第39話「組み合わせ」
鐘の音が響く。
学園全体へ。
観客席へ。
そして生徒たちへ。
ランキング戦。
その開幕を告げる音だった。
神代透は静かに前を見つめていた。
広い競技場。
想像以上だった。
受験の時に使われた試験場よりも遥かに広い。
周囲には観客席。
教師陣。
上級生。
保護者。
数え切れないほどの視線が集まっている。
思わず喉が渇いた。
「緊張してるな」
隣から声。
相沢だった。
「してない」
「嘘だな」
即答だった。
透は顔をしかめる。
「何でそんな分かるんだよ」
「分かりやすいから」
最近よく言われる。
そんなに顔に出るのだろうか。
「神代」
「ん?」
「負けても死なない」
透は少し驚いた。
相沢なりの励ましだった。
多分。
恐ろしく分かりにくいが。
「ありがとな」
「別に」
相変わらずだった。
その時。
前方へ教師が現れる。
桐生だった。
会場が静まり返る。
「これより一年生ランキング戦を開始する」
低い声が響く。
空気が張り詰める。
「ルールは事前説明通り」
「降参」
「戦闘不能」
「場外」
「そのいずれかで決着とする」
ざわめきはない。
皆真剣だった。
「以上だ」
短い。
だが。
十分だった。
「組み合わせを発表する」
その瞬間。
会場の空気が変わった。
誰もが待っていた。
ランキング戦。
一番気になるのは。
誰と当たるかだ。
巨大なモニターが起動する。
名前が並ぶ。
透も思わず見上げた。
次々と表示される対戦表。
そして。
透の視線が止まる。
『神代透』
表示された。
対戦相手。
『藤堂優馬』
「誰だ?」
思わず呟く。
「Bクラス二位」
相沢が答えた。
即答だった。
「知ってるのか」
「有名だ」
一拍。
「強い」
透は眉を上げる。
いきなりか。
楽な相手ではなさそうだった。
その時。
「うわ」
近くから声。
桐山だった。
「お前一回戦から当たり引いたな」
「嬉しくねぇ」
「頑張れ」
「他人事だな」
「他人だからな」
こいつは本当に自由だった。
その後も組み合わせが発表される。
透は視線を動かした。
まず。
九条玲司。
相手はAクラス。
正直。
会場の誰も結果を心配していなかった。
玲司本人すらしていないだろう。
次。
橘美月。
Aクラス下位。
美月も問題ないはずだ。
そして。
朝霧隼人。
黒瀬迅。
どちらも順当に勝ち上がりそうだった。
透は小さく息を吐く。
皆強い。
分かっていたことだ。
だが。
こうして並べられると実感する。
自分だけがAクラス中位。
追い付くにはまだ遠い。
その時だった。
「神代くん」
聞き慣れた声。
振り返る。
美月だった。
「緊張してる?」
「少し」
正直に答える。
今さら格好つけても仕方ない。
美月は少し笑った。
「大丈夫だよ」
「根拠は?」
「神代くんだから」
透は苦笑する。
相変わらずだ。
だが。
悪い気はしなかった。
「橘」
そこへ隼人が現れる。
「お前それ全員に言ってるだろ」
「言ってないよ」
「嘘だな」
相沢と同じことを言った。
美月が少し不満そうな顔をする。
珍しかった。
透は少し笑う。
緊張が和らいだ。
すると。
少し離れた場所から視線を感じた。
見る。
玲司だった。
目が合う。
一瞬だけ。
本当に一瞬。
そして。
玲司は言った。
「負けるな」
それだけ。
たったそれだけだった。
だが。
透は固まった。
周囲も固まっていた。
玲司からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。
本人は気にしていない。
そのまま歩いていく。
沈黙。
数秒後。
「おう!」
透は自然と口にしていた。
少しだけ。
嬉しかった。
追い付きたい相手。
その相手から掛けられた言葉。
それだけで。
不思議と力が湧いてくる。
会場中央。
桐生が再び前へ出る。
「第一試合」
「出場者は準備しろ」
ざわめきが広がる。
いよいよ始まる。
ランキング戦。
神代透は拳を握った。
負けたくない。
勝ちたい。
いや。
まずは証明したい。
自分がここにいる意味を。
ランキング戦。
その幕が上がった。




