第46話「実力」
ランキング戦は着実に進んでいた。
敗者が去り。
勝者だけが残る。
競技場に立つ生徒の数も、最初と比べれば半分近くまで減っていた。
会場全体の空気も変わる。
開会直後の賑やかさはもうない。
残っているのは、本当に実力のある者たちだけ。
誰もが真剣な表情で次の試合を見つめていた。
透は待機席で静かにモニターを眺めていた。
周囲では次々と勝敗が決まっていく。
どの試合もレベルが高い。
さっきまでなら一方的だった試合も、ここからは互角のぶつかり合いばかりだった。
「見てるだけで疲れるな。」
透が呟く。
「だろ。」
桐山が笑う。
「ここまで来ると、もう一つの判断ミスが命取りだ。」
その言葉通りだった。
たった一歩。
たった一振り。
その違いだけで勝敗が決まる。
「神代。」
相沢が近付いてきた。
「ん?」
「さっきの森本戦。」
透の表情が少し引き締まる。
「最後。」
「……ああ。」
「運が良かったと思うか?」
突然の質問だった。
透は少し考える。
「いや。」
首を横に振った。
「運じゃない。」
「そうだ。」
相沢は短く頷く。
「相手を見続けた結果だ。」
透は黙って聞く。
「お前は少しずつだが、戦いながら考えられるようになってきた。」
一拍置いて続ける。
「それは強みになる。」
珍しかった。
相沢がここまで素直に評価するのは。
「……ありがと。」
「ただし。」
やっぱり続きがあった。
「まだ遅い。」
「やっぱりか。」
「考えてから動いてる。」
透は眉をひそめる。
「本当に強い奴は。」
一瞬だけ、相沢の視線が玲司へ向いた。
「考える前に身体が動く。」
透も玲司を見る。
玲司は一人、静かに目を閉じていた。
周囲が騒がしくても一切気にしていない。
あの落ち着き。
あの余裕。
(まだ遠いな。)
透は心の中で苦笑した。
その時だった。
観客席が大きくどよめく。
「何だ?」
視線を向ける。
競技場では隼人の試合が行われていた。
爆発。
爆発。
さらに爆発。
見えない場所へ設置された魔力が連鎖し、相手の逃げ道を次々と塞いでいく。
「逃げ場がねぇ……。」
透は思わず呟いた。
「《起爆》は厄介だからな。」
桐山も腕を組む。
「相手からしたら、どこに罠があるか分からねぇ。」
数秒後。
最後の爆発が響く。
相手は場外。
「勝者、朝霧隼人。」
歓声。
隼人は頭を掻きながら競技場を降りてきた。
「あー、疲れた。」
「全然疲れてなさそうだけど。」
透が笑う。
「精神的に。」
「絶対嘘だろ。」
隼人は肩をすくめた。
「まぁ、お前も次だろ。」
「そうだな。」
「期待してる。」
珍しく真面目な声だった。
透は少し驚く。
「意外だな。」
「何が?」
「そういうこと言うんだ。」
「言う時は言う。」
隼人は軽く笑うと、そのまま歩いていった。
透はその背中を見送る。
受験の日。
初めて会った頃は、こんな会話をするとは思っていなかった。
ライバル。
そう呼ぶにはまだ実力差がある。
それでも。
いつか追い越したい。
そう思える相手だった。
その時。
大型モニターが切り替わる。
会場が静まり返る。
次の組み合わせ。
透はゆっくりと顔を上げた。
表示される名前。
『第三回戦』
『神代透』
一拍遅れて。
対戦相手の名前が映し出される。
その瞬間。
会場がざわめいた。
透はモニターを見つめたまま、小さく息を呑む。
「……マジか。」
その相手は。
今大会の優勝候補の一人だった。
神代透にとって。
ランキング戦最大の試練が、ついに幕を開けようとしていた。




