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Re*word ~奇石野大輝の英雄譚~  作者: 黒身魚
第一章「濫觴」
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第12話:魔法学校ミシアル



ファイナルレベルへの入団を果たした大輝は、悕烏から一枚のカードを手渡された。

それは何の変哲もないプラスチック製のカードだった。ただ一つ、表面に学生証という三文字がそっけなく印字されている点を除けば。



「学生証…?」


「ああ、君はこの世界や魔法に関して疎いようだからね。入学して最低限の知識をつけて貰いたい___君たちも必要であれば渡そうか?」



悕烏は氷とベリーローゼンに視線を向ける。

氷は引きつった笑みを浮かべながら「私は遠慮しておこうかな…」と手を振ったが、ベリーローゼンは意外にも乗り気だった。



「私の分もあるなら是非もらいたいわ!学校ってところ、一度行ってみたかったのよね!」


「お前、勉強とか一番嫌いなタイプかと思ってたぜ」



大輝が冗談交じりに言うと、ベリーローゼンは頬を膨らませた。



「アンタ、私をなんだと思ってるのよ…?」


「…イヤイヤ期真っ盛りのお子様とか?」



今にも大輝に殴りかかりそうなベリーローゼンを宥めつつ、悕烏は彼女にも学生証を差し出した。

そして、二人は烏の羽ペンを渡された。



「裏面に名前を書いてくれ」



言われたとおりに名前を綴ると、今度は表面に印字された校章に指をかざすように促された。

二人が人差し指で校章に触れると、二人の足元に眩い光を放つ魔法陣が展開された。

瞬く間に大輝とベリーローゼンは光に包まれ、二人の姿は現実世界から逸脱していった。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



不意に足が地を踏みしめる感覚が戻り、光が収まる。

目を開けると、辺りはレンガ造りの洋風建築が立ちならんだ古風な街並みへと変貌していた。

二人の目の前にそびえ立つのは、城のような巨大な建造物。その巨大な鉄門には、藍色の髪を揺らした女が退屈そうに腕を組んで寄りかかっていた。

彼女は大輝たちに気が付くと、口を開いた。



「お前たちが特別編入生か。話は悕烏から聞いている。私は『彗星 灾胡(ほうきぼし サイコ)』____この魔法学校ミシアルで教師をしている」


「俺は___」


彼女は大輝が名乗るのを手で制し、代わりに学生証を提示するよう求めてきた。

灾胡はそこに書かれた名前を薄い唇を動かしながら読み上げる。



「奇石野大輝___ふーん、お前がねぇ。ほんでこっちは…スピリア=ベリーローゼン___お前エルフか」


「ちなみに言っておくと、ハーフエルフよ」



ベリーローゼンの指摘には特に興味もなさそうに鼻を鳴らし、灾胡は鉄門の奥に向かって歩き出した。



「ついてこい。校内を案内してやる」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 



ミシアルは、外見の壮大さもさることながら、内部も度肝を抜かれるほど広大で、四階層のつくりになっていた。

道中の灾胡の解説によれば、学校に在中している教師は彼女一人だけで、生徒たちは各人に合ったカリキュラムを組まれた後、大図書館の教本などを利用して自主学習に励んでいるという。


さらに驚いたのは、廊下を行き交う生徒たちだ。

頭から立派な角を生やした者、背中に純白の翼を持つ者、そして普通の人間と、多種多様な種族が当たり前のように談笑しながら歩いている。種族同士が対立を続けている世界とは到底思えない光景が、そこにはあった。



「……なぁ、この学校はどこにあるんだ?角の生えた奴が居たり、翼の生えた奴が居たりで訳がわかんねぇ。種族同士は対立してるんじゃなかったのか?」



大輝が疑問を口にすると、灾胡は前を向いたままぶっきらぼうに答えた。



「対立しているとはいっても、それはあくまで大人たちの都合だ。それに子供を巻き込むのはお門違いだろ。あらゆる種族が共に学べる場所として、ミシアルは作られたんだよ」



一息ついて、彼女は解説を続ける。


「世界のあらゆる学校は、二つの門を持っていてな。各国に存在する『正門』は、校外の者も通ることで敷地に入ることができる。一方で『裏門』は亜空の都市の一つである『学園都市_アデミカ』に繋がっていて、学園都市と現実世界を結ぶ役割をしている。現実世界と学園都市、まったく同じ構造の建物が鏡写しのように存在していて、相互に依存し合っているんだ。お前の質問の意図を汲むなら、ミシアルの現実世界側の所在地は『旧魔王都_エンヴィール』だ。だから魔族やら何やら、いろんな種族が通っているのさ」


