第5話「不穏」
実技試験も終盤に差し掛かっていた。
透たちは観戦席で残りの試合を眺めている。
「腹減ったな」
隼人が言う。
「まだ終わってないだろ」
「試験より飯の方が大事」
「それはない」
透が呆れていると、会場の大型モニターが突然切り替わった。
ブツッ。
映像が乱れる。
「ん?」
受験生たちが顔を上げる。
試験官たちも異変に気付いたようだった。
だが次の瞬間。
ニュース映像が映し出された。
『速報です』
女性アナウンサーの声。
その表情は緊張している。
『本日十三時二十分頃、東京都第七区画にて能力犯罪者による大規模戦闘が発生しました』
会場がざわついた。
能力犯罪者。
珍しい存在ではない。
だが。
『現場には特級指定犯罪者の存在が確認されています』
空気が変わった。
試験官の顔色も変わる。
透は首を傾げた。
「特級指定?」
「知らねぇのか?」
隼人が目を丸くする。
「知らない」
「マジかよ」
隼人が呆れた顔をする。
「能力犯罪者の中でも特に危険な連中だよ」
その時。
ニュース映像が切り替わった。
映し出されたのは崩壊した道路だった。
ひび割れた地面。
破壊された建物。
煙。
炎。
まるで戦場だ。
『現在、魔力庁特殊部隊が現場を封鎖しています』
透は思わず息を呑む。
どうすればこんな光景になるのか。
『なお、現場にいた証言者によると――』
アナウンサーが言葉を続ける。
『特級指定犯罪者レーガの姿が確認されたとのことです』
その名前が出た瞬間。
会場が一気に騒がしくなった。
「嘘だろ」
「レーガ?」
「またかよ」
「今年三回目じゃねぇか」
透だけが置いていかれていた。
「そんな有名なのか?」
隼人が苦笑する。
「有名どころの話じゃない」
「?」
「能力者なら誰でも知ってる」
その時だった。
近くにいた受験生たちの会話が聞こえてくる。
「今度は何やったんだ?」
「知らん」
「でも死者は出てないらしいぞ」
「相変わらず意味分かんねぇな」
透は眉をひそめる。
犯罪者なのに。
死者が出ていない?
何だか妙な話だった。
その時。
試験官の一人がモニターを切る。
映像が消えた。
「試験を続行する」
厳しい声が響く。
ざわついていた会場が少しずつ静かになっていく。
だが。
完全には戻らない。
誰もが気になっていた。
レーガ。
その名前を。
「なぁ」
透が隼人を見る。
「どんな奴なんだ?」
隼人は少し考える。
そして。
「さあな」
「知らないのか?」
「誰も知らない」
隼人は肩を竦めた。
「顔も年齢も本名も不明」
「は?」
「分かってるのは強いってことだけ」
透は言葉を失う。
そんな人間がいるのか。
「魔力庁の精鋭部隊が何度も捕まえようとしてる」
隼人は続ける。
「でも捕まらない」
「そんなに強いのか」
「らしい」
透は静かにモニターを見る。
既に映像は消えている。
だが。
何故だろう。
その名前だけは妙に頭に残った。
レーガ。
自分とは無関係なはずの男。
だがこの時の透はまだ知らない。
その男と自分が。
いずれ大きく関わることになることを。




