第48章 全員ずぶ濡れで痛み分けです
ミーナの、バズーカが。
散水栓を、ぶち抜いた。
水が、空に、舞い上がって。
全員の、頭の上に、降ってくる。
ここから先は、もう、競技じゃ、なかった。
水は、すごい、勢いだった。
噴き上がった、しぶきが、太陽に、当たって。
校庭に、小さな、虹が、かかった。
そして、その下で。
全員が、ずぶ濡れに、なった。
明石コトハ(あかし・ことは)は、ぽかんと、空を、見上げていた。
髪から、ぽたぽた、水が、垂れている。
「……水浸しです」
「見りゃ、わかる」
凡田一も、頭から、びしょ濡れだった。
前髪が、おでこに、貼りついている。
そこへ。
宵島カケル(よいじま・かける)が。
なぜか、いちばん、楽しそうに、両手を、広げて、叫んだ。
「うおおお! 気持ちいいィ!」
「お前のせいだろ、半分は!」
「もう半分は、ミーナだ!」
星宮ミーナ(ほしみや・みーな)が、濡れた髪を、かき上げる。
「あたしは、悪くない。お題が、『いちばん大きい音』、だったから」
「バズーカは、過剰だろ!」
水しぶきの中で。
鬼塚源蔵が、若返ったまま、ぶるっと、首を振った。
犬みたいに、水を、飛ばす。
「……ひさしぶりに、いい汗、かいた」
そして、ふっ、と。
しわの寄った、いつもの、おじいさんの姿に、戻った。
「あれ。鬼塚さん、戻った」
「本気を、出しきると、戻るんだ」
不死川勇気が、砂場から、ずぶ濡れの、泥まみれで、起き上がる。
「俺の、出番は!?」
「お前は、最初に、ネット、突き破って、終わってる」
凡田が、つっこむ。
白河ナギ(しらかわ・なぎ)は、バインダーを、頭の上に、かざして、必死に、守っていた。
でも、もう、ぐしょぐしょだった。
「進行表が……インクが、にじんで……」
「ナギ、もう、諦めろ」
凡田が、声を、かける。
ナギは、しばらく、にじんだ進行表を、見ていた。
それから。
ぱさっ、と、手を、離した。
「……もう、いいです。知りません」
ぐしょ濡れの、進行表を、放り出して。
ナギは、空を、見上げた。
「私、いつも、計画、立ててるんですけど」
「うん」
「いつも、こう、なるんです」
「だろうな」
「もう、計画、立てるの、やめようかな……」
「やめんなよ。お前が、いないと、未明、全滅するぞ」
ナギは、ぐしゃっと、笑った。
濡れた顔で。
「……ですよね」
校庭の、まんなかで。
忘川レテ(わすれがわ・れて)が、水たまりを、ぱしゃぱしゃ、踏んでいた。
子どもみたいに。
「コトハ! 水! あったかい!」
「ぬるいだけです」
「あったかい!」
レテは、コトハの手を、ひっぱって。
水たまりに、引きずり込んだ。
「わ」
コトハの、上履きが、ぱしゃん、と、水に、つかる。
「忘川さん。記録が……いえ、もう、いいです」
コトハも、観念して。
水たまりを、ぱしゃ、と、踏んだ。
それから、もう一回。
ぱしゃ、ぱしゃ。
ちょっとだけ、楽しそうに。
その様子を見て、桜庭レイコ(さくらば・れいこ)先生が、ずぶ濡れのまま、ため息を、ついた。
「……勝ち越し、できませんでしたね」
審判をしていた、黒鳥先生が、のんびり、答える。
「まあ、なんとか、なったじゃ、ないですか」
「なっていません。記録は、競技不成立です」
「では、引き分け、ということで」
「……仕方、ありませんね」
桜庭先生も、最後は、すこし、笑っていた。
こうして。
交流戦は。
最終種目・なんでもありリレーが、競技不成立に、終わり。
総合成績は。
一勝、一敗、一分け、プラス、全員ずぶ濡れ。
つまり、痛み分けと、なった。
誰も、勝たなかった。
誰も、負けなかった。
ただ、全員が、びしょ濡れで、笑っていた。
カケルが、コトハの前に、来た。
ずぶ濡れの、こぶしを、突き出す。
「次は、勝つ」
「はい。毎回、言っていますね」
「言い続けるんだよ。それが、ライバルってもんだ」
コトハは、すこし、考えて。
濡れたこぶしを、こつん、と、合わせた。
「はい。受けて、立ちます」
そのとき。
不死川が、突然、叫んだ。
「水、合戦だァーッ!」
両手で、水を、すくって、ぶちまける。
「やめろ、もう、終わ──」
凡田の、制止より、早く。
全員が、いっせいに、水を、かけ合い始めた。
青蘭も、未明も、関係なかった。
ミーナが、ホースを、奪い、白金歌音が、めずらしく、バケツで、応戦し。
カケルが、雄たけびを、上げ、レテが、げらげら、笑い。
桜庭先生が、こっそり、黒鳥先生に、水を、かけ。
校庭が、巨大な、水遊び場に、なった。
凡田だけが。
ずぶ濡れのまま、ひとり、空を、見上げて、つぶやいた。
「……なんで、俺の、まわりは、いつも、こうなんだ」
その、頭の上に。
レテが、バケツの水を、ぶちまけた。
「ぼんだも、あそぼ!」
「だから、終わったって、言ってんだろォ!」
ずぶ濡れの、凡田の、ツッコミが。
虹のかかった、校庭に、響きわたった。
誰も、泣いていなかった。
ただ、おかしくて、しかたが、なかった。
交流戦、これにて、痛み分けで、終了です。
今回は、最初から最後まで、笑いだけで、走りました。
涙は、一滴も、入れていません。
ナギが進行表を放り出す場面と、コトハが水たまりを踏む場面が、書いていて、いちばん、楽しかったです。
笑って終わる回を、ひとつ挟んでおくと、次に泣ける回が来たとき、たぶん、もっと効きます。
交流戦は、終わりました。
でも、ライバル校の二人は、まだ、帰りません。
次回、カケルとナギが、なぜか、青蘭に、住みつき始めます。