「ちなみにさっきお前らが入ってきたのは裏門な。学生証に魔力を注いで魔法陣を開いただろ?他の学校の学生たちも皆そういう風にして通学している。どこからでもすぐに通えるってのが便利なとこだな」


「別に便利さを求めるなら、魔法陣の転移先を直接校舎の中にすればよかったじゃない。どうしてわざわざ学園都市なんて大掛かりなものをつくったのかしら?」



ベリーローゼンのもっともな疑問に、灾胡は足を止め、何かを懐かしむように目を細めた。



「生徒たちを……守りたかったんだろうな。お前の親父は」



そう言って、彼女は振り返り、大輝の顔を見つめる。



「俺の……父さん!?」



大輝には父親に関する記憶が一切なかった。

それどころか、母親に関する記憶もである。大輝はいくら思い返してみても、他の者には当たり前にある、親と共に過ごしたという記憶がなかった。まるで初めから両親など居なかったかのように。



「ああ。『奇石野 灯輝(きせきの トウキ)』__それがお前の父の名だ。……さて、昔話はここまでだ」



湿っぽい空気を断ち切るように、灾胡は資料室の前に立ち止まった。中へ入ると、本棚から数冊の書籍を引っ張り出し、二人の胸元に押し付ける。



「これからお前らに課題を与える。それが終わるまで、学生証は預かる__つまり、お前たちは課題を終えるまでミシアルから一歩も出られないと思え」



唐突な軟禁宣告に、ベリーローゼンは即座に噛みついた。



「いや無理だから!水浴びもせず、ご飯も食べずに閉じこもって勉強しろって、殺す気!?」


「あほか。フロアガイドを見てみろ」



灾胡に呆れられ、ベリーローゼンは髪を器用に動かして山積みにされた本の中から薄い冊子を取って開いた。

大輝も横から覗き込むと、確かに大浴場、仮眠室、食堂などと施設が充実しており、一般的な生活を送る分には何一つ不自由しなさそうだ。



「ほんで、課題だが……ベリーローゼン__お前は『魔陣開口(エントファルテン)』、奇石野は『基礎魔法』を習得しろ。教材は今渡したもので足りるだろう。それから奇石野は基礎魔法を学ぶ前に、最低限の教養を叩き込んでやる。303号室に来い」



灾胡はそれだけ言い残すと、二人の前を去って行った。

大輝はベリーローゼンに別れを告げ、フロアガイドを頼りに3階へと向かった。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * 


303号室の扉を開けると、教壇に向かって木製のデスクと椅子が数組並んでいた。

構造自体はシンプルだが、使われている木材や細かな装飾からは、校舎全体に漂う気品が感じ取れた。

黒板の前でつっ立っている灾胡を見て、大輝は彼女に一番近い位置の椅子を引き、腰を下ろした。



「お前、マジで何も知らないらしいからな……。よく聞いておけよ。まずは種族についてだ。この世界には大まかに分類して【人間、魔族、亜人、蜘蛛、鬼、龍、吸血鬼、精霊、天使、悪魔】がいる。その中で、現在世界人口の大部分を占めているのが人間と魔族だ。だから、よくニュースなんかにもなる抗争ってのは人間と魔族の二者間で起こっている。天使と悪魔は亜空の向こう側にいるしな」


「さっきから話に出てくる、『亜空(あくう)』ってのは?」


「ああ、亜空ってのは現世と別の世界を繋ぐ中継地点のような空間だ。天使の居る『天界』は亜空の天界門、悪魔の居る『地獄』は亜空の地獄門、そして学園都市は亜空の裏門を通った先にある」



大輝は必死に頭を整理しながら、彼女の言葉をメモする。



「次に、現在人間と対立状態にある『魔族』について。魔族ってのは、生まれつきの魔力量が常人より多い奴らの総称だ。あいつらは世界政府によって【下級、等級、上級】に分類されている。下級魔族は言語能力を持たない魔族のことで、『魔獣』が大半を占める。等級魔族は言語能力を持っていて……まあ人間と同じだな。そして上級魔族は等級魔族を遥かに凌駕するほどに魔力量が多い奴らのことを指す。その多くがが『言雫魔(エイドス)』に適性があり、権能を行使できる。世界政府は等級以上の魔族に対して、その危険度に準じたレッテルを張っていてな。人間に対し明確な敵意がある奴らを『憂虞(ゆうぐ)』、そして人間たちにとって最大の脅威となり得る存在を『厄災(やくさい)』と呼んでいる」



