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Re*word ~奇石野大輝の英雄譚~  作者: 黒身魚
第ニ章「英雄欺人」
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第16話:討ち入り


薄紫色に澄んだ大気と、明滅する半透明の地表。

久方ぶりに訪れた虚空の景色は、相変わらず浮世離れしていて、幻想的であった。



「よぉ、シロコ。元気にしてたか?」



大輝は以前、勝手に『シロコ』と命名した白き者に、気安く声をかける。



「__代償とする記憶を選別してください」


「相変わらずの反応だな……」



想定してはいたものの、無反応を貫くシロコに、大輝は肩を落としてため息をつく。



「代償にするのは『今日一日の記憶』だ。朝、宿を出る前まで戻してくれ」


「承知しました」



シロコは頷く代わりに静かに両眼を閉じ、いつも通り詠唱を始める。

大輝の足元から侵食するように魔法陣が展開され、その身体を光の奔流が包み込む。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



一夜を明かし、皆と合流した宿の受付。

意識が覚醒すると同時に大輝の耳元へと流れ込んできたのは、聞き覚えのある台詞だった。



『___では、今の割り振りに従って、各自情報収集を行ってください』



誠の指示に応じ、各々が宿を出ようと動き出した瞬間、大輝は声を張り上げた。



「ちょっと待ってくれ!俺から話がある」



全員の足が止まった。

大輝は自身の持つ呪恩(カース)を説明し、神隠しは鬼族の仕業であること、黎明都市の王の娘が攫われてしうことを伝えようとした。

だが、口を開く直前、誠から自身の能力については詳細を伏せるよう念押しされていたことを思い出した。



「話ってなによ?」



なかなか話を切り出さない大輝に痺れを切らし、ベリーローゼンが不機嫌そうに突っかかってくる。



「いや、あれだ……実は__そう!俺は未来を知ることができる加護を持ってるんだ!」



咄嗟に思いついた設定だったが、悪くはない。

一度死に、記憶を捨てるというプロセスを挟んでいるだけであって、未来を知っているということに相違ないのだから。



「……まじで?」



紫苑が疑いの眼差しを向けてくる。

どうやら彼女はファイナルレベルに所属しているものの、大輝の能力については聞かされていないようだ。目を丸くしている海夏も同様だろう。



「マジでだ。だが、発動条件については伏せさせてくれ。こっちにも事情があるんでな」


「それで、何が分かったんだ?」


「結論から言うと、この神隠しの犯人は鬼族だ」


「鬼…だと?」



鷺が聞き返す。



『となると、早急に鬼ヶ島へ向かった方がよさそうですね。都市庁舎に海図と船を貸してもらえないか交渉しに行きましょう』


「いや、それはまずい。アイツらは俺たちが船で上陸することを知って、待ち伏せしてきやがる」



誠の提案を即座に退け、大輝は腕を組む。


____なんで俺たちが乗り込んでくると分かっていたんだ?


以前、ミシアルで読んだ教本には、鬼族には独自の血が流れており、言雫魔を持たずして権能を行使する者もいるという。

もしかすると、大輝のように何らかの方法で未来を知る力を持つ鬼が居るのかもしれない。



「上陸箇所を分散させるのはどうだ?一隻が集中放火されるよりは幾分マシだろ」



鷺の提案は理論上的を得ていた。

だが現在、こちらには正面から魔法に太刀打ちできるのが紫苑とベリーローゼンくらいだ。

複数に分散させるほどの戦力はない。



「そいつはかなりアリだ。だが分散するにしても敵の数は多い。できるだけ戦力を集めなきゃならねぇ。お前たちは誠に支持されていたエリアで、魔法を使える冒険者や巡遊者がいないか探してくれ。特に氷と鷺は『阜玄 澪(おおぐろ ミオ)』と『守白 雪吹(かみしろ フブキ)』っていう狐っ子を最優先で見つけてくれ」


