第26話:ウロボロスの乖離
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10:12
水上都市に一堂に会する、第六支部の面々。
皆もが陽光を反射して眩く揺れている。
何度も見てきたはずの光景だが、心なしか、以前とは違って見えた。
――――心の持ちようだろうか。
「じゃあ、私たちは水着を――――」
「ちょっと待ってくれ! ――――紫苑、お前に話がある。それから鷺にも」
「えー、今の流れ的に『皆でショッピングだぜ、いぇい!』って感じだったでしょ! ぜったい邪魔しちゃダメなとこでしょ!」
「まあまあ、そう言わずに……お前たちにこの都市の命運が懸かってんだ」
大輝の真剣な眼差しを見て、頬を膨らませていた紫苑も、すっと表情を引き締めた。
只事ではないと、空気で感じ取ったらしい。
「……どういうこと?」
「そのまんまの意味だよ」
二人の視線が交差する。
ほんの数秒のことだったが、それは何倍にも長く感じられた。
やがて紫苑は目線を逸らすと、海夏たちに向けて小さく手を振り、
「……みんなごめん、そういうことらしいから先に行ってて!」
ガラス張りのエレベータの前には、三人だけが残った。
運河の水音だけが間を埋める中、沈黙を破ったのは、鷺だった。
「それで、話とは何だ?」
「簡潔に言うと、この都市が大魔教会っていう魔族たちに襲撃される。その対応を二人にお願いしたい」
「大魔教会……」
ここ数回のループで判明したことだが、第六支部の面々は殆ど『大魔教会』という存在を知らなかった。
唯一何か知っていそうな反応を見せたのは誠と、最初のループで通信を寄越してきた霜月だけだった。
名前の割に、そこまで精力的に活動している組織ではないのかもしれない。
「厄介なのは蛇神の使徒を名乗るウロスとボロスっていう兄弟……あいつらは魔陣開口によって、殆ど無敵の状態だ」
「無敵か……何か策はあるのか?」
「使徒たちを別々の空間に隔離すれば魔法陣が解けて、無敵は解除される。どちらか一方を教会の転移魔法陣を使って都市から追い出せれば勝ちだ。そこで鷺――――お前に一役買ってもらいたい」
「待って。でもそれって、その使徒たちが、ちゃんと分断しないと意味ないよね? そこはどうするの?」
紫苑の言う通り、前回の地下水路みたいに途中で合流されてしまえば、魔法陣を消すことはできない。
だが、片方を教会から離れた位置に呼び込み、もう片方が転移魔法陣を通るまで足止めできれば、その問題は解消される。
その役を担うのが、大輝と紫苑だ。
「そのためにお前を呼んだんだ。あとはどうやって誘い込むかだが……白銀聖騎士団の名前って勝手に借りたら怒られたりするか?」
大輝の言葉に、鷺は僅かに眉を寄せ、訝し気な表情を浮かべた。
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12:05
鷺が教会へと向かう間、大輝と紫苑は時計塔に来ていた。
ボロスの放送があった時間からは、まだ随分と早い。
時計塔の入り口には、衛兵らしき人物が二人立っていた。
以前、ベリーローゼンに時計塔の放送設備を破壊するよう頼んだ時と同じ轍を踏むわけにはいかない。
「二人だ。いけるか?」
「もちろん」
「よし……んじゃ、一瞬で頼む――――『シャドウ』!」
大輝は紫色に輝く魔法陣を展開すると、短く詠唱した。
途端に、周辺一帯に闇が生じる。
「な、なんだ!?」
突然視界を奪われた衛兵たちがパニックを起こしている隙に、紫苑が手刀を叩き込む。
くぐもった呻きが二つ、闇の中に消えた。
衛兵たちを近くの茂みに寝かせ、二人は入口の戸を静かに開いた。
塔の内部は、螺旋階段が永遠と続いていた。
その階段の下の空間に、放送室らしき部屋がある。
「……本当にやるの?」
「おう」
「怒られても知らないからね」
「そん時はお前も一緒に怒られてくれ」
大輝はそう言い、無造作に機材の電源を入れた。
『あ、あ――――』
