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帰還したら西暦5000年でした ~TSエルフ大魔導師、歴史オタクの天才ハッカー少女とジャンク屋を営みながら文明遺産を発掘します~  作者: 白黒鯛
第二章 エルフとハッカーの等価交換

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12/21

第十話 初めての売買、初めての戦い★

 私が異世界ユトラントで培った構造解析魔術『物質解析アナライズ・マテリアル』によって、ナノレベルのを一瞬で特定し、修理の足がかりを得た多目的自立作業用ドローンのコア基盤。

 ステラがその神業じみた解析データをもとに、最新のレーザー溶接マニピュレーターを手際よく操って結節点を再結合させると、まるで最初から壊れてなどいなかったかのように、立方体の金属コアは美しく均質な青い量子光を放って完全に安定した。


 作業台の上で静かに明滅を繰り返すその超高性能基盤を愛おしそうに見つめながら、ステラはトレードマークである真っ赤なタイツを履いた脚を何度も小刻みに弾ませ、これ以上ないというほどの満面の笑みを私に向けてきた。


「完璧、完璧だよルナ! 中央AIのプログラミング追跡を完全に欺いた上で、初期出荷状態以上の量子伝達効率を叩き出してるわ! スキャナーのノイズエラーを力技で視覚化しちゃうなんて、本当にあなたの『魔法』ってやつは、この世界のどんな最高級マルチツールよりも理不尽で、そして最高に魅力的ね!」


「ふふ、喜んでもらえてよかったわ。ユトラントの遺跡に眠る古代遺物は、もっと複雑に呪いや防衛術式が絡み合っていたから、この程度の回路の歪みを読み取るくらい、お安い御用よ」


 私は大きなサイバーヘッドホンをきゅっと位置調整しながら、少し得意気に胸を張ってみせた。

 外見はどこからどう見ても可憐な銀髪のエルフの少女、中身も半ば以上外見通りだけど、その精神の根底には、二十一世紀の日本でごく普通の男子高校生として生きていた「五十鈴飛鳥」としての小市民的な喜びも確かに混ざり合っている。

 自分の能力が、この三千年後の超未来の地球で、自分を救ってくれた大切な少女の役に立った。その事実が、胸の奥をじんわりと温かい高揚感で満たしていく。


「よしっ、それじゃあルナ! 等価交換の契約の第一歩として、この極上の獲物を最高値で売り捌きに行こう! 私たちがこれからこの『ネオ・エデン』の下層で誰も寄せ付けずに生きていくための、記念すべき最初の軍資金を稼ぐのよ!」


 ステラは手際よくコア基盤を電磁遮蔽仕様の黒いアタッシュケースへと収めると、私の手を引いて作業場を飛び出した。


 再び足を踏み入れた環境管理都市『ネオ・エデン』の第八下層セクターは、先ほどの散策時よりもいっそうその混沌と狂気を深めているようだった。空中回廊の遥か上空を無音で飛び交う反重力シャトルの光は、下層に広がる重苦しい湿気と鉄錆の匂いに遮られ、毒々しい紫やピンクのネオンの霧となって人々の頭上に降り注いでいる。


 私はステラにコーディネートされた、ギャル系サイバーファッションのせいで、周囲を行き交う市民たちの視線が気になって仕方がなかった。

 しかし、すれ違う人々は、腕が丸ごと金属の義肢になっていたり、人工の眼球サイバーアイを怪しく明滅させていたりと、およそ私の知る「人間」の概念から逸脱した者ばかりだ。ある意味私より余程目立つ外見の市民たちで、すぐに気にする必要がないことに気づいた。


 ステラは慣れた足取りで空中回廊の分岐を幾度も曲がり、やがて通常の市民が立ち入らないような、急勾配のスチール製の階段を下りていった。下へ行けば行くほど、建物の壁面を彩るホログラム広告はノイズで激しく歪み、剥き出しになった太いパイプからは正体不明の蒸気が激しく噴き出している。


 たどり着いたのは、錆び付いた巨大な防潮扉の向こう側に広がる、文字通りの『闇市場ブラックマーケット』だった。


「――ここが下層セクターの心臓部、通称『グリッド・バザール』だよ。中央AIの監視衛生が物理的に遮断された、この街で最も自由で、最も危険な場所ね」


 ステラが私の耳元で小さく囁いた。

 そこは、幾重にも重なる巨大なジャンクビルの地下空間をぶち抜いて作られた、巨大な市場だった。天井からは無数の違法光回線がスパゲティのように垂れ下がり、怪しげな露店がひしめき合っている。


