第17話 殿下のお見舞い
【お知らせ】
エイミーのスピンオフ短編に続き、
ヴェルのスピンオフ短編を公開しています。
宰相一家と呼ばれる彼の“家族”、
そして――彼が旅に出る前の物語です。
https://ncode.syosetu.com/n2644lx/
本編の裏側が少し見えるお話になっていますので、
気になる方はぜひご覧ください。
「目が覚めたと聞いた。」
目が覚めてすぐの午前中、
アドリアン殿下がやってきた。
さすがにエイミーが「病み上がりですから」と断ってくれたのだが、
私がお通しするようにお願いした。
そして人払いを。
流石に婚約前の男女が二人きりになるわけにもいかないので、
今回は殿下の侍従を部屋に待機させた。
そして冒頭の
「目が覚めたと聞いた」
の一言から始まった。
「はい」
「侍女殿を同席させないのは珍しいな」
「ええ、おりいって殿下にお話がありますの」
「聞こう」
そう言って、ベッドサイドの椅子に座った。
私は顔を上げて、アドリアンの顔を見た。
そして息を吸い込み、言葉を告げた。
「...........このたびの縁談、謹んでお受け致します。」
「そうか」
あまりにもシンプルな返しに、少し驚いた。
「理由をお聞きにならないんですか?」
「聞いて答えてくれるなら聞くが。」
ふっとアドリアンは笑った。
「それと、一つだけ条件がございます。聞いていただけますか?」
「ああ」
「私はこの国で成さねばならぬことが一つだけございます。
それを無事終えることができた暁には、すぐにあなたの国に参ります。
それまで待っていただく、というのが条件となりますが。」
ふむ、と少し考え込んだ。
「それは侍女殿にも内密、ということなのか?」
「はい。エイミーも、今のメンバーなども含め、父も姉も、
周りが知ることは、ただ、私が第二王子殿下の婚約の打診をお受けする、ということだけです。
そのほかは何も変わりません。
婚約について父が許さなければ、
婚約の内定、
もしくはレオノーラは婚約を望んでいるという表明
という形でもかまいません。」
「承知した。
お父上にはこちらの国経由で正式に話を通しておこう。
して、一つだけ聞いてもいいか?」
「答えられるかはわかりませんが。」
「私から見えるあなたは、何かが大きく変わった。
それが理由、と考えて良いのだろうか。」
はぁ、と小さなため息をつく。
「あなたを誤魔化すことは、やはりできませんね。
はい、
私は記憶を思い出しました。
母のことも。
母のことは、あなたもご存知ですよね。おそらく。
でも私は全く何も思い出していない、何も知らない、
という体で過ごします。
これは絶対です。
記憶の封印もされているように偽装します。
今の私にはそれができます。
おそらく殿下以外は見破ることはできないでしょう。
表向きは今まで通りのレオノーラです。
なので、それを承知の上でいてほしいのです。
私は何も知らない状態であると。
そして「成さねばならぬこと」については、あなたにも伝えることはできません。」
そこで一度言葉を切った。
沈黙が少し重い。
「....変わってしまった私は、お気に召しませんか?」
アドリアンは一呼吸おいて、
「いや、逆だ。ますます気に入った。本当にあなたは素晴らしい。」
「.....私があなたに嘘をついているとは思わないのですか?」
「いや、話せないことがあるだけだ。
正直に言ってもらえたことは、よほど誠実だろう。
そしてそもそも私に嘘は通じないのだから。
そして、
約束しよう。レオノーラ。
私は私の持てる全ての力を使い、あなたの『居場所』を作ろう。
そして、あなたがいつものレオノーラのままであることを支えよう。」
「アドリアン殿下、心より感謝致します。
あなたの寛容さと誠実さに。」
「レオノーラ、
辛くなったら、
泣きたくなったら、
いつでも私を呼べ。
それも「居場所」の役割なのだから。」
すっとハンカチを差し出されて初めて、
私は自分が泣いていることに気づいた。
「...ありがとうございます。」
渡されたハンカチで涙を拭う。
「今からいつものレオノーラに戻ります」
「ああ、また来る。
調子が良ければ明日、レストランの個室を準備しておこう。」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
昨日、ヴェルのスピンオフ短編も公開しました!
本編の裏側や、旅の始まりに繋がる物語ですので、
気になる方はぜひあわせてご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n2644lx/
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