「狐族を探せばいいのね?」


「ああ。一人は黒狐、もう一人は白狐だ。多分、一目で分かると思う」



大輝の説明に氷は「おっけー」と頷いた。



「俺は都市庁舎に行って、海図と船を貸して貰えるよう頼んでくる。日没前に庁舎から一番近い港で合流しよう」



一行は頷き、宿を飛び出した。

大輝は急いで都市庁舎にいる国王のもとへ向かう。

エントーフが攫われてしまう前に、彼女の外出を止めなければならない。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



「ご用件は何でしょう?」


「国王に話したいことがあるんだ」



庁舎の職員は面倒くさそうな表情で大輝を見ると、



「具体的にはどのようなお話ですか?」


「俺はこの都市で起きている失踪事件の犯人を知っている。その話がしたい」



大輝の言葉を聞き、職員は一気に表情を変えた。



「少々お待ちください!」



職員は慌てて傍に控えていた衛兵と言葉を交わすと、すぐに向き直った。



「彼らについて行ってください」



大輝は二人の衛兵に連れられて木目調の階段を上がり、重厚な扉の前に立たされた。

衛兵たちが取っ手を引いた先で、国王_ラピュタ=バルッセは立って大輝を出迎えてくれた。



「わざわざ足を運んでくれたこと、感謝する。座りたまえ」



促されるまま、朱色のクッションが心地よい上質な椅子に腰を下ろす。



「早速本題に入るが____失踪事件の犯人というのは?」


「鬼族だ」



大輝の答えを聞き、バルッセは橙色の瞳を見開いた。



「確かに、鬼族の仕業だというのなら合点がいくな…。奴らの拠点である『鬼ヶ島』周辺の海域では昨年まで、漁船が行方不明になることが多々あった。政府に相談してその海域を運航禁止としたことで解決できたと思っていたが…、そのせいで奴らの標的が漁船の乗組員から都市の住民に変わったというわけか」


「都市には俺の仲間たちもいる。この事件の解決___俺たちに引き受けさせてくれ」


「……そうだな。鬼族相手では、一般の衛兵では対処できないだろう。ぜひ君たちに、連れ去られた者たちの救出をお願いしたい」



国王は前回同様、素直に大輝たちに依頼をしてくれた。



「それじゃあ海図と、動かせる限りの船を貸してくれ。日没前までにここから一番近い港に用意してくれるとありがたい。……あと、知り合いに魔法が使える奴はいないか?万が一に備えて戦力を確保したいんだ」



バルッセは少し考え込み、思い出したという風に顔を上げた。

彼は衛兵を呼ぶと、大輝を案内するよう命じた。

部屋を出る間際、大輝は振り返ると、



「それと、エントーフお嬢様には外出を控えるよう伝えといてくれ。攫われたら大変だからな」


「あ、ああ……伝えておくよ」



バルッセは何故大輝が娘のことを知っているのか不思議そう、な様子でぎこちなく頷いた。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



大輝が連れていかれた先は、都市庁舎の地下の牢獄のような空間だった。

そこには幾つもの檻が並んでいたが、そのほとんどは空っぽで、人の気配があるのは四つだけ。

収容されているのは、魔族のようだった。


その中の一人は大輝たちの足音に気が付くと、声を荒げた。



「おい貴様ぁ!吾輩たちにこんな仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!フレアに言いつけてやるからな!」