 露店の棚に並んでいるのは、軍事用のレーザーライフル、出所不明の記憶転送ナノマシン、カプセルに入った違法な遺伝子調整薬、そして剥き出しの頭脳が液体の中で明滅するサイバーコアなど、二十一世紀の地球でも、異世界ユトラントでも見たことがないような、退屈な倫理観を嘲笑う超科学の闇の産物ばかりだった。


「凄いところね……。魔法の気配は微塵もないのに、人間の欲望の濃度だけは、ユトラントのどの奴隷市場や暗黒街よりも濃いわ」


「ルナ、不用意に周囲の露店の商品に触っちゃ駄目だよ。網膜スキャン一発で勝手に口座から電子マネーを引き落とされる違法ワンクリック詐欺が横行してるからね。私の後ろにぴったりついてきて」


 ステラはアタッシュケースを厳重に抱え込み、素早く雑踏をかき分けていく。市場の奥に進むと、他の露店とは明らかに雰囲気が違う、分厚い装甲板で囲まれた一軒の店舗が見えてきた。

 入り口には、機械のホログラムで「不具合解析・高価買取」の文字が不規則に明滅している。


「あそこが今日の取引相手、ジャンク屋仲間の間でも一番羽振りがいい闇ディーラーの『ジャック』の店だよ。中央AIのプログラミングを解除したパーツを専門に扱ってるの」


 ステラが店の電子ロックを叩くと、プシューという不快な排気音とともに分厚い金属扉が開いた。

 店内に足を踏み入れると、そこは壁一面に精密な測定器が並ぶ、まるでサイバー研究所のような空間だった。

 カウンターの奥に座っていたのは、全身の半分以上が完全に機械化された大柄な男――ジャックだった。彼の右顔面は完全に金属のプレートで覆われており、埋め込まれた三つのサイバーアイが、ズームレンズのような駆動音を立てて私たちを捉えた。


「おいおい、誰かと思えば、廃棄エリアの生意気な小娘じゃないか。隣にいる極上の銀髪嬢ちゃんはなんだ? 新しいハッキングの助手か?」


 ジャックの喉に埋め込まれた人工音声合成器が、金属質の低い笑い声を響かせる。彼のサイバーアイが私のお腹や銀ラメタイツの脚、そして耳元のヘッドホンを舐めるようにスキャンしていくのを感じて、私は本能的にステラの背後に身を隠した。中身の飛鳥が「このオヤジ、目がエロくてキモい!」と叫んでいた。


「色目を使わないでよ、ジャック。彼女は私の大事なパートナー。それより、最高の掘り出し物を持ってきたわよ。あんたの安いサイバーアイが飛び出るような、極上のコア基盤」


 ステラは迷うことなく、黒いアタッシュケースをカウンターの上に置き、パチリとロックを解除した。

 蓋が開かれ、室内の薄暗い照明の中に、青く、完璧に均質な量子光を放つ多目的自立作業用ドローンのコア基盤が姿を現した。


「……ほう?」


 ジャックの三つのサイバーアイが一斉に激しく回転し、ピントを合わせるようにカチカチと音を立てた。彼は金属の義手を入念に消毒してから基盤を取り出し、壁の大型測定器へと接続した。

 数秒の後、測定器のディスプレイに、信じられないほどの高数値を意味する、鮮やかな緑色のグラフが次々と表示され始めた。


「な……なんだこれは……!? 旧型の作業用コアだと聞いていたが、量子伝達エラーが完全にゼロ……!? ナノマシンの自己修復コードが、メーカーの初期設定すら書き換えられて、完璧な最適化プログラムに最適化されている……! ステラ、お前、どこからこれを強奪してきた!?国や大企業の研究所にあるレベルの代物だぞ」


「企業の型落ちのゴミを拾って、私たちが少し手を入れただけよ。どう? これなら下層の警備ドローンのコアに組み込めば、性能が三倍は跳ね上がるわ。いくらで買ってくれる?」