一呼吸置き、灾胡の口調が一段と重くなる。



「魔族たちにも人間たち同様に世界政府的な存在があり、そのトップに立つのが魔王だ。基本的に憂虞や厄災は魔王の指示で動いていると考えろ。今の魔王『テフン=ナイトヘルメア』は人間を殲滅すると公言している。今までは結界のおかげで魔族による被害も抑えられていたが、その効力もここ数年で弱りだしている。いずれ衝突することになるだろうな」



大輝の頭は早くも限界を迎えつつあったが、灾胡の説明は終わりを見せない。



「そんな魔族との戦い方だが……勝利条件はいくつかある。そもそも上位魔族は治癒魔法が使える場合が多く、並大抵の傷はすぐに再生しちまう。だが、そんな治癒魔法でも修復できねぇのが『完全な切断』だ。首や胴体を綺麗に切り離せば、どんだけ協力な魔族だろうと間違いなく死ぬ。それと似たところだと全身を粉砕するとか、魔核(アルケー)を破壊するとかだな。だがここら辺は実践においては現実的じゃねぇ。一番の有効的手段は『マナ切れ』を狙うことだ。魔法を使えない状態までマナを枯渇させれば、当然治癒魔法も封じることができる。だから、魔族との戦闘は必然的に長期戦になるってわけだ」


「あとは、お前も聞いたであろう『夜影壁』についてだが__」


「いや、ちょっと待ってくれ!」



淡々と説明を続けようとする灾胡を大輝は慌てて挙手して引き留め、



「さっきからエイドスだのアルケーだの専門用語が多すぎんだよ!まずその基本のキを教えてくれ!」



大輝の申し出に、灾胡は心底呆れたような表情で彼を見つめた。



「お前、よく今まで生きてこれたな…」



大きなため息をつきながらも、彼女は面倒くさそうに黒板に文字を書きなぐり始めた。



「まず『魔核(アルケー)』ってのは誰しもが生まれながらに持ってる、マナやエイドスを蓄えるための媒体だ。大魔法で体外に取り出すことができ、そこに蓄えられているマナやエイドスと共に保存もできる。そして、重要な点だが……アルケーを破壊されたものは死ぬ。これは絶対に覚えておけ。そして魔核の対になる概念が『聖核(テロス)』__個体の内なる負の感情や闇を蓄える媒体。許容量を大きく上回るマナを強制的に摂取したり、負の感情が蓄積されることで、魔力の制御が失われ、自我を奪われた末に発現する。これに呑まれたら最期、自分が自分じゃなくなると思え」



灾胡の声音が一瞬だけ真剣なものへと変わった。



「魔力は体内に蓄えられる『マナ』__大気中に存在する魔力の結晶の量で決まる。これも生まれた時点で人それぞれ決まっていて、魔法は蓄えたマナを消費することで発動される。マナは【炎、土、風、雷、水、闇、光】の七つで、個体によって消費されるマナの属性_すなわち扱える魔法属性が異なる。お雨絵の魔法属性も後でチェックしてやるよ……で、悕烏から聞いたかもしれないが、例の夜影壁は闇の魔力の集合体だ。付近の者から莫大な量の魔力を吸い取るせいで、生き物が無理に通過しようとすればアルケーを激しく蝕まれ、闇のマナを過剰摂取してテロスに呑まれるか、死ぬ。逆に、アルケーを持たない機械なんかは通過できるんだがな」



大輝はペンを走らせるのを諦め、今はただ、灾胡の言葉を必死に記憶に焼き付けることに集中した。



「最後に『言雫魔(エイドス)』__これは魔力を持つ概念だ。マナと同じく大気中に存在し、アルケーに取り込まれることで初めてその存在を確認できる。エイドスにはそれぞれ固有の性質があり、その性質に適応した者に限ってアルケーにが吸収され、権能が使えるようになる。まあ鬼とか天使とか、エイドスがなくても権能を使える種族はいるが……いずれにせよ権能の発動にもマナを消費する。だからマナ切れが有効打になるんだ。ちなみに権能以外にも、天使が授ける『加護』や契約により他者の力を借りる『呪恩』なんかもあってな。その二つはマナの残量関係なしに発動できて_____」



大輝は今になって痛感していた。この灾胡という教師は、一度口を開くとなかなか話を止めない質だった。エイドスの話から始まり、いつの間にか加護のルーツにまで話が飛躍している。



「……ま、ひとまずはこんなところだな。___あ、今説明した内容は明日テストするから復習しておけよ。じゃ、また明日な」



灾胡はさも当たり前のように冷酷な宣言をすると、知識の波に押し流されて疲れ果てた大輝を置き去りにして、足早に去って行った。



「これが……学校の、やり方かよ…!」



かくして、大輝の過酷な学校生活が幕を開けた。




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