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第2話 適性検査の違和感

「――では、結果に基づき、各勇者様の役割を割り当てます。」


 広間の空気は、先ほどとは明らかに変わっていた。

 儀式の緊張ではなく、評価が確定した後の静かな熱――優劣が可視化された空気だ。


「剣聖の資質を持つ者は前衛部隊へ」

「魔導適性の高い者は魔術師団へ」

「聖職系は後方支援へ配置します」


 名前が呼ばれるたびに、周囲の視線が動く。

 期待、羨望、納得。

 そして、ときおり混じる露骨な線引きの視線。


 久我泰玄は壁に背を預け、その様子を黙って眺めていた。


(完全に、余り枠だな)


 特に焦りはない。だが、妙に引っかかる。


「では……」


 ローブの男が一瞬だけ言葉を切る。

 ほんのわずかな間。だが、その沈黙は十分に意味を持っていた。


「……無職判定の者は――」


「そのまま外していいだろう。」


 王の側近と思しき男が、言葉を引き取った。

 声には一切の感情がない。ただ、合理だけがそこにある。


 ざわめきが広がる。だが、反論は起きない。


「戦力にならん者を抱える余裕はない。」


 あまりに当然のように言われて、逆に少しだけ笑いそうになる。


「いや、それ雑じゃないですか。」


 軽く口を挟むと、数人が気まずそうに視線を逸らした。

 空気に逆らうこと自体が、この場では異物なのだろう。


「君の存在を否定するわけではない。」


 側近の男は淡々と続ける。


「だが戦場において価値はない。それだけだ。」


「なるほど。」


 泰玄は肩をすくめた。


 怒りはない。納得もしていない。ただ、違和感だけが残る。


(判断が早すぎる)


 結論に至るまでの過程が、妙に粗い。


「一つ聞いていいですか?」


「……何だ。」


「この測定、何を見てるんです?」


「魔力量と適性だ。」


 即答だった。


 その瞬間、思考が引っかかる。


(魔力量……)


 さっき触れた水晶を思い出す。

 光らなかった。反応もしなかった。


 だが、


(ゼロだった感じじゃない)


 言語化しづらいが、確かに何かはあった。

 むしろ――


(中身は、はっきり見えてた)


 そこで、思考が一度止まる。


(見えてた? 何が?)


 自分の認識に違和感が生じる。

 だが否定する前に、もう一度確かめることにした。


「もう一回、いいですか?」


「……理由は?」


「ちょっと確認したくて。」


 曖昧な答えだったが、ローブの男はわずかに考え、水晶を差し出した。


「一度だけだ。」


「どうも。」


 泰玄は水晶に手をかざす。


 今度は、意識して見る。


 すると――


「……そういうことか。」


 小さく息が漏れた。


 水晶の内部に、細かな流れが存在している。

 糸のような光が幾重にも重なり、複雑な構造を形作っていた。


(これが魔法……いや、判定式か)


 周囲に変化はない。

 つまり、この情報を認識できているのは自分だけ。


 その時、理解が一気に繋がる。


(これは測定じゃない)


 水晶は対象を解析しているのではない。

 あらかじめ用意された枠に“分類している”だけだ。


 剣聖、魔導、聖職――


 既存のテンプレートに適合するかどうかを判定している。


(だから、弾かれる)


 自分の中にあるものは、そのどれにも一致しない。


 だから結果はゼロになる。


「……なるほど。」


 思わず、わずかに笑みが浮かんだ。


(雑なのは、俺じゃなくてこのシステムの方か)


「何か分かったのか?」


 ローブの男が訝しげに問う。


「いえ、別に。」


 泰玄は手を離した。


 説明する意味はない。

 この仕組み自体を理解できる前提が、この場には存在しない。


「測定結果は変わらん。」


「でしょうね。」


「君は無職だ。」


「はいはい。」


 軽く流しながらも、内側の評価は完全に反転していた。


(この世界、思ってたより単純かもしれないな)


 ルールはある。だが、それは絶対ではない。

 理解できれば、いくらでも干渉できる。


 そんな感覚が、薄く輪郭を持ち始めていた。


 その時だった。


「――面白いですね。」


 不意に声が差し込まれる。


 振り向くと、一人の少女が立っていた。


 淡い髪色に落ち着いた表情。

 この場の空気から、わずかに浮いている。


「今の、気づいたんですか?」


 まっすぐにこちらを見る視線。試すような色を含んでいる。


「……何の話だ?」


 あえて外す。


 だが少女は小さく笑った。


「いえ、独り言です。」


 それ以上は踏み込まない。

 だが、確信だけは残る。


(今のは、“わかってる側”の反応だな)


 この世界には、自分と同じく“例外”がいる。


 その事実だけが、静かに積み上がった。


「配置は以上だ。各自、準備に入れ。」


 側近の号令で人が動き出す。


 泰玄はその流れから自然に外れた。


 役割はない。居場所もない。


 それでも、不思議と焦りはなかった。


(まあ、そのうち必要になるだろ)


 根拠はない。

 だが、この世界の構造が、それを許さない気がした。


 ――直後、城外から悲鳴が響く。


「魔物だ!!」


 空気が一瞬で塗り替わる。


「侵入された! ゴブリンの群れだ!」


 選別は終わり、現実が始まる。


 泰玄は小さく息を吐いた。


「……展開、早いな。」


 そう呟きながらも、その視線はすでに外へ向いている。


 ほんのわずかに――楽しげに。

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