 ステラは勝ち誇ったように胸を張り、真っ赤なタイツの脚をトントンと鳴らした。ジャックは金属の指先で顎のプレートをガリガリと引っ掻き、信じられないものを見る目で基盤とステラを交互に見つめていた。私の物質解析魔法によるナノレベルの物理修復が、この未来の専門家にとっても「神域の技術」に見えているのだ。


「……認めざるを得ないな。この下層じゃ、これほど完璧なクオリティの『クリーン・コア』は滅多にお目にかかれない。よし、分かった。ステラ、お前の腕前と、そこの銀髪の嬢ちゃんの幸運に免じて……『クレジット・チップ』で、十万クレジットだ。これ以上の値は、ひっくり返っても出せねえ」


 ジャックはカウンターの下から、鈍い金色に発光する細長い金属製のチップを取り出した。この時代の、中央AIの監視を受けない闇市場専用の、物理的な高額電子マネー(クレジット・チップ)だ。


「十万……っ!?」


 ステラが思わず息を呑むのが分かった。十万という価格を聞いた私はごく自然にユトラントでの金銭感覚(金貨十枚くらいかしら?)で考えていたが、ここは地球だからと改めて二十一世紀の金銭感覚(十万円?)に置き換えてみた。

 しかし、ステラの興奮ぶりを見るに、どうやら二十一世紀地球、ユトラントどちらの大金の感覚を超えているみたい。どうやら彼女のハッキングやジャンク屋の稼ぎの数ヶ月分に相当する大金らしい。

 私は未来の世界での相当な「大金」を手にしてしまったのだと理解した。


「取引成立よ、ジャック。やっぱりあんたは話が分かるわね!」


「へっ、気が変わらないうちにさっさと持って行きな。……ただし、ステラ。そんな大金を持ったガキ二人が、このグリッド・バザールを無傷で帰れると思うなよ。下層のネズミどもは、いつでも血の匂いと、金の匂いに敏感だからな」


 ジャックの警告は、あまりにも正確な予言だった。

 十万クレジットのチップをジャケットの内ポケットに厳重にしまい込んだステラと共に、私たちは闇市場の喧騒を抜け、再び居住区へと続く薄暗い下層の路地裏へと足を踏み入れた。


 行きよりも、周囲の空気が妙に張り詰めているのを感じる。ネオンの光が届かない闇の奥から、無数の「視線」が、私たちの背中に突き刺さっていた。


「ルナ、ちょっと歩く速度を上げて。……完全に付けられてるわ」


 ステラが私の手を握る力が、急激に強くなった。彼女の短い栗色の髪が、緊張の汗で微かに濡れている。

 私はエルフの並外れた聴覚を働かせた。背後の暗闇から、カチ、カチ、という、生身の人間のものではない、金属の足音が不規則に、けれど確実に私たちの距離を縮めてきているのが聞こえる。


「……前方の角にも、三人いるわね」


 私の言葉と同時に、前方の一際暗い路地裏の影から、三つの人影がヌッと這い出してきた。さらに背後からも二人の人影が現れ、私たちは完全に、幅数メートルほどの狭い金属壁の路地裏で挟み撃ちにされてしまった。


「ひゅーう、ジャックの店でいい獲物を引っ掛けたじゃねえか、お嬢ちゃんたち」


 前方を塞ぐ男たちの一人が、下卑た笑い声を上げた。

 彼らの姿は、およそ正気の沙汰とは思えなかった。衣服はボロボロのストリートウェアだが、露出した両腕は剥き出しの金属パイプと油まみれの油圧シリンダーで構成されており、顔面の大半には、赤く不気味に発光するサイバーアイが幾つも埋め込まれている。

 手には、高周波で微かに振動し、壁の金属を容易く切り裂く『モノ分子カッター』や、プラズマの電撃を放つ『違法スタンガン』が握られていた。


「マズい……サイバーギャングだ……」


 ステラが震える声で呟いた。

 下層セクターの治安の届かない闇に巣食う、略奪と肉体改造を繰り返す狂気の集団――『サイバーギャング』だという。


「そのジャケットの中にある金色のチップを大人しく置いていきな。そうすれば、その綺麗な銀髪の嬢ちゃんを、バラバラにして闇のパーツショップに売るのだけは勘弁してやるよ。……ヒャはははは!」