大きな音を立てて檻を揺らしていたのは、薄紫色の長髪と、月のように輝く瞳を持つ小柄な少女だった。

頭にはひび割れた二本の黒い角があり、紫色に僅かに発光している。

その隣の檻には白髪のウルフヘアの男、さらに隣には黒のチャイナドレスを着たツインテールの少女、一番端にはギザ歯が印象的な青髪の少女が収監されていた。



「こいつらは先日、都市内の路上で怪しい商品を販売していたため、道路法に基づき逮捕したんだ。どうやら学生らしいんだが……」



衛兵はそう言うと、彼らの学生証を見せてくれた。

それは大輝が持つミシアルのものと非常に似た構造になっていて、学校名の欄には『ベルゼヴ大魔学園』と記載されている。

名前からして、魔族たちが通う学校なのだろう。



「学校に連絡しようにも電話がつながらなくて、扱いに困っていたんだ」


「そりゃ当然だ!校舎を抜け出す前に電話線を切り刻んできたからなぁ!」



紫色の少女は高らかに胸を張る。なかなかの問題児のようだ。



「……お前たち、魔法は使えるのか?」


「当然だろう!吾輩は超さいきょーの闇の皇帝だからな!そんじょそこらの奴とは比べ物にもならんほどつよい!」



大輝の問いかけに彼女は自身気に答える。



「亜人の二人も魔法は使えますさかい、お役に立てると思うよ?」



ツインテールの中華娘は可愛らしくウインクして見せた。

灾胡(サイコ)の話によれば、たしか亜人というのは、人間と魔獣の混血種だったはずだ。

大昔に暴動を起こしたせいで、隔離されていると聞いていたが……。



「亜人……なのか?」


「ああ。私は『ニスロック=ホークニオ』__鷹の亜人だ。そして一番端で寝腐っているが『クロア=シャークレイ』___鮫の亜人」



紹介を受けたクロアの居る檻からは、挨拶の代わりに気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。

ウルフヘアの男__ホークニオの紹介に続き、中華娘も名乗りを上げる。



「あ、うちは『デスティノ=ユーノーン』もとい『迫 鈴華(はさま リンカ)』や」


「名前が二つあるのか?」


「せやで。うちはお母さんが人間で、お父さんが魔族やねん。せやから名前も二つもろたんよ」



種族同士で対立しているとはいえ、人間と魔族が婚約することもあるのか、と大輝が意外に感じていると、



「そして吾輩は!暗黒を司りし常闇の帝王!『ラプラス=ヘル=サタネシアン=ギアダーク=ダーカー=ブラックアウト=カイザー=オブ=シャドウ=__________」


「いや長すぎだろ!!」



大輝のツッコミにより自己紹介を中断されたラプラスは頬を膨らませ、



「じゃあ……『ラプラス=サタネシア』でいい……」



不貞腐れたように呟く。



「こいつらの事、釈放してもらえないか?力を借りたい」



大輝が衛兵に提案するとラプラスはすぐに調子を戻し、「神か!?貴様は神なのか!?」と目を輝かせた。



「ああ、国王様もそのおつもりで紹介させたのだろう。別に犯罪をしていたわけでもないしな」



衛兵は鍵を取り出し、彼らの檻の錠を外した。

クロアはその音でようやく目を覚まし、大きく伸びをしている。



「ちなみに怪しい商品ってのは、何を売ってたんだ?」


「はっはっは!よくぞ聞いてくれた!吾輩たちは同胞を募る為にグッズ販売を行っていたのだ!そんなに興味があるのなら貴様も団員にしてやろう!光栄に思えよ、見習い!」


「いや、結構です……」



断ったものの、ラプラスはどこからともなく名刺を取り出し、大輝の胸元に押し付けた。

そこには、『SSC:世界征服クラブ』という何とも痛々しい名が躍っていた。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



