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Re*word ~奇石野大輝の英雄譚~  作者: 黒身魚
第ニ章「英雄欺人」
22/34

第21話:想い


19:27


 勝負は、一瞬だった。


 間合いを詰めるまでの速度、刀を振り下ろす速度といい、純粋な身体能力では、百鬼の方が僅かに劣っていた。

 しかし、勝敗の行方を分けたのは――――刃そのものだった。

 百鬼の胴を目掛けて振り下ろされた栬の刀は、何の前触れもなしに、繊細なガラス細工のように崩壊したのだ。

 当然、それは栬にとっても完全に予想外だったようで、無防備な胸元へ百鬼の二振りが直撃。

 激しい衝撃とともに血煙が舞い、栬の身体は崩れるように倒れ伏した。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


19:45


 意識を取り戻した栬は、静かに上体を起こした。

 まさか、己が敗北しようとは――――想像以上に、百鬼には力があった。

 刀が朽ちたのも不測の事態だったとはいえ、その後、たった一撃で沈められるほど、軟弱な身体ではないと自負していたが……それすらも慢心だったというわけだ。



「……我では王には相応しくなかった、か」



 聞こえるかわからないぐらいの声で呟き、栬は百鬼を見上げる。

 決闘に敗北したのは事実、今更言い訳をして恥を晒すつもりもなかった。



「百鬼……以後、お前を鬼族の当主とする。我を処罰するも、人間たちと生きる道を歩むも、お前の好きにしろ」



 百鬼はすぐには答えなかった。

 唇を噛みしめ、溢れそうになる思いを堪えるように大輝たちの方を向くと、深く頭を下げた。



「ごめんなさい……っ! 今まで余たちがしてきたことは、謝って許されるようなことじゃないって分かってる。だけど……これからは、絶対に同じようなことが起きないように余が徹底するから――――少しずつでいいから、余たちのことを許してほしいんだ。皆がみんな、人間たちが嫌いなわけじゃないんだおよ……。虫のいい話に…思えちゃうかな」



 震える声で訴えかける百鬼の姿を見て、澪は大輝と雪吹を振り返ると、



「俺たちだけでは判断しかねる……そうだろう?」



 大輝は返事の代わりに、大きく頷いた。



「澪の言う通り、謝る相手が違いますですよ。というか……百鬼さんがそんなに強いなら、最初から決闘を申し込んでいれば、被害は最小限に抑えられていたと思うんですが……」



 雪吹の発言は少々酷にも思えたが、紛れもない正論だ。

 鬼族当主の権威が強すぎるのも問題だが、彼女が立ち上がっていれば、他の鬼たちも従わざるを得ない状況になっていたはずだ。



「そうだな……正直、人間たちは全員、余たちのことを恨んでいると思ってたんだ。だから、今更仲良くしようだなんて言っても、誰も取り合ってくれないだろう、って……諦めてた――――でも、二人は違った」



 百鬼は赤い瞳にうっすらと滲む涙を拭うこともせず、真っ直ぐに、雪吹と澪を見つめている。



「二人は……余の想いを聞いて、ここまで一緒に来てくれた。余たちが、人間と和解するために。だから、決闘を申し込んだんだ――――同じ想いを持ってくれる人間がひとりでもいるなら……余は、人間たちと仲良くできた未来を諦めない……っ!」



 百鬼の理想を受け入れてくれる鬼たちが、一体どれほどいるのかは定かではない。

 もし反発する者が多ければ、鬼同士の内部抗争にも発展し得るし、関係修復からさらに遠のく可能性だってある。

 だが、それは栬の場合も同じだったはずだ。

 にもかかわらず、この島の全ての鬼が彼に従っていたのには、何か理由があったからに違いない。



「はっはー! いい心がけだ! 貴様は立派な当主になるだろう! それで……栬とやら、見習いの質問にそろそろ答えてやってはどうだ? 『なぜ黎明都市の人々を攫っていたのか』」



