第12話 夜会での告白
とうとう式典の日。
王族としての勤めだとしても気が重い...
でもこれが終わればこの街でのお仕事は一つ完了するのだ。
先日の街中での爆発から1日、とくに動きはない。
アドリアン王子からはお見舞いと言って花束とお菓子が送られてきていた。
「アドリアン王子、結構まめなタイプですね。
モテるんじゃないしら〜。」
と花束を飾りながらエイミーが鼻歌交じりに呟いている。
そのエイミーをジト目で見ながら、
もらったお菓子をつまみつつ、
ため息をついた。
横ではそのお菓子を頬張る黒柴フェンリル。
「うん、うまいぞ。さすが王族御用達のものは違うな」
「って私も一応王族なんですけどねぇ...」
「さぁ、レオノーラ様、お支度の時間ですよ!」
と手をワキワキさせながらエイミーが近づいてきた。
以下、ドレスの着付けはいつものように
レオノーラの叫び声から始まり、
エイミーの嬉しそうな声で完成する。
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「今日も完っ璧な仕上がりですわ〜!
さっすがレオノーラ様ですわ〜!」
嬉しそうなエイミーとは正反対に私の気持ちは重い。
なにせ今日のエスコートはアドリアン王子なのだ。
今日はエイミーが侍女として私に付き添い、エイミーの影にヴェルが入る。
トーマスとキースは(いつもの)馬車で待機。
迎えに来たアドリアン王子は、いつも通りだ。
ドレス姿の私を見るなり、
「なんということだろう!私の瞳の色をドレスの刺繍に使ってくれるとは!」
(いや、これは私自身の瞳の色ですから...と言うわけにもいかない。
姉様、なんて余計なことを!)
ここはアルカイックスマイルで乗り切ろう。
さぁ、夜会が始まって、ダンスの時間。
今日の場では、一番身分の高い私たちが最初に踊ることになる。
「レオノーラ殿、踊っていただけますか?」
「喜んで」
音楽と共に、
踊り始めると周りから感嘆の声やため息が聞こえてくる。
「なんてお美しい!」
「はぁ...絵になる二人ね」
「お似合いの二人だわ」
「やはりご婚約するって言うのは本当なのかしら...」
そして踊りながらアドリアンが話しかけてきた。
「レオノーラ、と呼んでもいいだろうか」
「は、はい、かまいませんわ」
(今日はちょっと押しが強いわね。)
ニコリと笑って、
「もう少し、気を楽にしてもいいんじゃないかな?
私たちは共にいるだけで絵になるから、
ただ踊っているだけでも大丈夫。
だから踊りながら少し話をしてもいいかな?
いつも話をしようとするとはぐらかされてしまうからね。
こんな風にダンスをしている時でもないと君は話を聞いてくれないだろう?」
「は、はい。お話とはなんでしょう?」
(どうしよう、逃げ場なしだわ)
「フフ、
さて、私が、君に婚約を打診しているのは知っているよね?」
今日はちょっといつもと感じが違う。
チャラチャラした感じがない。
逆に怖い...
「はい、父からは、婚約者候補としてお互いの相性を見る、と聞いております。」
「私は、ある意味本気なんだ。それを今日は話しておこうと思ってね。」
「本気、とは?まさか、私のことを本気で望んでいると?」
「ああ、この際だからはっきり伝えておきたい。私は本気だ。
でも、今は恋愛的にどうの、というわけではない。
私たちは王族だ。
それはお互いわかっていることだろう。」
「ええ、でもアドリアン殿下であれば、
他にいくらでも望ましい相手がいらっしゃるのでは?
私ではあまり殿下に政治的なメリットはありませんわ。」
「確かにそうかもしれないね。」
アドリアンがにっこり笑って、
私たちはターンをする。
レオノーラのドレスがふわりと広がる。
周りから黄色い声があがる。
「レオノーラ、
私は、あなたに興味があるんだ。」
「興味、ですか?」
「ああ、この際だから正直に伝えておくよ。
私は、基本人に関心がないんだよ。
さらに言うと権力にも興味がない。
昔から自分のことを外見と地位でしか見ない者たちに囲まれたからなのか、
それとも元々私はそういう人間なのか。
それはわからないが、
何でもそつなく、
というかそれ以上にうまくやっていくことはできる。
でも、ただそれだけなんだ。
それが嫌なわけじゃない。
王族として生まれた義務もある。
でも、単純に君には興味があるんだよ。
君は初めて私が興味を持った人間なんだ。」
にっこり笑う。
こんな話を踊りながらするってどうなのよ?
さらに狙った獲物は逃がさないといった雰囲気もある。
「そして、何よりー
私は、あなたに『居場所』を作ってあげられる」
その「居場所」という言葉を聞いて、
私はギクリとした。
「君は、お父上とあまり関係が良くない。
そうだね?
でも姉上の第一王女のために力になりたい。
監査官や今回みたいな危険も伴うことをするのもそのためだろう。」
なんで私が長いこと
ぐるぐると考えていたことを知っているのか。
ずっと「居場所」を求め続けていることも。
ぐっとお腹に力を入れて、動揺を見せないようにする。
「アドリアン殿下には関係ないお話では?」
その言葉が聞こえなかったという風に、語り始める。
「君にとっても悪い話じゃないと思うんだが。
そうは思わないかい?
君が私の国に来て、私と婚姻をする。
そうすれば両国の架け橋になり、関係も強化される。
姉上の治世は磐石になるだろう。
あまり関係の良くないお父上とは物理的にも距離が取れる。
しかも監査官の仕事をしたければ続けたっていい。
私は第二王子だ。
私と婚姻する人は、
王子妃であって王妃になるわけではないから
王族としての教育を終えている君なら
それほど大変なことはないはずだ。
そして、私にとっては、興味のある君と共にいることができる。」
そういう考え方もあるのか...と少し考え込んだ。
「そして、私は君以外の人間に関心がないから、浮気もしないよ。」
とパチリと片目をつぶった。
珍しく天敵であるこの男に対していつもの嫌悪感が薄くなっていた。
「殿下、ひとつ伺ってもいいですか?」
「ああ、なんでも聞いてくれ。」
「街でばったりお会いした時、よく私だってお分かりになりましたね?
あの姿の時は、今の姿を知っている人は、誰も私だと気づかないはずなんです。」
「ああ、そんなことか。
私が興味があるのは、君の存在そのものなんだよ。
普段とオフィシャルな場での見た目の違いとか、
確かにそういうギャップも魅力ではあるけれど。
何より、
君が私に関心がない、ということが一番私にとって新鮮なんだ。
そもそもの私が見ているのは、
魂の色、とか君の本質?みたいなものだから、
君がどんな変装していたとしたってわかる自信はあるよ。」
そう言ってくすりと笑った。
そこで曲が終わり、
大きな拍手が起こる。
「私としては、もう二曲目を踊って婚約という形に持ち込みたいけれど、
さすがにそこまではしないよ。
でも誰か他の男と踊るのも阻止したい。
だから飲み物でも取りに行こう。
喉が乾いただろう。」
とエスコートからは逃げられない。
恋愛感情ではないって本人は言っているけど、
これってそれよりよっぽど重い告白ではないのかしら。
きっと本人にはその自覚が全くないのだろう。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第二王子、無自覚でちょっと重すぎ?
もしレオノーラと黒柴フェンリルの旅を
もう少し見守ってもいいと思っていただけたなら、
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次回も、どうぞよろしくお願いいたします。