 ギャングのリーダー格の男が、モノ分子カッターを威嚇するように激しく振るった。高周波の駆動音が、狭い路地裏にワンワンと不快に響き渡る。

 ステラは私の前に立ち塞がるように一歩踏み出し、手首の端末を起動させた。


「ふざけないでよ、このクソネズミども! 私の店のエリアで好き勝手できると思ってるわけ!? 中央AIに通報されたくなければ、さっさとその錆び付いた義肢を引きずって失せなさい!」


「ハッ、中央AIだと? この第八下層の電磁遮蔽エリアに、そんなもんの目が届くわけねえだろ! ガキが生意気な口叩いてんじゃねえぞ!」


 男が一歩、凄まじい駆動音を立てて踏み込んできた。その速度は、油圧シリンダーの力によって、人間の限界を遥かに超えていた。モノ分子カッターが、ステラの首元を目掛けて容赦なく振り下ろされる。


「ステラ……っ、下がって!」


 飛鳥としての少年時代の記憶と正義感、そしてルナリアとしての千年の戦いの本能が、私の身体を突き動かした。

 私はステラの華奢な肩を掴んで強引に自分の背後へと引き込むと、露出した私のお腹の前に、左手を力強く突き出した。


 襲い来る未来の超科学兵器。けれど、私にとっては、異世界の魔獣が振り下ろす鋭い爪や、暗殺者が放つ投擲短剣と何ら変わりはなかった。流れる時間は、私の天才的なエルフの脳内では、驚くほど緩やかに減速していく。


「――光の理を敷き詰め、我が前に絶対の壁を築け!」


 脳内で超高速の魔法構築が完了する。すっかり染み付いた美しい女性の声が、路地裏の鉄錆びた大気を震わせた。

 発動させたのは、防御魔術――『光障壁ライト・シールド』。


 キィィィィィン――ッ!!!


 路地裏に、鼓膜を破らんばかりの、激しい高周波の衝突音が炸裂した。

 ギャングの男が振り下ろしたモノ分子カッターの刃は、私の手元、わずか数十センチの空間に突如として出現した、淡い六角形の琥珀色の結晶光の壁によって、完全に受け止められていた。火花すら散らない。物理的なエネルギーが、魔法という未知のシステムによって、完全に相殺され、霧散していく。


「な……ッ!? なんだこれは……!? ホログラムの防護盾か!? ナノマシンの気配がねえぞ!?」


 男はサイバーアイを狂ったように点滅させ、あり得ない現実にうろたえた。

 背後では、ステラが「う、嘘……っ! これが、本物の魔法……っ!?」と、恐怖を忘れて目を輝かせ、呼吸を荒くしている。


「科学の武器がどれほど進歩しようとも、万物の根源たるマナの盾を穿つことはできないわ。……さあ、等価交換の契約の一部よ、ステラ。あなたの敵は、私が全員排除してあげる」


 私は鏡の前でお着替えをさせられていた時の気恥ずかしさを完全に消し去り、大魔術師としての冷徹な笑みを浮かべた。黒いレザースカートの裾を翻し、一歩前へと踏み出す。

 挟み撃ちにしていた前後のギャングたちが、未知の現象への恐怖を打ち消すように、一斉に咆哮を上げた。


「ハッ、ハッタリだ! 囲んで一斉に蜂の巣にしちまえ!」


 背後の二人が、プラズマを放つ違法な短機関銃サブマシンガンの銃口を私に向けてきた。バババババ、と激しい発射音が狭い空間に反響し、青白いプラズマの弾丸が、私とステラを目掛けて容赦なく降り注ぐ。

 しかし、私は焦らない。左手で『光障壁』の術式を維持したまま、今度は右手を天へと掲げ、脳内で次の呪文を高速展開ビルドしていく。


 未来の武器は、弾丸自体に強烈な熱エネルギー(プラズマ)を宿している。ならば、その熱のベクトルを、さらに上位の「魔法の炎」で包み込み、圧殺してしまえばいい。


「――集え、赤き熱源の粒子よ。我が呼び声に従い、不浄なる障壁を焼き尽くす牙となれ!」


 紡がれたのは、攻撃魔術――『火炎旋風フレイム・ボルテックス』。


ゴォォォォォォォッ!!!


