第67話 閉じる手順
67話です。
朝、
棚の前で
立ち止まった。
一番下の段。
角は揃っている。
昨日まで、
そこは
確認する場所だった。
今日は違う。
終わらせるために
触る。
透明な袋を
一つずつ
取り出す。
紙の枚数。
順番。
日付。
すべて、
覚えている。
確認ではない。
復唱だ。
学校では、
何も起きなかった。
それが、
逆に
不自然だった。
担任は
いつも通り。
だが、
廊下の掲示板から
注意喚起の紙が
一枚減っている。
減った理由は、
説明されない。
説明されないものは、
整理が終わった
という意味だ。
昼休み、
あの子が
俺の前に
立った。
何も
持っていない。
「……もう、
大丈夫?」
また
同じ言葉。
俺は
うなずく。
「大丈夫」
それで、
会話は
終わる。
紙は
戻ってこない。
棚の外は、
閉じられた。
放課後、
職員室の前を
通る。
ドアが
少しだけ
開いている。
市の人が
来ていた。
低い声。
「これで
全部です」
全部。
担任が
小さく
うなずく。
俺は
通り過ぎる。
呼ばれない。
呼ばれない
ということが、
完了の合図だ。
家に帰ると、
母が
棚を
拭いていた。
布で
軽く。
埃は
ほとんど
ない。
「最近、
静かね」
「うん」
母は
満足そうに
笑う。
その笑顔は、
昔と
同じだ。
兄の件が
片付いた
あの日と。
夜、
自分の部屋で
袋を
机に並べる。
順番に
重ねる。
兄の事故。
学校の件。
地域の紙。
高さが
揃う。
揃った瞬間、
手が
止まる。
ここから先は、
追加じゃない。
閉じる作業だ。
袋を
棚に戻す。
一番下の段。
角を
合わせる。
指先で
軽く
押す。
音は
しない。
それでも、
何かが
終わった
感触が
ある。
布団に入る。
天井を見る。
今日、
俺は
棚の外を
完全に
閉じた。
もう、
新しい紙は
置かない。
置けない。
置いたら、
この並びは
壊れる。
だから、
閉じる。
それが
守ることだと
思っている。
思っている
という言い方が、
少しだけ
引っかかる。
だが、
今は
考えない。
電気を
消す。
暗闇の中で、
棚の形が
はっきり
見える。
揃っている。
静かだ。
そして、
静かすぎる。
誤字脱字はお許しください。




