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「となりの席のアカシックレコード〜全知全能だけど、空気だけは読めません〜」  作者: 源三郎


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第23章 監査官は昼休みを理解できません

アルシヴは、メロンパンを炭化水素塊からメロンパンへ再分類保留した。


大きな進歩である。


たぶん。


しかし、学校生活にはまだ説明しにくいものが多い。


その代表が、昼休みだった。


昼休みの二年三組は、いつも少し混沌としている。


弁当を食べる者。


購買へ走る者。


机をくっつける者。


宿題を写そうとして白金歌音に止められる者。


星宮ミーナは机に突っ伏しながらおにぎりを食べている。


不死川勇気はなぜか立ったままパンを食べている。


凡田一は、自分の席で普通に弁当を開いた。


明石コトハは隣で、箸の持ち方を確認している。


そして監査官アルシヴは、教室の端で端末を構えていた。


「昼休み観測を開始します」


凡田は言った。


「また観測する」


「監査です」


「便利な言葉だな、監査」


アルシヴは教室を見回す。


「授業停止時間であるにもかかわらず、生徒は教室に残留しています」


白金が答える。


「昼食のためです」


「食事であれば、個別に摂取すればよいのでは」


ミーナが顔を上げる。


「一緒に食べるほうが、なんかいいじゃん」


「なんか」


アルシヴは端末に入力する。


『昼休み価値:なんか』


凡田は止めた。


「監査記録に“なんか”を入れるな」


不死川が弁当箱を掲げた。


「俺のからあげ、一個いるか!」


「欲しい」


ミーナが即答する。


「交換だ!」


不死川はからあげを渡し、ミーナは小さな卵焼きを返した。


アルシヴは目を細める。


「食料交換」


「弁当交換です」


白金が訂正する。


「交換比率が不均衡です。からあげ一個に対し、卵焼き一切れ」


不死川は胸を張った。


「気持ちで等価!」


「気持ち」


アルシヴが入力しかける。


凡田が止める。


「そこはたぶん、記録してもわからない」


「では、なぜ交換するのですか」


凡田は弁当を見た。


なぜ。


言われると困る。


からあげが欲しいから。


相手にあげたいから。


一口もらうと会話が増えるから。


どれも正しいようで、足りない。


コトハも考えていた。


「私も、説明が難しいです」


アルシヴが見る。


「明石コトハでも?」


「はい」


コトハは箸を置く。


「楽しい、という言葉はあります」


「情動分類です」


「でも、なぜ楽しいのかを全部説明すると、楽しいから少し離れます」


凡田は少し驚いた。


いいことを言っている。


本人も少し驚いた顔をしている。


ミーナがにやにやした。


「コトハ、昼休みわかってきた?」


「まだ、わかっていません」


「じゃあ一口いる?」


ミーナはおにぎりを差し出した。


コトハは困る。


「これは、観測ですか」


「違う。味見」


「味見」


コトハは一口食べた。


「鮭です」


「当たり」


「星宮さんの昼休みの味がします」


ミーナは一瞬だけ照れた。


「変なこと言うね」


凡田は笑った。


アルシヴはその様子をじっと見ている。


「昼休みは、非効率です」


「まあな」


「しかし、明石コトハの情動反応は安定しています」


白金が言う。


「安定しているなら、よいのでは?」


「記録存在としては、非効率な安定です」


「また難しい」


コトハはアルシヴを見た。


「アルシヴも、食べますか」


「監査中です」


「監査しながらでも、食べられます」


凡田が言う。


「昼休みだからな」


アルシヴはしばらく沈黙した。


やがて、コトハの差し出した小さな卵焼きを受け取る。


口に入れる。


「甘いです」


「それ、うちの母さんのやつ」


凡田が言う。


アルシヴは端末を見る。


「母親由来の糖分」


「そこで止まるな」


コトハが小さく言った。


「凡田くんの昼休みの味です」


凡田は弁当箱を閉じかけて、少しだけ手を止めた。


「……そういう言い方は、ずるい」


アルシヴは端末に入力する。


『昼休み:非効率な安定を確認』


凡田はのぞきこんだ。


「まあ、前よりは近い」


「近いですか」


「ちょっとだけ」


昼休みのチャイムが鳴る。


いつもの音。


誰かが弁当箱をしまう。


誰かがまだパンをかじっている。


誰かが午後の授業を嫌がっている。


アルシヴはその全部を見ていた。


そして、端末にもう一行だけ足した。


『観測だけでは不足』


コトハは、その文字を見て静かに笑った。


読んでくださってありがとうございます。


今回は、昼休みの話でした。


効率だけでは説明できないけれど、そこにいると少し安定する。

アルシヴにも、ほんの少しだけ伝わり始めています。

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