マイクを通した自分の声が、都市中に響き渡っているのが分かる。
『えー、水上都市の諸君。実はこの都市に魔族が潜んでいるんだ。けど、心配しないでほしい。かの白銀聖騎士団の団員である『白銀 鷺』くんと、魔法使いのシフォンちゃんが来てくれたからな! 皆、安心していつも通り過ごしてくれ!』
『――――それから、大魔教会のクソ野郎。俺たちは逃げも隠れもしねぇ……テメェらの目的を果たしたいって言うなら、かかってこい』
そう大々的に宣言すると、大輝は機械の電源を落とした。
一種の宣戦布告にも等しい放送だったが、あの好戦的な性格を考慮すれば、ボロスは必ずこれに乗ってくるだろう。
それを迎え撃つのが――――
「あとは頼むぜ、シフォンちゃん」
「……馬鹿にしやがって」
ジト目で睨み付ける紫苑を『魔法使いシフォン』と表したのは、『白銀聖騎士団の団員の後につづけて紹介されれば、多少なり手練れの魔法使いだと錯覚するかもしれない』――――そんな淡い期待を込めてのカモフラージュだった。
この放送を不審に思う者が殆どだろうが、都知事が政府に援軍を要請することさえ防げればいい。
鷺は騎士団の隊服を着ているため、衛兵の一人でも気が付いてくれれば、放送の内容に嘘は無いと判断してくれるはずだ。
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12:31
大輝の放送から三十分立たないうちに、事態は動き始めた。
「――――来た」
紫苑は短く言うと、魔法陣を展開する。
彼女もまた、鷺のように魔力探知に優れているようだ。
すると、入り口に一つの影が現れた。
ボロス=サーペンタインだった。
短剣を何本も携え、青い長髪を揺らす奴の足元には、同じく青く光る魔法陣が浮かんでいる。
「お望み通り来てやったぞ……蛇神の封印の在処を知ってるかぁぁぁい?」
「――――『ジェットブラック』!!」
詠唱と共に紫苑の掌から放たれたのは、闇のように暗く黒い、一条のレーザーだった。
空気が唸り、時計塔の壁が轟音と共に吹き飛んだ。
石片が雨のように降り注ぎ、視界を白く霞ませる。
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12:58
教会の前に、一人の男が現れた。
緑色の髪を後ろで結い、手に短剣を携えている。
足元には、緑色の魔法陣が描かれていた。
大輝から事前に聞いていた、大魔教会の使徒の特徴と寸分違わず合致していた。
鷺は瞬時にそれが討つべき相手だと確信し、鞘から剣を抜き放つと、その切っ先を男へと向けた。
「……お前が、ウロス=サーペンタインか」
「白銀 鷺だな……蛇神の封印はどこだ?」
獲物を狙う、蛇のような目だ。
コイツは、やり手である―――そう直感が告げている。
だが、そんな内心とは裏腹に、鷺はいたって冷静に答えた。
「俺を殺したら見つかるんじゃないか?」
「……では、そうするとしよう」
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13:09
「はぁ、はぁ……」
想定通り、ウロスはかなり近接戦に秀でていた。
二本の短剣で容易く鷺の剣閃をいなし、隙あらば切り返してくる。
刃と刃がぶつかる度に火花が散り、耳障りな金属音が広場に響いた。
何度か奴の腕に剣がかすったが、これも大輝から聞いていた通り、奴の肉体は刃を受け付けなかった。
一方で、鷺の隊服には目立つだけでも三か所の裂け目があり、乾いた血が縁取っている。
このまま長期戦になれば、鷺の敗北はほぼ確実であろう。
「……お前、先ほどからやけに教会を気にしているな。まさか、封印は――――」
ウロスの推察に、鷺は僅かに目を見開いた。
その表情の微細な変化を、奴は見逃さなかった。
「図星のようだな」
「待て!」
素早く鷺の背後に回り込み、教会へと駆け出すウロス。
奴を追おうとした瞬間、振り向きざまに投擲された短剣に右の太ももを貫かれ、鷺は体勢を崩して膝をつく。
