第49章 ライバル校が帰りません
交流戦は、終わった。
ライバル校とは、もう、しばらく、会わない。
──はずだった。
なのに、なぜか。
翌週から、未明学園の、二人が、二年三組に、いる。
月曜日の、朝。
明石コトハ(あかし・ことは)が、教室に入ると、見慣れない、紺色の制服が、二つ、あった。
宵島カケル(よいじま・かける)が、不死川勇気と、腕相撲を、していた。
白河ナギ(しらかわ・なぎ)が、白金歌音と、進行表の、付け方について、語り合っていた。
「……なぜ、未明の人が、います」
コトハが、聞くと。
凡田一が、自分の席で、げんなりした顔で、言った。
「来ちゃったんだよ。普通に」
「来ちゃった」
「『交流、まだ、続いてるよな?』だってさ」
カケルが、腕相撲の手を、止めずに、叫ぶ。
「続いてるに、決まってんだろ! 友情は、無期限だ!」
「交流戦は、期限つきだったけどな」
ナギが、バインダーを、見せた。
「いちおう、制度上は、合ってます。両校の、合同交流期間が、今学期いっぱい、延長されたんです。授業の、見学交流、という名目で」
「誰が、延長したんだよ」
「うちの、黒鳥先生が、『まあ、いいでしょう』って、判子を。──たぶん、書類、読んでません」
「ゆるすぎるだろ、未明……」
凡田は、頭を、抱えた。
それでも、紙の上では、ちゃんと、許可されている。
だから、誰も、追い出せなかった。
不死川が、ぐっと、力を、込める。
「カケル! 俺は、まだ、負けてねえ!」
「奇遇だな! 俺も、まだ、負けてねえ!」
二人とも、勝負には、こだわるくせに。
腕相撲は、もう、五分、引き分けが、続いていた。
ナギは、白金と、すっかり、仲良くなっていた。
「白金さんの、この、色分け、すごいです。締切が、一目で」
「ナギさんこそ。この、リスクヘッジ欄、勉強に、なります」
「同志……!」
「同志……!」
委員長と、苦労人が、固く、手を、握っていた。
凡田が、それを見て、ぼそっと、言う。
「類は、友を、呼ぶな」
コトハは、自分の席に、座った。
そして、隣を、見た。
忘川レテ(わすれがわ・れて)が、いつものように、机に、頬杖をついて、半分、寝ていた。
もう、すっかり、二年三組の、一員みたいに。
「忘川さん。おはようございます」
「ん……おはよ、コトハ」
レテは、寝ぼけながら、こちらを、見て。
それから、ふにゃ、と、笑った。
「あ。コトハだ。今日も、いた」
「毎日、います」
「うん。コトハは、毎日、いる」
レテにとって、それは、当たり前じゃ、なかった。
毎朝、世界は、まっさらで。
でも、コトハのことだけは、ちゃんと、覚えている。
それが、レテには、すこし、不思議で。
すこし、うれしいことだった。
そこへ。
カケルが、腕相撲を、引き分けで、切り上げて、やってきた。
「よう、転校生! 今日も、まっかか!」
「赤く、ありません」
「この前、まっかだったろ。忘川を、借りたとき」
「あれは、観測誤差です」
「ぜったい、ちがうだろ」
カケルは、けらけら、笑って。
それから、レテの、頭を、わしわし、撫でた。
「なあ、忘川。お前、毎朝、コトハの名前だけ、覚えてるって、すげえよな」
「うん。なんでか、忘れない」
「俺の名前は?」
レテは、きょとんと、した。
「……だれ?」
「ちょ、毎日、会ってんだろ!」
カケルが、がっくり、肩を、落とす。
「俺の名前は、忘れて、コトハは、覚えてる。差は、なんだ。差は」
凡田が、横から、つっこむ。
「お前が、うるさいからじゃ、ねえの」
「うるせえ、のは、いいことだろ!」
教室が、わいわいと、にぎやかになる。
コトハは、その光景を、見ていた。
未明の、二人が、いる。
白金と、ナギが、笑っている。
不死川と、カケルが、また、腕相撲を、始める。
そして、レテが、いる。
いつのまにか、二年三組は、ずいぶん、にぎやかな、教室に、なっていた。
全知だった頃の、コトハには。
こんな未来、予測できなかった。
いや。
予測できなくなったから、こんな未来に、なったのかも、しれなかった。
コトハは、すこし、笑った。
そのとき。
レテが、ふらっと、立ち上がって。
凡田の、ところへ、行った。
「ぼんだ」
「あ? なんだ」
「メロンパン、半分こ、しよ」
「お前、自分の、買えよ」
「忘れた。お金、持ってくるの」
「……しょうがねえな」
凡田が、自分のメロンパンを、半分に、割って、レテに、渡した。
レテは、それを、受け取って。
うれしそうに、食べた。
「ぼんだ、やさしい」
「やさしくは、ない。うるさいから、黙らせてるだけだ」
その、やりとりを。
コトハは、見ていた。
なんてことのない、光景だった。
レテが、凡田に、メロンパンを、もらっている。
それだけ。
なのに。
コトハの、胸の、いちばん奥が。
なぜか、ちくっと、した。
「……?」
コトハは、自分の、胸に、手を、当てた。
痛い、わけじゃ、ない。
でも、なにか、変だった。
データには、ない、感覚だった。
「故障、でしょうか」
コトハは、小さく、つぶやいた。
その、つぶやきは。
にぎやかな、教室の中で。
誰にも、聞こえなかった。
交流戦が終わっても、未明の二人は、帰りませんでした。
カケルは、うるさく。
ナギは、白金と、苦労人同盟を、結成。
そして、レテは、もう、完全に、二年三組の、住人です。
にぎやかな、日常回でした。
でも、最後に、ひとつだけ。
レテが、凡田に、メロンパンを半分こ、してもらう場面で。
コトハの、胸が、ちくっと、しました。
これが、何なのか。
全知だったはずの彼女は、まだ、わかっていません。
次回、コトハが、その「故障」の、正体を、調べ始めます。




