悲鳴を上げた。


「……嘘でしょう? ステラ、冗談だと言ってちょうだい」


「冗談じゃないよ! これが深海サルベージ用の最高級装備、『高圧補助ナノ防水サイバースーツ』だよ! 深海の凄まじい水圧から生身の肉体を保護して、ナノマシンを介して皮膚全体に酸素を供給するためには、これ以外の選択肢はないんだから!」


 ステラが掲げたのは、最新のストリートウェアなど生温いと感じるほどの、凄まじい衣服――いや、もはやただの『皮膚』だった。

 光沢のある特殊な漆黒の軽量素材で作られたそのスーツは、ボディストッキングのように全身を覆うデザインになっており、布地の厚みは紙のように薄い。ネオンブルーのエネルギーラインが各所に走っているが、およそ「体型を隠す」という概念が、最初から欠片も存在していない。

 着用すれば、身体のライン、凹凸、肉体の曲線美のすべてが、文字通り完全に丸裸にされてしまうタイプの、極限のタイトウェアだった。


「だ、駄目よ! こんなの、本当にただの裸と変わらないじゃない! これを着てステラの前に出るなんて、恥ずかしくて私の魔術回路がショートしちゃうわ!」


「何を言ってるの、ルナ! 深海で水圧に押し潰されてペシャンコになりたいの!? ほら、これは命に関わる装備なんだから、早く着替える! ……あ、このスーツ、背中のエネルギーファスナーの結合だけは外部から手動でロックしないと機能しないから、お互いに閉め合おうね?」


「えええええええええっっっ!? し、閉め合うって、お互いにそれを見るってことじゃないのよぉ!」


 私の必死の抵抗も虚しく、命の危険を引き合いに出されては拒否する権利などなかった。

 セーフハウスの白い部屋のカーテンを隔て、私たちはそれぞれ、その漆黒のサイバースーツへと身体を通していくことになった。


 ――サラリとした、信じられないほど滑らかなハイテク素材が、私のエルフの肌に密着していく。

 着用した瞬間、私は自分の輪郭が、衣服によって限界まで締め上げられ、強調されていく感覚に襲われた。お腹のラインはもちろん、細いウエスト、しなやかな太ももの曲線、そして胸元のふくらみに至るまで、スーツは容赦なく私の完璧なエルフの美少女としてのグラマラスなプロポーションを、くっきりと浮き彫りにしていった。


「ル、ルナ……着替え、終わった……? 背中のファスナー、閉めるから、こっち向いて……」


 カーテンの向こうから、ステラのかすれた声が聞こえた。私は恥ずかしさのあまり自分の両腕で胸元とお腹を必死に隠しながら、おずおずとカーテンを開けた。

 その瞬間、私とステラは、お互いの姿を目にしたまま、完全に石化フリーズした。

 目の前にいたステラは、普段のストリートファッションの時とは全く違う、圧倒的な「健康的な十七歳の肉体美」を、その漆黒のスーツの下に晒していた。

 衣服の遮るものがなくなったことで、彼女の引き締まったウエストのラインや、真っ赤なタイツの時以上に生々しく強調されたしなやかな両脚の曲線が、至近距離から私の網膜へとダイレクトに飛び込んできたのだ。

 中身が男子高校生である私にとって、これはあまりにも刺激が強すぎる、文字通りの『暴力的なビジュアルの洗礼』だった。脳内の処理能力が瞬時にオーバーヒートを起こし、鼻血が出そうになるのを必死に堪える。

 だが、ダメージを受けていたのは、ステラのほうも全く同じ――いや、それ以上だった。


「……っ、……あ」


 ステラは私の姿を見るなり、その琥珀色の瞳を極限まで見開き、呼吸を完全に停止させていた。

 鏡を見なくても分かった。漆黒のサイバースーツに包まれた私の姿は、銀糸のような長い髪と相まって、現実離れした神秘性と、衣服によって限界まで強調されたしなやかなエルフの曲線美が、この世のどんな芸術品よりも官能的で、美しいシルエットを描いていたのだ。


「す、凄すぎるよ、ルナ……っ。あなた、スタイルが良すぎるっていうか……、これ、私の最新のスキャナーのグラフィックなんかより、何億倍も……っ」


「み、見ないでよステラ! 早く、早く背中のファスナーを閉めてちょうだい!」


 私は恥ずかしさのあまり、涙目になりながらステラに背中を向けた。背中を向けても、スーツの密着感のせいで、自分の背骨のラインまで見られているのが分かって、恥ずかしさで尖った耳の先から首筋までが茹で上がるように熱い。


