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第5話 追放未遂

 重い扉が閉まる音が響いた。


 石造りの会議室。


 円卓を囲むのは、王国の上層部。


 騎士団長、宮廷魔導師、文官長――そして、数名の貴族。


「結論から言おう。」


 白髪の老貴族が口を開いた。


「あの少年は危険だ。」


 しばしの沈黙。


 否定する者はいない。


「魔力反応ゼロ。にもかかわらず、あの戦闘能力だ。」


 宮廷魔導師が眉をひそめる。


「理論的に説明不能です。あれは魔法ではない"何か"だ。」


「制御は可能か?」


「不可能でしょうな。」


 即答だった。


 空気がさらに重くなる。


「……ならば」


 騎士団長が低く言う。


「排除すべきではないか。」


 その一言で、場が凍りついた。


「待て。」


 文官長が制する。


「戦力としては破格だ。失うのは損失が大きすぎる。」


「だが、制御できん戦力は脅威でしかない。」


「管理すればいい。」


「どうやってだ。」


 言葉が詰まる。


 答えは、誰も持っていない。


 だからこそ問題なのだ。


「……勇者パーティから外す。」


 老貴族が結論を出す。


「監視下に置き、必要時のみ運用する。」


「実質的な隔離、ですか――。」


「そうだ。」


 短い沈黙。


「異論は?」


 誰も答えなかった。


 ――決定。


 久我泰玄は、“勇者ではなくなる”。


---


 その頃。


「で、なんで俺だけ呼び出し?」


 泰玄は、面倒くさそうに頭をかいていた。


 目の前には、あの文官。


「結論を伝えます。」


 淡々とした声。


「あなたは本日をもって、勇者パーティから外れます。」


「……あー、やっぱり。」


 特に驚きはない。


「理由は?」


「危険因子のためです。」


「はいはい。」


 納得したように頷く。


 むしろ当然だと思っている。


「今後は監視下に置きます。単独行動は禁止。」


「面倒くさいな……。」


 心底嫌そうな顔。


 だが反発はしない。


「別にいいけど。」


 軽い一言だった。


 その態度に、文官はわずかに目を細める。


(危機感がない……のか、それとも)


 測りかねている。


「一つ確認を。」


「ん?」


「なぜ、従うのですか?」


 率直な疑問だった。


 この力があれば、反抗もできるはず。


 だが泰玄は、少し考えてから答えた。


「いや、」


 肩をすくめる。


「揉めるの面倒だし。」


「……それだけですか?」


「それだけ。」


 あまりにも軽い。


 だが、それが本音だった。


(戦う理由がないなら、戦わない)


 それだけの話だ。


 ――その時だった。


 外から、けたたましい鐘の音が響いた。


 警鐘。


「何だ?!」


 文官が眉をひそめる。


 扉が勢いよく開く。


「報告! 魔族が――!」


 兵士が叫ぶ。


「前線を突破しました!」


「なに!?」


 場が一気に緊迫する。


「規模は!?」


「不明! だが多数!」


 文官が即座に判断を下す。


「騎士団を総動員――」


 言いかけて、止まる。


 視線が、泰玄へ向く。


 一瞬の迷い、そして理解する。


 ――選択肢は一つしかない。


「……あなたも来てもらいます。」


「えー……」


 露骨に嫌そうな声。


「さっき外したばっかじゃん。」


「状況が変わりました。」


 真顔で言う。


「王都防衛が優先です。」


「都合いいな。」


 ぼやく。


 だが――少しだけ空を見て、


「まあ、いいか。」


 軽く息を吐いた。


(放っとくと、被害デカそうだしな)


 完全に合理判断。


 そして、


「で、どこ行けばいい?」


 その一言で。


 場の空気が、また変わった。


 さっきまで「排除対象」だった存在が、


 今は「頼るしかない戦力」になっている。


 誰も言葉にしない。


 だが全員が理解していた。


 この少年は――恐ろしい。


 だが同時に、


 いなければこの国が終わる。


 矛盾した評価が、ここで確定する。


「……正門だ。」


 文官が短く告げる。


「魔族はそこから侵入している。」


「了解。」


 軽く手を振る。


 まるで、買い物にでも行くような気軽さで。


 そして泰玄は歩き出した。


 戦場へ。


 その背中を見ながら、文官は小さく呟く。


「……管理できると思えない。」


 それは、ただの事実確認だった。


 この瞬間、王国は完全に理解した。


 久我泰玄という存在は――


 “排除も、支配もできない”


 だが、それでも、使うしかない。


 それが、この世界の選択だった。

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