 ラプラスの言葉に、百鬼はほんのり頬を赤らめて口を小さくすぼめた。

 一方、名指しされた栬はゆっくりと瞬きして、重い口を開いた。



「……同胞を、守るためだ」


「人攫いが何故、貴様の同胞を守ることに繋がるんだ?」


「奴らの魔核(アルケー)を取り出し、我の魔力に変換していたんだ」



 魔核。灾胡に教えてもらったそれは、生物がマナや言雫魔(エイドス)を蓄えるための媒体だ。

 それを吸収したということは、攫われた人々の一部は、帰らぬ存在となったことを意味していた。



「我の権能『魂喰らい(ソウルイーター)』は、魔核を吸収することで膨大な魔力を蓄えることができる。お前たちに放った魔法や百鬼との決闘で用いた刀剣は、その魔力から発生したものだ」



 無属性魔法の正体は、犠牲者たちの魔力であったと判明し、ようやく合点がいった。

 どうりであの光線が悍ましい雰囲気を醸し出していたわけだ。

 よもやすると、決闘であの刀剣が崩壊したのは、百鬼の『共存への想い』に犠牲者たちが応えた結果なのかもしれない。



「そうまでして魔力を集めてたのは、さっき言っていた『王』になるためなのか?」


「……聞かれていたか」



 大輝の指摘に、栬は自嘲気味な笑みをこぼす。



「『鬼王』が封印されし今、同胞たちを守るためには誰かがその代わりにならなければならなかった。だから人間を利用し、魔力を集めたのだ。まあそれも、百鬼にすら及ばなかったわけだが」


「さっきから守る、守るって……鬼族は命でも狙われてんのかよ?」


「備えあれば憂いなし、というだろう……我々は百年ほど前、『鬼鐃輐(きどうまる)』と名乗る鬼の襲撃により滅亡寸前まで追い詰められたのだ。奴の手で多くの同胞が命を落とした。『退魔師』の手で鬼鐃輐は死滅したが、またいつ似た災厄が降りかかるかは分からん。故に、同胞を守り抜けるほどの、鬼王にも勝る強さが必要だったのだ」



 栬は大輝たちに向かって、ゆっくりと、深く頭を下げた。



「お前たちには申し訳ないことをしたと思っている。だが、我には……この方法しかなかったのだ」



 彼のやり方は決して正しいものではなかった。

 だが、その冷酷な決断の根底には、同胞たちへの想いがあった。

 それを感じていたからこそ、他の鬼たちも彼に従い続けていたのだろう。


 黎明都市の神隠しの真相が判明したところに、大輝の耳元で通信音が鳴り響いた。

 誠からである。



『お疲れ様です、大輝さん。現在の状況を共有しておこうかと思いまして』


「ああ……こっちは今、雪吹と澪とラプラスと一緒で、全員無事だ。鬼族の当主から話を聞いて、向こうにも明確な悪意があったわけじゃないってことが分かった。俺たちに敵意がないことも伝わっていると思う」


『他の戦闘でもお互いに犠牲者は出ていませんし、今後、敵対する心配はなさそうですね。ありがとうございます』


「礼なら雪吹と澪に言ってくれ。二人が居なかったら、こんな穏やかな決着にはならなかっただろうよ」



 二人が百鬼の想いを聞き出さなければ、彼女が行動を起こすこともなかった。

 また、彼女と遭遇したのが別の誰かだったなら、結末は変わっていたかもしれない。

 黎明都市で二人と出会ったこと、偶然ラプラスたちが都市を訪れていたことなど、今回は大輝たちに運が味方していたと言える。



『そうですね。他の皆さんも全員無事です。ホークニオさんとベリー、鷺さんが人質を発見し、先に船で都市に送ってもらいました。大輝さんたちが居る場所から東に進んだ海岸に一隻、船を移動させてますので、そこに向かってください。紫苑さんが待機してます』


「王女はどうした?」


『大丈夫ですよ。助けに来てくれた恩人の顔を見たいそうで、紫苑さんと一緒に海岸に居ます。ああ、雪吹さんたちが探していたと思われる狐族の方も無事でしたので、伝えてあげてください』