 ステラは震える指先で、私の背中にあるネオンブルーのエネルギーラインのファスナーに触れた。彼女の細い指先が、スーツ越しに私の背中に触れるたび、エルフの敏感な神経がビクリと跳ね、私は小さく「ひゃんっ」と声を漏らしてしまった。その声に、ステラのほうも「うわぁっ!?」と変な声を上げて激しく動揺している。


「ご、ごめん!今閉めるから!ロックオン、結合完了!」


 パチリと電子ロックが締まり、スーツが私の肉体に完全に同期して、皮膚全体に心地よいナノ酸素の循環が始まる。

 今度は私が振り返り、顔を真っ赤にしてそっぽを向いているステラの背中のファスナーを閉める番だった。彼女の引き締まった背中の感触が、私の指先に直接伝わってくる。彼女の肌の温もり、少女としての柔らかな肉体の実感が、スーツの薄い膜を通して私の手のひらに伝わるたび、前世の男子高校生としての理性が「これは等価交換の契約の一部、これは深海を生き抜くための不可抗力……!」と、狂ったように脳内で呪文のように自己暗示を繰り返していた。


 お互いに背中のファスナーを閉め合い、仕上げに私の大きなサイバーヘッドホンを頭に装着した頃には、二人の顔はこれ以上ないほど真っ赤に変色し、ガレージの空気は完全に糖度を増して飽和していた。

 前半戦では私の「お兄ちゃんムーブ」でステラをウブに照れさせたが、後半戦のこの「防水サイバースーツ」という不可抗力のビジュアルの暴力を前に、私の中身の男の意識は、文字通り手痛いブーメラン(致命傷)を食らって完全にノックアウトされていた。

 けれど、恥ずかしがっている時間は、もう残されてはいなかった。

 私たちは完成した琥珀色の『魔導潜水艇エーテル・ポッド』の狭いコックピット内へと、滑り込むようにして乗り込んだ。


 二人乗りのシートは驚くほど狭く、漆黒のサイバースーツに包まれたお互いの肩や太ももが、否応なしにぴったりと密着し合う。お互いの身体のラインの感触がダイレクトに伝わってくるが、ステラがコンソールのメインスイッチを入れると、フロントの大型透過スクリーンに、廃棄エリアの最下層を流れる、広大な地下水路の黒い水面が映し出された。


「……よし、全システム、魔法マトリクスとの同期率、九十八パーセントを維持。エーテル・ポッド、出航するよ、ルナ」


 ステラが照れを押し殺し、真剣な技術者の表情となってメインレバーを前方に押し出した。

 ゴォォォォという、反重力推進ジェネレーターの低い、けれど力強い駆動音が船体に響き渡る。潜水艇はセーフハウスの地下ガレージから直接繋がっている地下水路へ勢いよく濁流の中へとダイブした。


 バシャアァァァン!!!と激しい水飛沫がスクリーンを覆い、次の瞬間には、私たちは完全に「水の底」の世界へと囚われていた。

 地下水路の狭い暗闇を突き抜け、潜水艇はさらに深く、ネオ・エデンの最下層の基盤を潜り抜けていく。

 やがて、前方の視界が急激に開けた。

 そこは、太陽の光など一滴も届かない、永遠の夜が支配する未知の漆黒の深海だった。


挿絵(By みてみん)


 潜水艇の強力なサーチライトが、深海の闇を切り裂いて前方を照らし出す。

 その光の先に見えてきたのは、現在の効率的な管理都市の姿とは明らかに異なる、どこか歪で、けれど圧倒的なスケール感を持った、旧時代の巨大な構造物のシルエットだった。

 幾重にも重なる巨大な水中ドーム、崩落した連絡通路、そして海底の泥に半ば埋もれるようにして静かに佇む、かつての海洋研究施設の巨大な外壁。

 千年前に地殻変動の津波によって水没し、歴史から完全に抹消された古代のロスト・エリア――通称『藍色セクター』が、サーチライトの琥珀色の光の中に、その不気味で、神秘的な姿を現したのだ。


「……あれが、藍色セクター。私たちが挑む、最初の古代の遺跡ロスト・エリアだよ、ルナ」


 ステラがヘッドホンの通信回線を介して、緊張の入り混じった、けれど確かな興奮を秘めた声で呟いた。

 私は漆黒のサイバースーツの胸元を小さく押さえながら、潜水艇の窓の外に広がる、千年前に失われた海上施設の寂れたシルエットをじっと見つめていた。私の放つ魔力と、彼女の紡ぐ科学の力が、今、静かにその海底の遺構へとアプローチを開始していく。


 恥ずかしさを越えたその先に待つ、失われた過去の真実を求めて。二人の、世界を揺るがす本格的な冒険編の幕が、今、静かに、けれど激しく上がろうとしていた。


挿絵(By みてみん)

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