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「となりの席のアカシックレコード〜全知全能だけど、空気だけは読めません〜」  作者: 源三郎


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第52章 隣の席は自分で取ります

気持ちに、名前が、ついた。


これまでのコトハなら、たぶん、何もしなかった。


ただ、記録して、観測して、終わっていた。


でも、今のコトハは、ちがう。


待つのを、やめることにした。


翌朝、明石コトハ(あかし・ことは)は、いつもより、十五分、早く、家を出た。


理由は、はっきりしていた。


凡田一ぼんだ・はじめより、先に、教室に、着くためだ。


作戦は、こうだった。


先に着いて。


自然に。


凡田の、近くに、いる。


「自然に」


コトハは、教室の、自分の席で、つぶやいた。


「自然に、とは、何でしょう」


そこが、わからなかった。


全人類の、行動データは、ある。


でも、「自然にふるまう」というのは、計算では、出てこない。


不死川勇気ふじかわ・ゆうきが、すでに、来ていた。


「お、明石、早いな」


「はい。自然に、早いです」


「なんだそれ」


やがて、凡田が、登校してきた。


コトハは、すっと、立ち上がった。


そして、つかつかと、凡田の前に、行って。


宣言した。


「凡田さん。本日から、わたしは、あなたの近くに、いることに、しました」


教室が、しん、と、した。


凡田が、ぽかんと、する。


「……は?」


「合理的な、理由が、あります」


「いや、なんで、急に」


「言えません。秘密です」


コトハは、きっぱり、言った。


凡田は、わけが、わからなかった。


「近くにって、お前、もともと、隣の席だろ」


「席は、そうです。でも、それは、くじ引きの、結果です」


コトハは、まっすぐ、凡田を、見た。


「わたしは、くじ引きでは、なく。自分で、選んで、隣に、いたいのです」


その言葉に。


凡田は、なぜか、どきっと、した。


意味は、よく、わからない。


でも、コトハの目が、いつになく、まっすぐ、だったから。


「……お、おう。べつに、いいけど」


「ありがとう、ございます」


コトハは、満足そうに、うなずいた。


そして、自分の席に、戻った。


作戦、第一段階、成功。


──のはずだった。


問題は、昼休みに、起きた。


コトハが、凡田と、いっしょに、昼を食べようと、立ち上がった、そのとき。


横から、ぽてっと。


忘川レテ(わすれがわ・れて)が、凡田の腕に、もたれかかった。


「ぼんだー。メロンパン、半分こ」


ちくっ。


コトハの胸が、即座に、反応した。


「忘川さん」


コトハは、つとめて、冷静に、言った。


「本日の、凡田さんの、昼食時間は、わたしが、先に、予約しました」


「よやく?」


レテが、きょとんと、する。


凡田も、きょとんと、する。


「予約って、なんだよ」


「先ほど、近くにいると、宣言しました。よって、優先権は、わたしに、あります」


「権利の、話に、なってんのか」


レテは、しばらく、考えてから。


にこっと、笑って、言った。


「じゃあ、三人で、食べよ」


「……」


コトハの、完璧な作戦は。


あっさり、三人になった。


結局、その日の昼は。


凡田を、まんなかに。


右に、コトハ。


左に、レテ。


という、変な、配置で、食べることに、なった。


凡田は、両側から、見られて、めちゃくちゃ、食べにくそうだった。


「なあ。なんで、俺、はさまれてんの」


「観測です」


「監視じゃ、ねえか、それ」


レテが、凡田の、卵焼きを、つまむ。


ちくっ。


コトハも、対抗して、凡田の、卵焼きを、つまんだ。


「お前ら、俺のおかず、食うな!」


教室の、すみで。


白金歌音しろがね・かのんと、星宮ミーナ(ほしみや・みーな)が、それを、にやにや、見ていた。


「明石さん、ついに、動きましたね」


「動いたねー。でも、不器用すぎ」


「予約、とか、優先権、とか。恋愛偏差値が、宇宙最低です」


「全知なのに、ゼロからの、スタートだもんね」


二人は、楽しそうに、ジュースを、飲んでいた。


その日の、放課後。


コトハは、また、凡田の前に、立った。


「凡田さん」


「今度は、なんだ」


「いっしょに、帰っても、いいですか」


凡田は、すこし、固まった。


「……帰り道、同じだろ。べつに、いつも、いっしょ、みたいなもんだろ」


「いつも、ではなく。今日は、わたしが、誘いました」


コトハは、言った。


「それが、大事なのです」


凡田には、その違いが、いまいち、わからなかった。


でも。


なぜか、断る気には、ならなかった。


「……まあ、いいけど」


「ありがとう、ございます」


コトハは、すこし、笑った。


そして、二人は、並んで、教室を、出た。


その、後ろ姿を。


レテが、見ていた。


いつもの、にこにこ顔で。


でも。


ほんの、一瞬だけ。


その笑顔が、なにか、わからないものを、見るように。


すっと、揺れた、気がした。


レテは、自分の胸に、手を、当てた。


「……あれ」


なにか、もやっと、した。


でも、それが、なんなのか。


レテには、わからなかった。


そして、次の瞬間には。


もう、忘れていた。


「……おなか、すいたな」


レテは、ぽてっと、机に、頬杖をついて。


また、半分、寝た。


コトハが、ついに、自分から、動きました。


ただし、やり方は、絶望的に、不器用です。


「近くにいると、宣言します」「昼食時間を、予約しました」。


恋愛偏差値、宇宙最低。


でも、その不器用さが、全知だったコトハが、初めて、自分の意志で、選んでいる証です。


席は、くじ引き。


でも、隣にいることは、自分で、選べる。


これまで、コトハが、すこしずつ、学んできたことが、ここで、恋の形に、なりました。


そして、最後に、レテの胸が、もやっと、しました。


その正体は、次の編で、すこしずつ、明らかになります。

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