第42話「雷鳴」
『九条玲司』
その名前が表示された瞬間。
会場の空気が変わった。
誰もが視線を向ける。
Sクラス主席。
受験首席。
一年最強候補。
九条玲司。
その戦いを見逃す者はいなかった。
玲司は静かに競技場へ降りる。
いつも通りだった。
表情は変わらない。
緊張も。
焦りも。
気負いもない。
ただそこに立つ。
それだけだった。
「やっぱりすげぇな」
透が呟く。
「人気者だからな」
桐山が笑った。
「違う」
透は首を振る。
「そういうのじゃない」
説明はできない。
だが。
玲司には人を惹き付ける何かがあった。
対戦相手が現れる。
高木慎也。
Aクラスの実力者。
ここまで勝ち上がってきた強者だ。
観客席からも歓声が上がる。
決して弱い相手ではない。
だが。
高木本人は笑っていた。
「運が悪かったな」
誰かが呟く。
透も同感だった。
高木は強い。
だが。
相手が玲司だ。
「始め!」
試合開始。
瞬間。
高木が動く。
魔力剣を生成。
一気に距離を詰めた。
速い。
かなり速い。
観客席から感嘆の声が上がる。
だが。
玲司は動かない。
ただ立っている。
「何してんだ?」
透が眉をひそめた。
避けない。
構えない。
何もしない。
そして。
高木が射程圏へ入る。
その瞬間だった。
バチッ。
雷鳴。
青白い閃光が走る。
次の瞬間。
高木の姿が消えた。
「は?」
透が声を漏らす。
見えなかった。
何も。
本当に何も。
気付けば。
高木は競技場の外にいた。
地面を転がり。
停止する。
会場が静まり返った。
誰も理解できなかった。
何が起きたのか。
高木本人ですら。
理解できていないようだった。
競技場の外で呆然としている。
そして。
桐生の声だけが響いた。
「場外」
一拍。
「勝者、九条玲司」
終了。
試合時間。
数秒。
いや。
一秒も掛かっていなかったかもしれない。
沈黙。
そして。
歓声が爆発した。
「嘘だろ!?」
「今何した!?」
「見えなかったぞ!」
会場中が騒然としていた。
透も言葉が出ない。
強い。
そんな言葉じゃ足りない。
別格。
それが一番近かった。
「見えたか?」
桐山が聞く。
「いや」
透は即答した。
「全然」
「だろうな」
桐山は苦笑した。
「俺も見えなかった」
透は思わず振り返る。
「は?」
「だから見えなかった」
Aクラス五位。
その桐山ですら。
玲司の動きは捉えられなかった。
透は競技場を見る。
玲司はもう出口へ向かっていた。
歓声も。
視線も。
まるで気にしていない。
当然のように歩いていく。
その背中を見ながら。
透は拳を握った。
遠い。
圧倒的に。
だが。
追い付きたい。
そう思った。
その時。
大型モニターが切り替わる。
次の組み合わせ。
透は視線を向けた。
『第二回戦』
『神代透』
『森本海斗』
表示された名前。
知らない。
少なくとも受験組ではない。
「知ってるか?」
透が聞く。
桐山が頷いた。
「Aクラス下位だな」
「強いのか?」
「弱くはねぇ」
一拍。
「でもお前にも勝ち目はある」
透はモニターを見る。
ここから先は全員強い。
楽な相手なんていない。
それでも。
勝たなきゃ先へは進めない。
「しゃーないか」
透は立ち上がった。
第二回戦。
神代透は再び競技場へ向かう。




