第47章 借り物競走に常識はありません
最終種目、なんでもありリレー。
障害物を、越えて。
お題のものを、借りてきて。
リレーする。
ルールは、それだけ。
それだけ、なのに。
校庭は、一瞬で、戦場に、なった。
体育交流の、当日。
青蘭高校の、校庭に、コースが、組まれた。
ネット、平均台、タイヤ、泥のたまり。
そして、スタートとゴールのあいだに、借り物の、お題ボックスが、置かれた。
選手は、走って、箱から、お題を引き、それを、借りてきて、ゴールする。
第一走者。
青蘭は、不死川勇気。
未明は、宵島カケル(よいじま・かける)。
「いくぞオラァ!」
「こっちこそだァ!」
ピストルが、鳴った。
二人が、同時に、飛び出す。
ネットを、くぐる。
ように、見せかけて。
不死川は、ネットを、頭から、突き破った。
「くぐれ! くぐるんだよ!」
凡田一の、声が、飛ぶ。
カケルは、平均台を、四つん這いで、爆走した。
落ちないが、もう、競技じゃ、なかった。
二人が、ほぼ同時に、お題ボックスに、たどりつく。
不死川が、引いたお題は。
『いちばん、強い人』
不死川は、まよわず、走り出した。
そして、校舎の、裏へ。
そこで、花に、水を、やっていた。
用務員の、鬼塚源蔵の、腕を、つかんだ。
「鬼塚さん! ちょっと、来てください!」
「あ?」
「いちばん、強い人を、借りに、来ました!」
鬼塚の、目つきが。
すっと、変わった。
昔、腕一本で、関東を、まとめた、男の、目に。
「……ひさしぶりに、その言葉、聞いたな」
ぽきり、と、首を、鳴らす。
次の瞬間。
鬼塚の、しわが、すっと、消えて。
二十代の、若々しい、姿に、なった。
「やべえ。若返った」
凡田が、青ざめる。
鬼塚は、不死川を、ひょいと、小脇に、抱えた。
「借りられて、やる。──ただし、本気で、走るぞ、坊主」
「うおおおおっ!?」
鬼塚が、地を、蹴った。
砂けむりが、爆発した。
不死川を、抱えたまま、コースを、逆走。
タイヤを、薙ぎ倒し、平均台を、踏み砕き。
ものすごい、速さで、ゴールへ、突っこんだ。
ゴールテープが、消し飛んだ。
「青蘭、第一走者、ゴオオオル!」
実況の、白金歌音の、声が、裏返る。
「いや、これ、競技、なんですか!?」
一方。
未明の、カケルが、引いたお題は。
『絶対に、忘れないもの』
カケルは、にやりと、笑った。
そして、走り出す。
向かう先は。
スタート地点で、ぼーっと、立っていた。
忘川レテ(わすれがわ・れて)の、ところ。
「忘川! お前を、借りる!」
「えっ、私?」
「お前にとって、絶対に、忘れないもの! それを、見せろ!」
レテは、きょとんと、した。
「……絶対に、忘れないもの」
そんなもの、あったかな、という顔で。
レテは、しばらく、考えた。
それから。
ぱたぱた、と、走り出した。
カケルの、ゴールとは、逆の、ほうへ。
「おい、忘川! ゴールは、こっち──」
レテは、聞いていなかった。
まっすぐ、青蘭側の、テントへ。
そこで、給水の、準備を、していた。
明石コトハ(あかし・ことは)の、手を、つかんだ。
「コトハ。これ」
「忘川さん?」
「私の、絶対に、忘れないもの。コトハ」
体育交流の、ざわめきが。
一瞬、止まった。
レテは、にこにこ、と。
ただ、思ったままを、言った。
「いろいろ、忘れるけど。コトハの名前だけ、ずっと、残ってる。だから、これ、絶対、忘れないやつ」
コトハの、顔が。
ぼっ、と、赤くなった。
耳まで。
「……記録上、平熱です」
「うそだ。まっか」
「観測、誤差です」
カケルが、頭を、抱えて、叫んだ。
「俺の、お題ァ! 持ってかれた! しかも、青蘭側で!」
ナギが、遠くで、つっこむ。
「カケル、それ、ルール的に、たぶん、無効ですからね!」
「ルールなんて、いらねえ、って、言っただろ!」
「あんたが、言ったんでしょうが!」
校庭は、もう、めちゃくちゃだった。
鬼塚は、若返ったまま、二週目を、走り出すし。
不死川は、抱えられた勢いで、砂場に、刺さっているし。
カケルは、お題を、奪われて、わめいているし。
その、混乱の、ど真ん中で。
星宮ミーナ(ほしみや・みーな)の、お題ボックスの、番が、回ってきた。
ミーナが、引いたお題は。
『いちばん、大きい音』
ミーナの、目が。
きらん、と、光った。
「まかせて」
そして、どこからか。
バズーカ砲を、取り出した。
「だから、なんで、持ってるんだよォ!」
凡田の、絶叫も、むなしく。
ミーナは、空に向けて。
ぶっ放した。
どがあああん、と。
校庭中に、史上最大の、音が、轟いた。
そして、その衝撃で。
校庭の、隅にあった、散水栓が。
ぶしゃーっと、噴き出した。
水が、空高く、舞い上がる。
全員の、頭上に。
雨みたいに、降りそそいだ。
借り物競走に、常識は、ありませんでした。
鬼塚さん、若返って、暴走。
ミーナ、お題に、かこつけて、兵器。
そして、レテの「絶対に忘れないもの」が、コトハだった件。
ここは、笑いの回ですが、ひとつだけ、大事な伏線です。
レテは、いろいろ忘れても、コトハの名前だけ、ずっと残っている。
その理由は、もう、説明しません。
次回、全員、ずぶ濡れで、決着します。




