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「となりの席のアカシックレコード〜全知全能だけど、空気だけは読めません〜」  作者: 源三郎


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第24章 帰還推奨

メロンパン。


昼休み。


弁当交換。


アルシヴは少しずつ、青蘭高校の日常を観測していった。


しかし、監査官は監査官である。


理解しかけたことと、判断が甘くなることは、同じではない。


その日の放課後。


中間報告が告げられた。


放課後の二年三組に、アルシヴは立っていた。


教卓の前。


端末を両手で持ち、いつもの無表情で。


凡田一ぼんだ・はじめは、自分の席に座っている。


隣には明石コトハ(あかし・ことは)。


白金歌音、星宮ミーナ、不死川勇気も残っていた。


桜庭レイコ先生は教室の後ろに立っている。


アルシヴが言った。


「中間監査報告を行います」


教室の空気が、少し硬くなる。


「明石コトハの現地活動は、複数の情動反応を発生させています」


凡田は黙って聞いた。


「メロンパン摂取時の涙腺反応」


「メロンパンって言え」


「昼休みにおける非効率な安定」


ミーナが小声で言う。


「なんかいい響き」


白金は真剣な顔だ。


アルシヴは続ける。


「体育祭における記録訂正行為」


コトハの指が、机の上で少し動いた。


「現地体験者としての自己定義」


アルシヴは一拍置いた。


「以上の結果、明石コトハは記録存在としての安定性を著しく低下させています」


凡田の胸が、嫌な音を立てた気がした。


「安定性って」


「全知性、客観性、非干渉性。いずれも低下しています」


コトハは静かに聞いている。


アルシヴは端末を操作した。


光の文字が教室の空中に浮かぶ。


『中間判断:帰還推奨』


ミーナが立ち上がった。


「ちょっと待って」


不死川も立つ。


「帰るってどこにだよ!」


白金は声を抑えて言う。


「理由を説明してください」


アルシヴはうなずく。


「明石コトハが現地に残留することで、本人の記録存在としての機能低下が進行します」


「機能」


凡田は、その言葉が気に入らなかった。


「人みたいに言えよ」


アルシヴは凡田を見る。


「明石コトハは、人ではありません」


教室が静まり返った。


それは事実だった。


でも、事実だけでは足りないことを、みんな少しずつ知っている。


コトハが口を開く。


「アルシヴ」


「はい」


「帰還すると、私はどうなりますか」


アルシヴは答える。


「元の記録領域へ統合されます。現地活動で発生した不安定な情動反応は整理されます」


「整理」


「はい」


「メロンパンは」


「記録として保存されます」


「昼休みは」


「記録として保存されます」


「体育祭は」


「独立記録として保存済みです」


コトハは少しうつむいた。


「保存されても、私はそこにいません」


アルシヴは黙った。


凡田は、隣の席を見る。


いつもの隣。


第8章でくじ引きで決まった席。


第14章で、席以外にも隣があると知った距離。


そこにいるコトハが、少し遠く見えた。


ミーナが言った。


「帰還推奨って、絶対なの?」


「中間判断です。最終査定前に覆る可能性はあります」


白金がすぐに反応する。


「では、反証資料を提出できますか」


アルシヴは端末を見る。


「可能です」


不死川が拳を握った。


「反証って、戦うのか!?」


「書類です」


「書類か!」


「でも戦います」


白金が言った。


「書類で」


凡田は小さく息を吐いた。


少しだけ、教室の空気が戻る。


アルシヴは無表情のまま続けた。


「最終査定まで、三日です」


「短いな」


「監査規定です」


「宇宙の規定、だいたい融通が利かない」


コトハは不明事項記録帳を開いた。


いつものように書こうとして、手が止まる。


凡田は聞いた。


「何を書くんだ」


コトハは小さく答えた。


「帰還推奨」


「それだけ?」


「いいえ」


コトハはゆっくり書いた。


『帰還推奨』

『未確定』


そして、もう一行。


『私は、まだ帰りたいかわかりません』


凡田は、その文字を見た。


帰りたくない、ではない。


残りたい、でもない。


まだ、わからない。


それが今のコトハの正直な答えだった。


桜庭先生が静かに言った。


「では、明日から反証資料を集めましょう」


白金がうなずく。


「証言を整理します」


ミーナが言う。


「私は歌えるよ」


不死川が言う。


「俺は書類で戦う!」


凡田はコトハを見た。


「俺は」


言いかけて、止まった。


何を言えばいいのか、すぐにはわからない。


だから、いつものように言った。


「とりあえず、明日も学校来い」


コトハは顔を上げる。


「はい」


その返事は、小さかった。


でも、確かに隣から聞こえた。


読んでくださってありがとうございます。


今回は、帰還推奨が出る話でした。


コトハ自身もまだ答えを決められていません。

ここから、残る理由を探す時間に入ります。

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