そのまま二人の距離は縮まることなく、ウロスは教会の中へと姿を消してしまった。
「やめろ――――!!」
広場には、鷺の叫びが空しく響いた。
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13:11
教会の内部には、床一面を覆うほどの巨大な魔法陣が描かれていた。
恐らく、転移魔法陣だろう。
きっと、この先に封印を隠しているのだ。
そう判断したウロス=サーペンタインは、迷わず魔法陣へと足を踏み入れた。
淡い光が彼を包み込み、行き着いた先は――――白い石畳の、廊下のような場所だった。
「……ここは」
「――――水上都市の外にある、避難エリアだそうだ」
ウロスの問いかけに答える、単調な声。
誰も居なかったはずの空間に響いたそれは、『白銀 鷺』のものに他ならなかった。
しかしそんなことは、今はどうでもよかった。
『水上都市の外』の避難エリア――――その言葉が告げたのは、ウロスはボロスとは別の空間に転移させられたという、動かしがたい事実だ。
そしてそれは――――絶対的防御の崩壊を意味する。
ウロスの足元から、既に魔法陣は跡形もなく消えていた。
「貴様――――」
咄嗟に振り返る間もなく、鷺の刃が首筋に触れ、そのまま一息に断ち切った。
抵抗する間さえ与えぬ一撃だった。
完全に機能を停止したウロス=サーペンタインの肉体は、音もなく塵となって崩れ、消えていった。
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13:08
そのころ時計塔では、紫苑と大輝が、ボロスと激闘を繰り広げていた。
「おいおい、いい加減教えてくれよぉぉ! 封印の場所を知っているのかどうかさぁ!!」
短剣を用いた近接戦闘を得意とするボロスと、魔法しか攻撃手段がない二人では相性が悪かった。
魔法を放つ前に距離を詰められてしまえば、無敵どうこう以前に敗北する可能性がある。
息を切らしながら攻撃を必死にかわし、交互に魔法を放って、何とか隙を作らぬよう立ち回った。
「『グロリアス』!」
「『ヴィシャス』!」
だが、その点においてもボロスは優れていた。
奴の蛇のような眼光は驚くほど洞察力に優れているらしく、魔法の弾道を正確に捉え、その身のこなし一つので全ての魔法を回避していった。
そして遂にしびれを切らしたのか、
「これ以上は時間の無駄だなぁ……。お前たちが封印について知らないのはよくわかったからさぁ……もう行かせてもらうよ」
そう言い残して姿を消そうとした瞬間、大輝が声を上げた。
「なあ、お前―――兄弟は居るか?」
あまりにも唐突な質問だった。
だが実際、ウロスが奴の兄弟にあたるのは知っているし、大輝は決してその問いの答えが欲しかったわけではない。
ウロスが都市の外へ転移するまでの、可能な限りの時間稼ぎのつもりだった。
「ああ、弟がこの都市にも来てるよ……。お前たちのお仲間さんも、無事だといいなぁ」
ボロスは律儀に答えると、気色の悪い笑みを浮かべた。
「そうか。大切にしろよ――――いつ居なくなっても、後悔しないようにな」
「あぁ?」
大輝の言葉に、ボロスは顔をしかめる。
細く狭まった瞳孔からは、明確な殺意が滲み出ていた。
だが―――もう勝負はついていた。
「―――足元が寂しくなってんぞ」
大輝に言われ、ボロスは反射的に自分が立つ地面を見下ろす。
その視線の先に、青く発光する魔法陣の姿はなかった。
奴が目線を逸らした、その一瞬の隙―――二人は魔法陣を展開し、
「『グロリアス』!!」
「『ジェットブラック』!!」
大輝の光魔法と、紫苑の黒き閃光が、ボロスを直撃した。
爆音と共に視界が白く染まり、熱風が肌を叩く。
後に残ったのは立ち込める土煙と、計塔の破壊の痕跡だけだった。
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13:17
ボロスとの戦闘後、二人は教会へ向かった。
教会の前には、鷺と霜月の姿があった。
「霜月……」
