閑話1 ヴェルとエイミーの対峙再び
ヴェルとエイミーの対峙ふたたび。
ルミナーラの事件が解決したと思ったら、
次の街、南の港町ポール・ヴァルメールに向かうことが決まった。
いつものように、旅のための買い出しに出かける。
この町であまり食事をしなかったので、何が名物なのかいまいちわからないが、
ロッシの窯の親方が書いてくれたメモを参考に買い出しをする予定だ。
「この街の美味しいものリスト」と書いてある...
今日はキースにレオノーラ様の護衛をお願いしてきた。
レオノーラ様は、報告書と格闘中なので今日は外にでることはないだろう。
「ヴェル、あなたまた買い物についてきたのは、何か話があるんでしょう?」
馬車の座席で狸寝入りをしているヴェルに話しかけた。
「話が早くて助かる。
っていうかお前も何か言いたいことがあるんだろう?」
「そうね。レオノーラ様の前では話せないわ。」
「じゃあ、お前から話せ。」
少しの沈黙。
馬車が石畳を踏みながら進む音だけが響く。
「大丈夫だ。トーマスに聞こえないように防音魔法を掛ければいいだろう?」
「そうね」
といってエイミーは防音魔法をかけた。
「ヴェル。あなた、どこまで何を知っているの?
昨日、レオノーラ様が助けてくれた時、
あなた、人になったわよね。一瞬だけど。」
ヴェルは黙ったままだ。
「私、あなたを知っているわ。
病で最近領地に戻ったという宰相家の次男ね。」
ヴェルが、ふうっとため息をつく。
「確かに、会ったことがあったな。一度。
オレはあまり公の場に出ないようにしていたから覚えられていたのは意外だが。」
「私はノクスヴァルト公爵家、国の諜報機関の未来の長なのよ。
一度見た顔は忘れないわ。
ルシアン・アーヴェル・ルーンベルク侯爵令息。」
「ああ、そうだ。今更隠しても仕方がないな」
それでは、今度はオレの質問に答えてくれ。」
「何かしら?」
「お前は数百年に一度起こる厄災の公爵家の役割を知っているか?」
エイミーが黙り込む。
「沈黙は、YESということか。
レオノーラはどこまで知っているんだ。」
「レオノーラ様は、何もご存じありません。私の本来の出自も。
課せられている密命も。そして厄災のことも。」
「そうか。」
「ヴェル、あなたは、厄災における宰相家の役割を知っているのね?」
「ああ、もちろんだ。それを継ぐのは代々次男だ。
必ず赤い目と黒い髪で生まれる。ある意味呪いのようだが。」
「公爵家と宰相家はそれぞれの役割の詳細はお互い知ることはないが、
まぁおおかた予想はつくな。」
「ヴェル、もう一つ聞きたいの。」
「ああ」
「あなた、他の世界から、落ちてきた人なの?
ナイトフォールとの会話からそう思ったわ。」
「そのことについてはまだ詳しくは言えない。
正直オレもよくわからないんだ。
思い出したのはつい最近で、この姿になってからだ。
宰相家の次男として生きてきたこれまでの記憶は普通にあるんだ。」
「だから病気療養中になっていたのね」
「ああ、家の方でそういう扱いにしてもらっている。
いきなり頭が割れそうに痛くなって倒れたら、
黒い子犬になっていたっていう、何だそれっていう話なんだよ。
そんなの誰も信じないだろ。」
「あの時、呪いは解けたということなの?」
「いや、呪いが薄まった、という感じなのかもしれない。
毛色が黒から白銀色になったしな。
人型になったのは一瞬だけだった。
だから呪いが全部解けたわけではないだろう。
今も人に戻ろうと思ってもできないしな。」
「そう、あなたも苦労してるのね」
「なんだそりゃ。」
「だって、それぞれの家の役割だってあるのに、さらに呪いってどうなのよ。」
「まぁ、そうだな。でもナイトフォールの目的がオレにはさっぱりわからないんだよ」
「ええ?」
(このひと、結構ポンコツかもしれないわ)
「あなたね、あの状況でわからないの?」
「ああ。さっぱりわからん」
「だから呪いなんてかけれるのよ!」
「なんだよ、わからないものはわからないんだよ。
ああ、そうだ。
オレからももう一つ質問だ。
レオノーラの力は何だ?
そして、あの発作とお前の薬湯。
薬湯はあれはただの普通の頭痛薬だよな。
お前は何かを知ってるんだろう。」
「レオノーラ様の力については、
ご本人もご存じありません。
私も正確にはわからないのです。
ただ公爵家の役割として役目を果たしている、
としか今は言えないわ。」
「今日はここまで、だな。」
「そうね」
「でも一つだけ聞きたいの。
あなたはレオノーラ様の味方よね?」
「オレも同じ質問をそのままお前に返したいよ。
お前はどうなんだ。」
二人で黙り込む。
「感情だけではどうしようもないことがある。世界の運命がかかっているんだ。」
「それはわかっているわ。だから役割がそれぞれ負わされていることも。」
「さて、本当に今日はここまでだ。」
ヴェルは丸くなってまた狸寝入りに戻る。
そのタイミングで防音魔法を切った。
街の雑踏のにぎやかな音が聞こえる。
「ねえ、トーマス、あそこの市場で馬車を止めてちょうだい!」
私たちは、このまま進むしかない。
レオノーラ様は何も知らなくていい。
重い荷物は全て私たちが運ぶのだ。
運命は変えられる、
そう信じたい。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この二人、仲がいいのか悪いのか...
もしレオノーラと黒柴フェンリルの旅をもう少し見守ってもいいと思っていただけたなら、
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次回も、どうぞよろしくお願いいたします。