その後、都市を散策したものの、他に力を貸してくれそうな者は見つからなかった。

港には既に、三隻の船が用意されていた。

SSCの連中を連れ、夕焼けが照り付ける海を眺めていると、



「あ!いたいた!」



氷が手を振りながら歩いてきた。

そのすぐ後ろには鷺、そして二つ並んだ白黒の狐耳が見えた。



「言われた通り見つけてきたよ!」


「未来が見えるんだって?うちにも似たようなのが居るんだ。話が合うかもな」



澪は大輝の顔ををまじまじ覗き込んで言う。

狐族も異能を持つ者が多いらしい。

間もなくして紫苑と海夏、ベリーローゼンも合流したが、協力してくれる巡遊者や冒険者は見つからなかったそうだ。



「まあこんだけ居ればいいか……。あとは海図が来るのを待とう」


「噂をすれば、来たみたいよ」



ベリーローゼンが顎で指し示す方向にて顔を向けると、顔面蒼白で走ってくる三人の衛兵と、バルッセの姿があった。



「何かあったのか?」


「エ、エントーフお嬢様が……失踪してしまったんです……!」



国王は大輝の助言通りエントーフに部屋から出ず、大人しくしているよう伝えたものの、衛兵が先ほど見回りに来た時には、部屋はもぬけの殻だったそうだ。

現在は都市中を捜索しているそうだが、まだ見つかっていないという。



「鬼に攫われたかもしれん……。もし娘を見つけたら____」


「任せてくれ。絶対に連れ戻す」



バルッセは深く頭を下げ、大輝に海図を託した。



「よし、上陸についてだが___ホークニオとクロアはさっき話した通り、ベリーと紫苑を頼む。あとは俺とラプラス、澪と吹雪、氷、鷺、鈴華、海夏の三手に別れて三方向から乗り込む。現場での支持は誠に従ってくれ」


「吾輩に怯えて待っておけ鬼ヶ島!討ち入りじゃあ!!」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


前回、一隻で上陸を試みたことで真正面から食らった集中砲火を、五部隊編成にすることで分散する。

さらに、ホークニオの翼に乗ったベローローゼンが空を、クロアの背に乗った紫苑が海上を旋回して魔法を撃ち込み、相手方の戦力を削る。作戦としては中々の出来だった。

船の操縦など素人たちにできるのか、と思ったかもしれないが、意外にも衛兵による説明と、船に置いてあったマニュアルを読めば難なく動かせた。


ただ一つ、誤算だったのは____



「おいおいお前、防御魔法使えねぇのか!?いや、俺も使えないんだけどさ!」


「馬鹿め!防御なんてダサい真似を、この常闇の皇帝がするわけないだろ!」


「じゃあ俺たちは上陸前に魔法でお陀仏確定じゃねぇか!」


「案ずるなよ見習い_____『闇の(カイザー=オブ)帝王(=ダークネス)』の力を見せてやろう」



たじろく大輝を置いて、ラプラスはキメ顔で言うと、天に左手を高く掲げた。

海岸では既に、こちらに無数の魔法陣が向けられているのが見える。

だが、そのほとんどが火を吹くことはなかった。



「ざまぁみろ!闇に選ばれし使徒以外、吾輩の前では魔法を撃つことすら許されんのだぁー!!」


「な、なにをしたんだ……!?」


「吾輩の権能『闇の(カイザー=オブ)帝王(=ダークネス)』は周囲の全てのマナの属性を闇に塗り替える!つまり……吾輩を前にして闇属性以外の魔法使いは全て赤子に等しいのだ!勝負あったな鬼どもぉ!」



高らかに宣言すると、ラプラスは詠唱と共に海岸に向けて魔法陣を展開し、怒涛の勢いで闇の魔砲弾を海岸線へ撃ち込む。

相手は殆ど魔法の発動ができず、一瞬にして、敵の隊列は崩壊した。



「見よこの偉大なる力!封印されてなおこの威力!吾輩の真の力を出すまでもないわぁ!!」



誇らしげに胸を張る彼女の両手の甲には鍵穴のような紋様が刻まれている。

それが封印なのだろうか。いずれにせよ、彼女は口だけではない相当な実力者なのは確かだ。



「お前が敵じゃなくてよかったぜ……」


「ふふん、もっと褒めてくれて構わん!」



すると突然、誠から通信が入った。



『気を付けてください!空から何かが来ます!』



直後、轟音を立てて大輝たちの船が揺らいだ。

木屑と砂塵が晴れた甲板、そこに降り立ったのは筋骨隆々とした大男だった。

頭部には根元から折れた歪な角。その巨体といい威圧感といい、明らかなパワータイプだ。



「おいおいお前、乗船時は安全に気をつけろよ……!」



大輝が汗を流すと、大男は黄色い瞳孔を光らせ、



「お前たちこそ___安全に気をつけて下船()りろよ」




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