第9話「実力差」
入学初日。
Aクラスの生徒たちは訓練棟へ集められていた。
広い。
透が受験で使った会場よりもさらに広かった。
天井は高く、壁には無数の傷跡が残っている。
戦闘訓練専用施設らしい。
「朝から訓練かよ……」
透が呟く。
「むしろ安心した」
隼人が肩を回しながら言う。
「座学よりマシ」
「それはちょっと分かる」
その時。
訓練場の扉が開いた。
桐生だった。
相変わらず無駄のない足取りで中央まで歩いていく。
「整列」
一言。
それだけで全員が動いた。
やはり妙な迫力がある。
桐生は生徒たちを見渡す。
「今日は実力確認を行う」
生徒たちがざわつく。
「確認?」
誰かが呟いた。
「お前らがどの程度戦えるかを見る」
桐生は続ける。
「能力者も非能力者も関係ない」
その言葉に透は少し安心した。
この学校では能力が全てではない。
それは入学前から聞いていた。
「まずは見せてやる」
桐生が言う。
そして訓練場の隅に置かれていた金属製の訓練人形へ近付いた。
高さ二メートル以上。
対能力者訓練用の頑丈な代物だ。
桐生は右手を前に出した。
「見てろ」
次の瞬間。
透は目を見開いた。
桐生の手の中に剣が現れた。
魔力剣。
誰でも使える一般的な魔力武装だ。
だが。
おかしい。
剣が大きすぎる。
刀身だけで三メートル近くある。
「は?」
誰かが声を漏らした。
桐生はそのまま剣を振る。
一閃。
それだけだった。
轟音。
訓練人形が真っ二つになった。
切断面から火花が散る。
数秒遅れて上半分が崩れ落ちた。
訓練場が静まり返る。
「……嘘だろ」
透が呟く。
同じ魔力剣だ。
原理は同じ。
だが威力が違いすぎる。
「これが現場の能力者だ」
桐生は剣を消した。
「能力だけで戦っているわけじゃない」
その言葉に透は納得した。
能力が強いだけでは駄目なのだ。
魔力量。
技術。
経験。
全てが必要になる。
「では始める」
桐生が名簿を見る。
「神代透」
「はい」
透は前へ出た。
「能力を見せろ」
透は深呼吸する。
そして右手を前へ出した。
魔力を集中する。
透明な盾が形成された。
いつもの盾だ。
桐生は数秒眺める。
「以上か」
「え?」
「以上かと聞いている」
「いや……そうですけど」
桐生がため息を吐いた。
「小さいな」
透は言葉に詰まる。
事実だった。
今の透が出せる盾は直径一メートル程度。
自分一人を守るのが精一杯だ。
「攻撃手段は」
「魔力拳銃があります」
「見せろ」
透は腰のホルスターから魔力拳銃を取り出した。
訓練用の標的へ向ける。
発射。
青い魔力弾が飛ぶ。
標的に命中。
悪くない。
少なくとも平均レベルだ。
だが。
「普通だな」
桐生は即答した。
透は少しだけ落ち込んだ。
否定できない。
「盾も拳銃も中途半端だ」
さらに追撃が飛んでくる。
「現状のお前は防御特化にもなれていない」
透は黙る。
分かっていた。
自分が弱いことくらい。
受験の時に嫌というほど思い知らされた。
「だが」
桐生が言う。
透は顔を上げた。
「面白い」
「え?」
「受験の時の映像を見た」
桐生は透を見る。
「最後の一撃」
透は思い出す。
玲司との模擬戦。
あの時。
何かが起きた。
自分でもよく分からない何かが。
「もう一度やれ」
「無理です」
「そうだろうな」
桐生は頷いた。
そして。
「だから探せ」
そう言った。
「お前の能力の本質を」
その言葉だけが妙に胸に残った。
透は知らない。
自分の能力が本当に何なのかを。
まだ誰も知らない。
ただ一人を除いて。
職員室のモニターに映る試験映像を見ながら、一人の男が静かに目を細めていた。
魔力庁長官。
天城黎人だった。