「おう奇石野。よくやってくれたな」
彼は相変わらず、気味の悪い紫色の仮面をつけている。
鷺も負傷しているようだったが、命に別状はなさそうで安心した。
大魔教会の魔の手は、ひとまず退けられたと考えてよさそうだ。
「いろいろ伝えねぇとならねぇこともある……とりあえずついてこい」
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13:51
霜月に先導されてたどり着いたのは、住宅街の中の、ごく普通の家だった。
ごく普通というのは、世間一般的な家庭ということではなく、水上都市の他の家々と何ら変わらないという意味である。
数分経って、ベリーたちが家の前に合流した。
誠が案内してくれたようだ。
彼女たちも他の教徒たちと対峙していたようで、買い物は殆どできなかったとぼやいていた。
全員の到着を確認した霜月がインターホンを押して数秒経つと、扉を開けて出てきたのは、赤い髪の女だった。
「あら、珍しいじゃないの。ゆっくりしていってねぇ」
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13:54
赤髪の女は、大輝たちをソファに向かい合わせに座らせると、紅茶を持ってきてくれた。
なんだか、以前にも似たようなことがあった気がする。
「私の名前は、『ヨルムンガンド=サーペンタイン』だ。よろしく――――」
彼女の名を聞いた瞬間、大輝は思わず紅茶を吹き出してしまった。
異常な反応を見せたのは鷺と紫苑も同じで、二人の表情もまた、みるみる険しいものに変わっていく。
それを感じ取ったヨルムンガンドは、慌てて訂正した。
「キハハ、誤解をしているようだが――――私は大魔教会とは何の繫がりもないし、蛇神の使徒でもないよ。君たちの味方だ。そうだろ?」
彼女はそう言って、霜月に視線をやった。
「ああ。コイツはヨルムンガンド=サーペンタイン改め『端 皐月』――――ファイナルレベル第四支部の一員で、『巳主神神社』の神主だ」
霜月が言うのであれば、とりあえず信用してもいいだろう。
とはいえ、彼も彼で掴めない男なのだが。
大輝たちの不安を余所に、氷が手を上げた。
「その、鬼ヶ島でもそうだったんだけど、どうして神主さんは名前が二つあるの?」
「素性を隠すためだよ。神主だとバレてしまったら色々と面倒だからね。大和国の命名方式に従っているのは、単純に名前のレパートリーが多いからさ」
質問の答えに満足した様子で、氷は「ありがとう」と笑顔を見せた。
「俺からの話についてだが、少し場所を変えよう」
霜月はそう言って、ソファの間にあった木製のテーブルをどかす。
床のカーペットをめくると、地下へと続く階段が現れた。
「なんかどっかで見たパターンね……」
ベリーローゼンの言う通り、ナイトネアの櫻神社――――大輝が初めてファイナルレベルについて知った場所への行き方とよく似ていた。
実は皆が気付いていないだけで、この世界の地下にはこうした施設が幾つもあるのではないかと思わされる。
地下空間は、櫻神社のような清廉さは全くと言っていいほど無く、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
ワンルーム程度の大きさで、祭壇と、その両脇に灯籠がある以外には何もない。
鳥居もなく、神社というには物足りなさすら感じるくらいだ。
祭壇の上には、小さな岩の塊のような物体が置かれていた。
「……なんか、鬼王の封印に似てない? 魁千ちゃんが見せてくれたヤツ」
氷に言われ、海夏は小さく頷いた。
確かに二人は、鬼ヶ島に『鬼王』の封印なるものがあったと言っていた。
とすれば、あの物体もまた――――
「あれが『蛇神』の封印だよ。私はここで封印を守っているんだ――――影傑が二度と目覚めないようにね」
「えいけつ……? それってナイトネアで会った……」
剣聖と共にナイトネアに駆けつけた、『英傑_イーロイ=ヘルド』――――白い猫耳の魔法使いの姿を大輝は思い浮かべる。
