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篠木の伝承 三年の旅  作者: ながとみコケオ
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篠木へ

 支度を終えた育也は、佐取に出発すると告げて馬小屋に足を運んだ。馬を走らせれば、三日で篠木の町に着く筈だ。

 主に唆されたとはいえ、盗賊退治なんて目立つ真似をするのは逃げる以前の問題だ。こちらが護衛しても、目立つような行動をされては、逃げ続けた意味も、護衛をする意味もなくなるだろうに。大人しくするよう、強く言っておく必要があると思った。全く、自分の立場くらい弁えて行動して欲しいものだ。それは良いとして、篠木の町に着いた後どうするか。取り敢えずは寝床の確保をして、それから第二継承者を探して。背格好は全く分からない。育也が分かっているのは名前のみ。町の者に聞くしかないが、教えてくれるだろうか。

 馬小屋の扉が見える処に来て、育也は眉間に皺を寄せながら足を止めた。

「妖婆、帰ったんじゃねえのかよ」

 帰った筈の主が、馬小屋の壁に寄りかかっている。帰ったと思ったが、その辺で退屈しのぎに他の護衛隊の者を小馬鹿でもにしていたのか。

「篠木に戻るとか、言ってなかったっけ」

「誰も、一人で帰るとは言っていない」

 聞きながら、馬小屋の扉の前へ行くと、主から呆れた表情をされた。

「お前、馬で篠木に行ったら、何日かかると思っているんだ」

「三日だよ」

 呆れた表情に加え、主は特大の溜息を吐く。

「三日もかけていたら、盗賊退治が終わるぞ」

「こら、婆。遠まわしに言ってねえで、はっきり言えよ」

 頭が悪いと言わんばかりの態度をとる主を育也が睨むと、主は呆れた表情のまま口を開いた。

「どうせ行き先は同じなんだ、連れて行くと言っている。少しは頭を回せ」

「あっそ、そりゃありがとよ」

 適当に返事をすると、主に無言で見詰め返された。負けじと育也も睨み返す。

「ありがたみがないな、もう少し感情を入れて言えんのか。全く、うるさい上に感情の入れ方も知らん」

 小言を言われ、一発殴ってやろうかと思う。殴れればの話だが。しかし、腹が立つのは変わらない。言い返してやろうと口を開くよりも早く、主の右腕がこちらの右腕を掴み、有無を言わさぬ視線が言葉を遮った。

「少し黙っていろ。余計なことを言われると、気が散るんだ」

 出かけた言葉を思わず飲み込み、身構える。

 緩やかに風が吹き出した。包み込むように暖かく、気持ち良い風。主の後ろの風景も真横にある馬小屋も、まるで風化した絵画が風に吹かれ、砂と化した染料が舞うように消えていく。同時に違う風景が、舞い消えた景色の下から鮮明な色を浮き出させるように現れる。風が止む頃には、全く違う景色に覆われていた。

 育也が呆然としていると、主が手を離して歩き出している。何とも言えずに、ゆっくりと辺りを見回す。見覚えのある草原、全く形の変わらない山と山を囲うようにある森。主の歩く先には、育也が生まれ育った町が小さく見える。妖霊山の主なだけある、風一つで三日の距離を移動してしまうなんて。

「いつまでそこにいるつもりだ? 置いて行くぞ」

 主の言葉で我に返ると、慌てて主の隣へ走って行く。追いつくと、主に歩調を合わせて歩く。

「なあ、盗賊退治するのは良いけどさ、根城くらい分かってんだろーな」

 主はちらりと視線を投げかけると、すぐに前方へ視線を戻した。

「盗賊の情報なら、弥素次と惣一に聞くように言っている。町に着いたら、お前にも集めてもらわねばなるまい」

「集めるのは良いけどよ、惣一って薬屋のか?」

 薬屋は人が良い。頼まれたことを嫌とは言えない。そんなこと、篠木の町の者なら誰でも知っている。主は分かっていて頼んだのだろうか。

「そうだ、弥素次が惣一の処にいるんでな。ついでに、噂を聞くように頼んでいる」

 第二継承者は、薬屋にいるのか。

「お前は、実家から通うんだろう」

「いや、宿屋に泊る。家に帰ったって、良いことは一つもないしな」

 育也が最後に両親の顔を見たのは、何時だっただろうか。家を出て一度も戻っていないから、白髪も薄っすらあるかもしれない。自分が両親に苦労をかけたことくらい知っているが、素直になれずにそっぽを向いている。素直になれない自分が恨めしくも思い、同時に情けなくなってしまう。本当は戻って謝るべきなのに、素直じゃない自分が戻るのを拒んでいた。

「別段構わんが、早いうちに顔を見せてやれ。」

「気が向いたらな」

 気が向く、向かないの話ではなく、育也自身の気持ちの問題だ。素直じゃない自分がいるおかげで、気持ちの整理がつかない。戻るのを拒んでいるのもあるが、戻った途端に叩き出されるかもしれないと怖がっていて、気持ちの半分を占めている。実家のことは暫く放っておいて、自然と気持ちの整理がつくのを待つしかないかと思いながら、篠木の町を目指した。

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