「よかった……すぐに向かうよ」



 通信を終えた大輝が朗報を伝えると、雪吹と澪は顔をほころばせた。



「もう行くのか?」



 四人の話し声から察したのであろう、百鬼がどこか寂しげに尋ねる。



「ああ……色々荒らしちまったけど、大丈夫か? 戦った他の鬼とか……」


「島のことは気にしないでいいよ。他の皆も……死んではいないんだよな?」


「ああ。どんな状態かは分かんねぇけど……」


「じゃあ大丈夫だ」



 死んでいないなら大丈夫、というのはなんとこ常識離れな基準に思えたが、同じ鬼の彼女が言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。

 ラプラスが『鈴華が相手で大丈夫なわけあるか! アイツは怪物だぞ!? きっと骨も残らず砕けているに違いない……!』と耳打ちしてきたが、百鬼には伝えないでおいた。

 百鬼はそんな二人を不思議そうに見つめ、



「こんなことを言うのも変だけど、この島に来てくれてありがとう。雪吹、澪……えーと、、、」



 そういえば、まだ名乗っていなかったか。

 一方的に名を知ったので、勝手に自己紹介した気になっていた。



「俺の名前は、奇石野大輝」


「吾輩の御名前は! ラプラス=ヘル=サ____」



 また長ったらしいセルフプロモーションが始まろうとしていたので、大輝は、すかさずラプラスの口を手で塞いだ。

 そんな様子に百鬼は微笑みながら、続ける。



「大輝と、ラプラス。皆のおかげで、余は一歩踏み出せた。余は、栬とは違うやり方で皆を守ってみせる。人間たちも、他の種族も、傷つけることなく」


「頑張ってです! 応援してるですよ!」


「何か困ったことがあったら大和国に来いよ」


「貴様なら鬼王にも勝る鬼になれるだろう! 吾輩が言うんだから間違いない!」


「俺からも頑張れとしか言えねぇけど……和解できた時には、島の観光でもさせてくれよ」


 本当は、力になってあげたい。

 だが、それでは意味がないと、大輝は分かっていた。

 これは、彼女たち――――鬼族自身で解決しなければいけない問題なのだ。

 

 各々が百鬼に言葉を掛け、一行は海岸へ向かった。

 去り際、栬は大輝の背を見つめ、独り言のように呟いた。



「お前なら鬼王を目覚めさせられるのか……? ――――奇石野」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


20:11


 海岸にたどり着くと、停泊している船の上には、眠たそうに眼をこする紫苑と、エントーフが乗っていた。

 彼女は大輝たちに気が付くと船を飛び降り、砂浜を駆けて寄ってきた。



「無事でよかったぜ、お嬢様」


「貴方が、奇石野大輝さん? 宵待さんからお話は聞いておりますわ。貴方の未来視のおかげで、私たちを救出するに至ったのだと。この度は……ちょっ!? い、いきなり、何をするんですの!?」


 

