第46章 リベンジ戦は予測できません
料理は、引き分け。
即興演劇は、未明の勝ち。
合唱は、青蘭の勝ち。
一勝、一敗、一分け。
交流戦は、きれいに、五分だった。
そこへ、宵島カケルが、宣戦布告に、やってくる。
合唱コンクールの、三日後。
昼休みの、二年三組に、また、あの男が、乗り込んできた。
「決着、つけようぜェ!」
宵島カケル(よいじま・かける)だった。
未明学園の制服のまま、堂々と、教室の真ん中に立つ。
「料理、引き分け。演劇、俺たちの勝ち。合唱、お前らの勝ち。──このまま、終われるか!」
凡田一が、メロンパンを片手に、面倒くさそうに、言う。
「いや、別に、終わっていいだろ」
「よくねえ! 男には、白黒つけなきゃ、いけねえ、瞬間がある!」
「お前、女子も、いるけどな、チームに」
カケルの、後ろから。
白河ナギ(しらかわ・なぎ)が、バインダーを抱えて、現れた。
例によって、死んだ目を、している。
「すみません。止めたんですけど。こいつ、夜中に、リベンジの種目を、考えてきて」
「種目?」
明石コトハ(あかし・ことは)が、聞き返す。
カケルは、待ってました、とばかりに、一枚の紙を、広げた。
そこには、ぐちゃぐちゃの字で、こう、書いてあった。
『障害物・借り物・リレー・バトルロイヤル』
「……なんですか、これ」
「全部、混ぜた! 障害物を、越えながら! お題のものを、借りてきて! リレーして! いちばん速いチームが、勝つ!」
ナギが、こめかみを、押さえた。
「ルールが、多すぎて、誰も、把握できないんです」
「把握なんて、いらねえ! 体で、覚えろ!」
「それで、毎回、うちの学校、保健室が、満員になるんです」
凡田は、コトハと、顔を、見合わせた。
「やめとこうぜ」
「はい。やめましょう」
二人の、ツッコミ役の、意見は、一致していた。
ところが。
教室のいちばん後ろから。
寝ぼけた声が、した。
「……たのしそう」
忘川レテ(わすれがわ・れて)だった。
机に、頬杖をついて、半分、寝ながら。
「障害物、好き。あと、借り物も、好き。なんか、走るの、好き」
「忘川、お前まで」
カケルが、ぱっと、顔を輝かせる。
「だろ! 忘川は、わかってる!」
そこへ、星宮ミーナ(ほしみや・みーな)が、立ち上がった。
「あたしも、やる! ステージで鍛えた、体力、見せてやる!」
不死川勇気も、拳を、握る。
「障害物だと!? 俺の、得意分野だ! 壁なら、何枚でも、抜ける!」
「抜くな。壁は、ドアを、使え」
凡田の、ツッコミは、もう、誰にも、届いていなかった。
白金歌音が、ため息をつきながら、進行表を、見た。
「……一応、確認しますけど。これ、学校に、許可、取れるんですか」
その問いに、答えたのは。
教室に、いつのまにか、立っていた、桜庭レイコ(さくらば・れいこ)先生だった。
「取れますよ」
にっこり、笑っている。
「ちょうど、来週、合同の、体育交流が、予定されています。そこに、ねじ込みましょう」
「先生、止める側じゃ、ないんですか」
「青蘭の、勝ち越しが、かかっていますからね」
桜庭先生の目が、めずらしく、勝負師の、光を、帯びた。
「負けるのは、性に、合いません」
凡田は、頭を、抱えた。
「大人が、いちばん、乗ってる」
未明の引率、黒鳥先生は、廊下で、のんびり、お茶を、飲んでいた。
「まあ、なんとか、なるでしょう」
「ならないから、毎回、私が、走り回るんです!」
ナギの、悲鳴が、廊下に、響いた。
こうして。
交流戦の、最終種目。
『障害物・借り物・リレー・バトルロイヤル』、通称・なんでもありリレーが。
誰も、望んでいないのに。
いや、一部の、変なやつらだけが、望んで。
開催される、ことに、なった。
レテは、最後まで、にこにこ、していた。
「ねえ、コトハ。私たち、敵だけど」
「はい」
「全力で、ぶつかろうね」
コトハは、すこし、考えてから、うなずいた。
「はい。──ただし、わたしは、走るのが、世界で、いちばん、遅いです」
「知ってる」
「記録上、人類の、下位、〇・一パーセントです」
「だいじょうぶ。私も、たぶん、途中で、何しに走ってたか、忘れるから」
「……それは、勝てる気が、しません」
二人の、ぽんこつ同士の、戦いの、火ぶたが。
静かに、切られた。
ここから三話は、涙、なしで、いきます。
交流戦の、最終種目は、カケルが夜中に考えた、ルールぐちゃぐちゃの、バカ騒ぎ。
止めたいツッコミ役(凡田・ナギ)と、乗りすぎる変人たち(カケル・不死川・ミーナ・レテ)。
そして、いちばん乗っているのが、桜庭先生。
笑いだけで、走り抜けます。
次回、本番。常識は、置いていきます。




