第45話「評価」
第二回戦終了。
神代透の勝利。
その結果は、思っていた以上に会場へ大きな波紋を広げていた。
「また神代が勝ったぞ。」
「一回戦はまぐれじゃなかったか。」
「Aクラス相手に二連勝……。」
「盾能力でここまで戦えるのか?」
観客席のあちこちから声が聞こえてくる。
透は競技場を降りながら、その全てが耳に入っていた。
嬉しくないと言えば嘘になる。
だが。
(まだ全然だ。)
勝った。
それは事実だ。
しかし、余裕なんて一度もなかった。
少し判断を間違えれば負けていた。
それくらい紙一重だった。
「よう。」
背後から声。
振り返ると、森本が苦笑しながら歩いてきていた。
「悪い。」
透は思わず頭を下げる。
「何で謝るんだよ。」
森本は笑う。
「勝負だろ。」
「……。」
「俺の負け。」
そう言って右手を差し出した。
透は少し驚きながら、その手を握る。
「次やる時は負けねぇからな。」
「俺も。」
二人は笑った。
森本はそのまま医務室へ向かっていく。
その背中を見送りながら、透は小さく息を吐いた。
「いい試合だった。」
聞き覚えのある声。
相沢だった。
「ありがと。」
「褒めてない。」
「え?」
「まだ無駄が多い。」
即答だった。
透は苦笑する。
「やっぱりか。」
「盾を使う判断は良かった。」
一拍。
「でも攻め急ぎすぎだ。」
透は試合を思い返す。
確かに。
最後も勢いで踏み込んだ。
相手が対応していたら危なかった。
「次はそこを考えろ。」
「分かった。」
相沢は短く頷き、その場を去っていった。
「相変わらず厳しいな。」
今度は桐山が笑いながら近付いてきた。
「でも、お前も結構楽しそうだったぞ。」
「まぁな。」
「相沢、期待してる奴にしかあんなこと言わねぇ。」
「そうなのか?」
「俺も最初は毎日ボコボコだった。」
「今もボコボコじゃねぇか。」
「うるせぇ。」
二人は思わず笑った。
「神代くん。」
美月だった。
「お疲れ様。」
「ありがとう。」
「怪我、大丈夫?」
「かすり傷くらい。」
「なら良かった。」
美月は本当に安心したように笑う。
その様子を見ていた隼人が肩をすくめた。
「神代、人気者じゃん。」
「違うだろ。」
「いや、違わないって。」
隼人は笑いながら透の肩を軽く叩いた。
「でもさ。」
「ん?」
「二回戦まで来たんだから、そろそろ誰と当たってもおかしくねぇぞ。」
その言葉に、透の表情が少し引き締まる。
そうだった。
ここから先は。
Aクラス上位。
Sクラス。
そんな相手ばかりになる。
勝ち上がるほど。
相手は強くなる。
当たり前のことだ。
だが。
不思議と怖くはなかった。
むしろ。
もっと戦いたい。
もっと強い相手と。
そんな気持ちの方が大きかった。
大型モニターが切り替わる。
残り試合の組み合わせ。
次々と勝者が決まっていく。
隼人。
危なげなく勝利。
美月。
圧倒的な強さで突破。
そして。
迅。
競技場へゆっくりと歩いていく。
相変わらず気だるそうだった。
「また眠そうだな。」
透が苦笑する。
「アイツ、あれで本気なんだよ。」
桐山が呆れたように笑う。
「本気?」
「やる気はなさそうに見えるけどな。」
「まあ、本気ってより手を抜いてないの方がしっくりくるかもな。」
試合開始。
相手はAクラスの実力者。
開始と同時に距離を詰める。
だが。
迅は避けない。
ただ一歩前へ出る。
そして。
軽く地面を踏んだ。
ドゴォォォン!!
競技場全体が震えた。
相手の足元から衝撃が突き上げる。
体勢が浮く。
その一瞬。
迅は静かに魔力剣を振り抜いた。
鈍い衝撃音。
相手はそのまま場外まで吹き飛ばされる。
試合時間。
十秒にも満たなかった。
「勝者、黒瀬迅。」
歓声が上がる。
しかし。
当の本人は。
「あー、腹減った。」
欠伸をしながら競技場を後にしていた。
その姿を見送りながら、透は静かに拳を握る。
(強ぇな。)
玲司とも違う。
隼人とも違う。
美月とも違う。
Sクラス。
一人ひとりが、自分とはまだ大きな差のある存在だった。
だが。
その背中は。
少しだけ近付いた気がした。
ランキング戦。
ベスト8を懸けた戦いが、間もなく始まる。