 ネオンの光しか存在しなかった三千年後の未来世界の路地裏に、本物の、圧倒的な熱量を孕んだ「自然の炎」が爆発的に巻き起こった。


 私の右手から放たれた劫火は、狭い路地裏の空間を完全に満たすほどの巨大な炎の渦へと急成長し、前方から襲い来るプラズマの弾丸をその圧倒的な熱量で一瞬にして飲み込み、無力化させた。炎は酸素を激しく消費し、周囲の回路スリットの入った金属壁を赤くドロドロに溶かしていく。


「ぎゃああああああっ!? あ、熱ぃ、熱つすぎるっ!? サイバーウェアの冷却システムがオーバーヒートを起こして――!?」


 前方のギャングたちが、魔法の炎の直撃を受けて悲鳴を上げた。彼らの自慢の金属の義肢や、サイバーアイの基盤が、魔法の超高熱によって一瞬で融解し、内部の人工血液オイルが発火して黒煙を上げる。男たちはモノ分子カッターを放り出し、地面を転げ回りながら路地裏の奥へと逃げ惑い始めた。


「な、なんなんだあいつは……!? バケモノだ、化け物が出たぞ……っ!」


 背後にいた二人のギャングも、前方の仲間が一瞬で炭化しかけている光景を見て、完全に戦意を喪失したようだった。彼らは銃を放り出し、油圧シリンダーを最大出力で駆動させて、這う這うの体で闇の彼方へと逃げ去っていった。

 数十秒の静寂。

 路地裏に残されたのは、ドロドロに溶けた壁の金属の臭いと、焦げ付いたストリートの床、そしてパチパチと微かに爆ぜる炎の残滓だけだった。


「ふぅ……。未来の武器の出力には少し驚いたけれど、術式の構築スピードはこちらの方が一枚上手だったわね」


 私は掲げていた右手を下ろし、乱れた銀髪をふわりと払った。

 体内の魔力は少し消費したが、周囲の超高層ビル群が放つ莫大な電磁エネルギーが、異世界の『マナ』と変質して私のエルフの肉体へと自然に吸収されていくのを感じる。どうやらこの未来の世界は、魔法使いにとっても、意外と都合の良い戦場(環境)のようだった。


 私が安堵して振り返ると、そこには、信じられないものを見るような表情で、両手を口元に当てて呆然と立ち尽くすステラの姿があった。

 彼女の短い栗色の髪は炎の熱風で微かに逆立ち、真っ赤なタイツを履いた脚は、恐怖ではなく、完全に新しい「神話の幕開け」を目撃した感動でガタガタと激しく震えていた。


「ル、ルナ……。あなた、今、何をしたの……? ナノマシンの熱線放射じゃない……、エネルギーの供給源が、この世界のどこにも存在しない、完全な『無からの火の生成』……っ! 科学の熱力学第二法則が、今、私の目の前で粉々に粉砕されちゃった……!」


 ステラは私の元へとフラフラと歩み寄ると、私の黒いレザーミニスカートを掴み、そのまま私の胸に思いっきり顔を埋めてきた。


「凄い、凄すぎるよルナ……っ! 三千年前の地球の記憶だけじゃない、あなた自身が、この世界を根底からひっくり返す、最高の『マジック』そのものだったんだね……っ! 私、本当にあなたと出会えてよかった……!」


 至近距離で私の細いウエストをぎゅっと抱きしめ、顔を紅潮させて目を輝かせるステラ。

 そのあまりの距離の近さと、彼女の身体の温もりがダイレクトに伝わってきて、さっきまで大魔術師として無双していた私の心の中に、再び童貞男子高校生・五十鈴飛鳥のピュアな動揺が猛烈な勢いで舞い戻ってきた。顔がカッと熱くなり、尖った耳の先まで真っ赤になっていく。


「ちょ、ちょっとステラ、近いわよ! 服が、服が破れちゃうから離れて……っ!」


「やだ! 私、ルナを絶対に手放さないんだから! これから毎日、その魔法の仕組みを朝から晩までじっくり研究(アーカイブ化)させてね!」


 ネオンの光が不規則に瞬く、破壊された超未来の路地裏の中心で。


 元少年でエルフの私と、歴史好きのハイテクオタク少女は、互いの心臓の鼓動をこれ以上ないほどの至近距離で感じ合いながら、新しい世界での絆を、いっそう深く、激しく結び合わせていくのだった。


挿絵(By みてみん)

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