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第1話 召喚と異常適正

 ――音が、消えた。


 それが最初の違和感だった。


 教室にいたはずだった。黒板、机、ざわつく声。ありふれた日常。

 

 それが一瞬で切り取られて、代わりに現れたのは――


「……は?」


 石造りの大広間。


 足元には巨大な魔法陣。青白い光がゆっくりと脈打っている。

 

 周囲には鎧を着た兵士たち。天井は高く、どこかの城のようだった。


 そして――


「勇者様方、ようこそおいでくださいました!」


 玉座の前で、豪奢な服を纏った男が頭を下げていた。


 ざわめきが広がる。


「なにこれ、ドッキリ?」

「いやいや無理だろ……」

「ゲームみたい……」


 周囲には同じく制服の人間が十数人。


 どうやら全員、同時にここへ来たらしい。


 ――異世界召喚。


 そんな単語が頭をよぎる。


 だが久我泰玄は、周囲とは少し違う反応をしていた。


「……なるほどな。」


 状況を受け入れるのが、妙に早かった。


 驚きはある。だが、混乱はない。


 むしろ――観察していた。


 魔法陣、空気の流れ、兵士の配置、玉座との距離。


 無意識に、全部把握している。


 自分でも理由はわからない。


「我が国は今、魔族との戦争にあります。どうか力をお貸しください――勇者様。」


 王が言う。


 テンプレ通りだな、と泰玄は思った。


 だが、


「ではまず、適性の測定を行います。」


 ローブの男が前に出る。

 水晶のようなものを持っていた。


 一人ずつ、手をかざす。


 ――水晶が光る。


「おお……! 剣聖の資質!」

「こちらは魔導適性、極めて高い……!」

「聖職……回復特化型か!」


 周囲が沸く。


 いかにも"当たり"が並んでいる。


 そして、順番が回ってきた。


「次」


 泰玄が前に出て水晶に手をかざす。


 ――何も起きない。


「……?」


 もう一度。


 やはり、何も起きない。


 光らない。反応がない。まるで"そこにいない"かのように。


 あたりの空気が変わる。


「……故障か?」


「いえ……これは……。」


 ローブの男が顔をしかめる。


「魔力反応……ゼロです。」


 ざわめきが止まった。


「……ゼロ?」

「いや、そんなわけ……」


 誰かが笑いかけて、やめる。


 冗談にできない雰囲気が広がり……王の視線が変わる。


「……つまり?」


「……戦闘適性、なし。測定不能……いえ、“無職”扱いになります。」


 静寂。明確な落差。


 さっきまで勇者様と呼ばれていた空間で、ただ一人だけ外れた。


「ハズレかよ……」

「なんだそれ……」

「一人だけ?」


 小声が漏れる。


 泰玄はそれを聞きながら――


「ふーん」


 特に何も感じていなかった。


 悔しさも、焦りもない。


 ただ一つ、違和感があった。


(魔力がない?)


 それは違う、と直感した。


 ないのではない。


 ――見えていないだけだ。


 理由はわからない。しかし、確信があった。


「……まあ、いいか。」


 興味を失ったように呟く。


 その瞬間だった。


 ――ざわ、と空気が揺れた。


 ほんの一瞬。


 誰にも気づかれないレベルの、微かな違和感。


 だが泰玄だけは反応した。


(……今のは)


 視線を動かす。


 広間の端。柱の影。


 誰もいないはずの場所に――人影があった。


 それは少女だった。


 年齢は同じくらい。制服ではない、見慣れない服。


 少女はこちらを見ており、目が合う。


 一瞬。それだけだった。


 だが――


「……あれ?」


 次の瞬間には、もういなかった。


 幻のように、その場から消えていた。


「どうかされましたか?」


 訝しむ表情でローブの男が聞く。


「いや。」


 泰玄は首を振る。


「……気のせいだ。」


 と静かにそう言った。


 だが、妙な感覚だけが残っていた。


 見たはずなのに、思い出せない。


 顔も、声も、雰囲気すら曖昧だ。


(……なんだ、今の)


 考えようとして――やめた。


 どうでもいい、と判断した。


 今優先すべきは別にある。


 この世界の構造、ルール。そして魔族との戦争。


 それだけで十分、面倒くさい。


「では、各勇者様には今後の任務を――」


 王の声が続く。


 その中で、ただ一人。


 無職と判断された少年は――


 誰よりも冷静に、この世界を見ていた。


 そしてまだ、誰も知らない。


 その少年が、


 "魔法を使う存在ではなく、書き換える存在"であることを。


 ――そして、


 この世界のどこかで、


 先ほどの少女が、静かに呟いていた。


「……また、始まるんだ。」


 その声は、誰にも届かない。


 ただ、一つだけ確かなことがあった。


 彼女は――


 すでに、この結末を知っている。

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