 礼儀正しく感謝を伝えようとするエントーフの話を遮り、大輝は彼女を両腕に抱え上げると、船に向かって歩き出した。



「早く戻らないと、お父様が心配してるぜ」


「こ、これはどういうつもりですの!? 衛兵たちに見つかったら殺されてしまいますわ!」


「え……きも」



 颯爽と乗り込んできた大輝と、その腕で小さくなっているエントーフを見て、紫苑は冷ややかな視線を向け、心の底から、といった風に大輝に暴言を吐いた。



「おい勘違いするなよ? 別にそんな趣味は――」


「いいから降ろしてあげなよ。泣いちゃうって」


「流石に言い過ぎじゃね!?」



 エントーフは大輝の両腕から解放されると、すぐに顔を逸らした。



「ほらぁ……」


「マジぃ……? 本当に申し訳ございませんエントーフお嬢様……どんなバツでも受け入れる覚悟はできております……」


「べ、別に嫌だったわけじゃありませんわ……」


「本当にぃ~? 正直に答えなって」



 からかいまじりの紫苑の追究に答えることなく、エントーフは暫くの間、両手で顔を覆ったまま固まっていた。


 全員が船に乗り込んだのを確認して、一行は島を後にした。

 まだ海は、柔らかな月明かりに照らされていた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


21:02


 黎明都市の港で大輝たちを迎えてくれたのは、国王_バルッセと衛兵たち、そして鷺だった。

 どうやら誠が先に都市に戻った鷺に連絡し、鷺が国王たちにエントーフの無事を伝えてくれたらしい。

 バルッセはエントーフの姿を見るや、彼女に駆け寄った。



「エントーフ!」


「お父様!」


「無事でよかった……本当に無事で……っ!」



 娘を力強く抱きしめるバルッセに、エントーフもまた父の温もりに触れ、声を詰まらせた。



「言いつけを守らなくて、ごめんなさい、お父様……! 私、どうしても、お父様に渡したいものがあって……!」



エントーフはそう言って、懐から小さな包みを取り出し、涙で濡れた手で差し出した。



「これは……?」


「お父様、明日……誕生日でしょう? ですから……誕生日プレゼントですわ」



 買い物の最後、一人で見たいものがあると言っていたエントーフの姿が大輝の脳裏に浮かぶ。

 彼女が危険を冒してまで街へ出たのは、このためだったのか。

 父親想いのいい子だ。 

 自分も、あんな風に親の誕生日を祝ったことがあったのだろうか。



「親子の感動の再会に、いつまでも居座るもんじゃない。宿に戻るぞ。……お前たちも、お仲間が待ってる」



 鷺に促され、二人の邪魔をしないよう、一行はその場を後にした。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


8:05

 

