第66話 同じ場所に立つ
66話です。
翌朝、
棚の前で
立ち止まった。
一番下の段。
兄の件。
俺の件。
高さが
同じだ。
並びも、
距離も。
昨日まで、
それは
配置だった。
今日は、
立ち位置に
見えた。
学校へ行く途中、
交差点で
立ち止まる。
信号待ち。
横断歩道の
白線が
濡れている。
雨は
もう
止んでいる。
白線の
間隔。
歩幅。
それを
無意識に
測っている
自分に
気づく。
安全に
渡るための
順番。
誰かが
先に
渡り、
後が
続く。
危ないところは
避ける。
避けられないなら、
言葉で
整える。
学校に着くと、
担任が
廊下で
誰かと
話している。
声は
聞こえない。
だが、
言い終わりに
一度
こちらを見る。
視線が
合う。
その瞬間、
分かる。
俺は
もう
“説明する側”として
見られている。
教室に入る。
席に
座る。
椅子の
脚が
床に
当たる音。
昨日と
同じ。
だが、
意味は
違う。
昼休み、
あの子が
近づいてくる。
棚の外の
紙を
持っていた子だ。
今日は、
何も
持っていない。
「……大丈夫?」
聞いてくる。
誰のことかは
言わない。
「大丈夫」
俺は
そう答える。
それは、
相手を
落ち着かせる
言葉だ。
同時に、
線を
引く言葉でも
ある。
あの子は
うなずいて、
離れる。
放課後、
図書室の
前を
通る。
司書が
新しい
ファイルを
棚に
入れている。
下段。
一番下。
角を
揃える。
俺は
足を
止めなかった。
止めない
という
選択が、
もう
身についている。
家に帰る。
母が
言う。
「今日は
静かだった?」
「うん」
「よかった」
よかった。
それは、
評価だ。
夜、
自分の部屋で
鏡を見る。
昨日と
同じ顔。
だが、
目の
奥が
違う。
兄の
視線を
思い出す。
あれは、
懺悔でも
依頼でも
なかった。
引き継ぎ
だった。
兄が
出来なかった
続きを、
俺が
やっている。
それを
兄は
確認しに
来た。
俺は
何も
言わなかった。
だが、
位置で
答えた。
棚の前に
立つ。
一番下の段。
そこは、
守る場所じゃ
ない。
立つ場所だ。
布団に
入る。
天井を見る。
今日、
俺は
理解した。
兄と
同じ場所に
立っている。
同じ
順番で。
同じ
沈黙で。
違うのは、
俺が
それを
引き継いでいる
という点だけだ。
それは、
前進でも
後退でも
ない。
継続だ。
電気を
消す。
暗闇の中で、
棚の形が
はっきり
浮かぶ。
そこに
立つ
自分の
影が
見える。
もう、
どこにも
ずれない。
誤字脱字はお許しください。