「えいけつって言っても、『大賢者』ヘルドの方じゃねぇ……。かつて世界を脅かした厄災たちの総称だ。お前の父親が何を意図したのかは分からねぇが……その封印も、第三支部が管理することになっているんだとよ」
そういえば、第三支部の設立には大輝の父に当たる人物が関わっていると言っていた。
彼に関する情報が出れば出るほど、ますますその素性は掴めなくなっていく。
「え、こんな小っちゃいのに封印されてんの? 厄災が?」
「封印されてるのは魔核だけだ」
小馬鹿にする紫苑に、霜月が横槍を入れる。
だが、灾胡には『魔核は破壊すればその持ち主も死ぬ』と教わった。
わざわざ封印しなくとも、破壊すればいいのではないか。
大輝と同様に、鷺が同じ点を疑問に上げた。
「破壊できなかったんだとよ。恐らく、魔核に蓄えられた魔力が多すぎるんだ。それで外部からの魔法も打ち消されるんだろう」
流石に先人たちも試みていたようだ。
だが、そんな扱いに困る代物を手に入れて、大魔教会はどうするつもりなのだろう。
その問いの答えは、霜月が自ずと口にしてくれた。
「それで、お前たちに伝えたいのは――――何があっても俺たち以外のヤツに封印を渡すな。特に大魔教会……あいつらは封印を解放する手段を持っている可能性が高い」
「大魔教会って一体、何のための組織なんだ?」
『影傑の一人―――『教祖_グール=イヴァン』によって創られた、魔族だけの世界を望み、当時の魔王であった『ツァオヴァーケルン=ナイトメア』を崇拝していた教団だ』
大輝の問いに答えたのは、インカムだった。
独特な雰囲気を纏うその声の主は、すぐに鬨 悕烏だと分かった。
『当時の教団は、教祖の封印と同時期に完全に解体されたと聞いていたが……。いつの間にか新たな勢力を得たようだね。こちらでも調査してみるが、気をつけてくれ。君たちが蛇神の使徒を退けてくれたこと、本当に感謝しているよ。それを伝えたくてこうして通信を繋がせてもらった。私はマナを製造しなければならないから現場には行けないが……これからも期待している』
悕烏はそう言って、通信を切断した。
「そういうわけだ。そういえば、大魔教会の奴らはどうなった?」
「蛇神の使徒は跡形もなく消えたぜ」
「他の教徒たちもよ」
大輝とベリーローゼンの反応を見て、霜月は暫く考え込んだ。
「そうか……後で悕烏に共有しておく。伝えたいことも伝え終わったんで、俺はここらで失礼する。お前たちは引き続き、魔術王国で第一支部との合流を目指せ」
霜月はそう言って、階段を昇って行った。
残された大輝たちは、奇石野灯輝の『遺書』に従い、水上の都の灯籠にマナを捧げることにした。
鬼ヶ島では氷がやってくれたらしいので、今回もお願いすることにした。
彼女がそっと灯籠に触れ、暫くすると、二つの灯籠に青白い炎が灯った。
「うん、これで大丈夫だと思う」
「さんきゅー」
「あー!!!!」
氷への感謝の言葉をかき消すように、紫苑が大声を上げた。
何事かと思って振り返ったが、その後に続いたのは――――
「わたし、水着買えてない!」
「え、何で水着?」
「いやいや、誠が言ってたじゃん! この先の海岸地帯で、水着の着用しか認めないっていう法律があるって」
「何だその阿保みたいな法律!?」
ということは、大輝も水着を買わなければいけないではないか。
教会にずっと待機していた鷺も同じだろう。
「キハハッ、みんな疲れているだろうし……今日はうちに泊まっていたら?」
確かに、疲労感は拭えない。
紫苑も魔法を連発したせいで体力を消耗していることだろう。
鷺が怪我を負っていたこともあり、一行は皐月の好意に甘えることにした。
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1:13
皆が寝静まったころ、寝室の外では小さな声が響いていた。
「ええ、大魔教会の蛇神の使徒たちを退けたみたい。これから『魔術王国_ジギーベース』に向かうわ。――――また連絡する」