 翌朝――。

 身支度を整えて部屋を出ると、フロントは大いに賑わっていた。

 階段を降り、第六支部の仲間と合流したところで、その中から狐の耳を持つ三人が大輝の前に現れた。



「あっ! その子がお前たちが探してたっていう――」


「『天羽 憐(あもう レン)』だも。お主たちのおかげで戻ってこられたも。ありがとうだも!」



 憐は大輝たちに向かって両手を合わせ、お辞儀する。



「憐も見つかったので、雪吹たちはこれから大和国に戻りますです。大輝さん、皆さん、手伝っていただきありがとうございましたです!」


「こっちこそ、二人がいてくれて助かったよ。ありがとう」


「もしこっちに来ることがあったら教えてくれ。案内してやる」


「ああ、ぜひお願いするぜ」



 雪吹、澪と握手を交わし、一行は横に並ぶ狐の尻尾たちを見送った。



「お! 随分と早いお目覚めだな貴様ら!」



 つい先ほど大輝が降りてきた階段から、ラプラス達が顔をのぞかせた。

 ホークニオ、華鈴も一緒だ。

 クロアは鈴華に背負われ、気持ちよさそうに寝息を立てている。



「吾輩たちもフレアがブチ切れる前に学園に戻ろうと思ってな」


「そうか。力を貸してくれてありがとな。お前たちが居なきゃ、今頃俺たちは海の底だ」


「はっ、礼には及ばん! なにせ貴様はもう吾輩率いるSSCの見習いなのだからな! 見習いを助けるのは当然のことだ!」



 見習いになるとは一言も言っていないし、なる気もさらさらなかったが、大輝は彼女の口車に乗っておくことにした。

 またいつか、彼女たちの力が必要になるかもしれない。



「そーいえば、あんた達はどうやってここまで来たの? 夜影壁(やえいへき)を通れるわけじゃないでしょ?」


「裏門を出て、学園都市から『ジパング和学園』の正門を通って来たんだ。その後は海上をクロアに乗って移動した」



 紫苑の問いかけに、ホークニオが答える。

 そこまでして、何故この都市でグッズ販売がしたかったのだろうか。



「なかなか面倒なことしてんね」


「この都市は法が緩いと聞いていたからな! まあ、結局捕まってしまったわけだが……見習いに救われた。これで貸し借りは無しだ! さらばだ貴様ら――――!!」



 高らかに宣言すると、ラプラスは階段を飛び降りて宿を飛び出して行った。

 鈴華たちも後に続き、フロントは一気に静かになった。



「……で、これからどうするんだ?」


「アンタが寝ている間に誠から連絡があったわ――――『魔術王国_ジギーベース』を目指すそうよ」


「王国に滞在している第一支部との合流を測るらしい」



 ベリーローゼンに続き、鷺が捕捉する。

 そういえば、ファイナルレベルには幾つかの支部があると霜月(しもつき)が言っていた。

 第一支部は大輝たちが所属する第六支部と同じ、任務遂行部隊だったか。

 今回、第六支部だけでは鬼ヶ島攻略が難航していたことから、こちら側の戦力拡大を狙ってのことであろう。



「あ、それと―――鬼ヶ島の神社には、私と海夏ちゃんで灯籠を灯しておいたよ」


「あっぶね! すっかり忘れてたわ……ありがとな」



 人質の救出を急ぐあまり大輝の頭から抜け落ちていた、星羅を救うために必要な、大聖霊ナヴナの顕現。

 そのためのチェックポイントの一つが、鬼の孤島――鬼ヶ島だった。

 これで騎士の王国――ナイトネアと合わせ、二つの灯籠に灯を点したことになる。



「それじゃ、早く行きましょう」



 ベリーローゼンの言葉を合図に、一行は宿を出る。

 大輝も受付に鍵を返却し、外へ出ようとした時、誠から呼びかけられた。



『あ、大輝さん……ようやく起きましたか。皆さんから説明は聞きました?』


「バッチリだ」


『では、道案内は僕の方で行います。まずは魔術王国までの道中にある、『水上都市_ドレイン=ウォルス』に向かいましょう。そこで、三つ目の灯籠を灯します』


「水上の都……か」


 

 そう言いながら大輝が顔を上げると、そこには衛兵に囲まれた国王――バルッセと、エントーフが待っていた。

 バルッセは大輝が来たのを確認すると、第六支部に向かって深く頭を下げた。

 それに合わせ、衛兵たちも一斉に首を垂れる。



「エントーフを、国民たちを助けてくれて、ありがとう……! この恩は、一生忘れはしない」


「んな大袈裟な……」

 

「……これを」



 エントーフは大輝に歩み寄ると、小包を手渡した。

 手に硬い感触があり、その中身が固形物だと分かる。



「これは?」


「もし、政治関係でお困りになったことがあったら、封を開けてくださいまし。きっとお力になれると思いますわ」

 

「分かった。ありがとな」



 大輝は貰ったそれを、大事にポケットの中にしまった。



「いいえ。まだ感謝し足りないくらいですわ。もしアウローラに戻ってくることがありましたら、その時はまた――――お買い物に付き合ってくださるかしら?」


「それは構わねぇが……前に一緒に買い物なんてしたっけか?」



 『また』というのは、以前、そのような経験があったから出た言葉なのだろうが、大輝には王族とショッピングをした記憶はない。

 もしかしたら、代償とした記憶の中に含まれていたのだろうか。



「あら? 確かに……どうして『また』なんて言ったのでしょう……?」


 

 エントーフ自身も、自分の口から出た言葉に違和感を感じている様子だった。

 


「まあいいや。買い物、楽しみにしてるぜ」


「セクハラされないようにねぇ」


「やかましいわ!」



 からかう紫苑を軽く睨みつつ、大輝はバルッセに向き直る。



「あんたが国王で、この国の奴らは幸せ者だと思うよ。元気でな」



 身の程知らずともいえるそれは、嘘偽りのない言葉だった。

 一番心配だったのは娘の事だろうに、彼はどれ同等か、それ以上に国民のことも度々気にかけていた。

 一国の王なら当然だと思う者もいるかもしれないが、それを実際に態度で示せるかは、結局のところその者の人間性次第だ。

 ナイトネアのキルギスといい、この世界の統治者は人柄がよい者が多いな、と感じていた。


 大輝の故郷ではどうだっただろうか。



「……君たちもな」


 

 あたたかな感謝を背に受けながら、一行は『水上都市_ドレイン=ウォルス』へ向けて出発するのだった。

 


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