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ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


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37/46

第37話「3位と5位」

相沢に呼び出された翌日。

 放課後。

 神代透は訓練場へ向かっていた。

 ランキング戦まで残り数日。

 学園全体の空気は日に日に張り詰めている。

 廊下ですれ違う生徒たちの表情も真剣だった。

 以前なら聞こえてきた雑談も減った。

 皆、それぞれの戦いに向けて準備している。

「緊張してんのか?」

 不意に声がした。

 振り返る。

 相沢蓮だった。

 壁にもたれながら腕を組んでいる。

「別に」

「嘘だな」

「何でお前らすぐ分かるんだよ」

「顔に出るからだ」

 最近よく聞く言葉だった。

 透は小さくため息を吐く。

 実際。

 少しだけ緊張していた。

 ランキング戦。

 学園に入ってからずっと聞かされてきたイベントだ。

 順位。

 実力。

 評価。

 嫌でも意識する。

「まぁいい」

 相沢は歩き出した。

「来い」

 透も後に続く。

 向かった先はいつもの訓練区画だった。

 だが。

「おっ、来たか!」

 今日は先客がいた。

 赤髪。

 大柄。

 騒がしい声。

 桐山烈だった。

「遅ぇぞ神代!」

「今来たばっかだろ」

「細けぇことはいいんだよ!」

 うるさい。

 本当にうるさい。

 だが不思議と嫌な感じはしない。

 桐山は豪快に笑った。

「今日は特別メニューだ」

「嫌な予感しかしない」

「安心しろ」

「安心できる要素どこだよ」

「俺と相沢が相手してやる」

「帰っていいか?」

「駄目だ」

 即答だった。

 相沢も当然のように頷いている。

 嫌な予感が的中した。

 十分後。

 透は後悔していた。

「待て待て待て!」

 透明な盾が展開される。

 直後。

 轟音。

 桐山の蹴りが盾へ叩き込まれた。

 衝撃。

 透は数歩後退する。

「ぐっ!」

「ほらどうした!」

 桐山が笑う。

 速い。

 相沢ほどではない。

 だが重い。

 一撃一撃が重い。

 身体強化系だろう。

 単純なパワーが異常だった。

 透は盾を構え直す。

 すると。

「後ろ」

 相沢の声。

「え?」

 振り返る。

 遅い。

 相沢がいた。

 次の瞬間。

 足を払われる。

「うおっ!?」

 バランスが崩れる。

 そのまま地面へ倒れ込んだ。

「はい終了」

 桐山が言う。

「何だ今の!」

 透は叫んだ。

「何って」

「実戦だ」

 相沢が平然と答える。

 透は頭を抱えたくなった。

「二対一じゃねぇか!」

「そうだな」

「そうだなじゃねぇ!」

 周囲から笑い声が漏れる。

 見学者も増えていた。

 ランキング戦前。

 Aクラス三位と五位が揃っているのだ。

 当然人は集まる。

「神代」

 相沢が言った。

「お前の悪い癖がある」

「悪い癖?」

「ああ」

 一歩前へ出る。

「お前は一人しか見ない」

 透は眉をひそめた。

「何だそれ」

「そのままの意味だ」

 相沢は続ける。

「俺を見る」

「桐山を見る」

「攻撃を見る」

「盾を見る」

 一拍。

「でも戦場を見てない」

 透は黙る。

 図星だった。

 確かに。

 相沢が動けば相沢を見る。

 桐山が動けば桐山を見る。

 目の前のことだけで精一杯だ。

 全体を見る余裕なんてない。

「ランキング戦は一対一だけじゃない」

 相沢が言う。

「周囲を見る癖を付けろ」

 透は立ち上がった。

 悔しい。

 だが。

 反論はできない。

 相沢は正しい。

 だから。

 透は再び盾を構えた。

「もう一回だ」

 その言葉に。

 桐山がニヤリと笑う。

「いいじゃねぇか」

 相沢も僅かに口元を緩めた。

 訓練は続く。

 その後。

 何度も倒された。

 何度も吹き飛ばされた。

 盾を展開する。

 防ぐ。

 転がる。

 立つ。

 また防ぐ。

 繰り返しだった。

 だが。

 途中から少しずつ変わり始める。

 相沢だけを見るのをやめた。

 桐山だけを見るのをやめた。

 訓練区画全体を見る。

 相手の位置。

 距離。

 動線。

 意識する。

 すると。

「おっ?」

 桐山が声を上げた。

 透が盾を動かす。

 桐山の蹴り。

 防ぐ。

 直後。

 振り向く。

 相沢が背後へ回る前だった。

「へぇ」

 相沢が僅かに目を細めた。

 透は笑う。

「見えた」

 初めてだった。

 先読みできた。

 ほんの少し。

 それでも。

 確かな成長だった。

 夕方。

 訓練が終わる頃には。

 透は床へ倒れ込んでいた。

「死ぬ……」

「死んでない」

 相沢が言う。

「ほぼ死んでる」

「まだ喋れる」

 基準がおかしい。

 桐山は大笑いしていた。

「神代!」

「何だ」

「ランキング戦」

 一拍。

「負けんなよ」

 透は少し驚いた。

 桐山はいつも軽い。

 だからこそ。

 その言葉は意外だった。

「おう」

 透は頷く。

 負けるつもりはない。

 もちろん。

 勝てる保証もない。

 だが。

 ここまでやってきた。

 今さら逃げる理由もない。

 相沢が立ち上がる。

「帰るぞ」

「おう」

 透も体を起こした。

 窓の外。

 夕陽が校舎を赤く染めている。

 ランキング戦開幕まで、あと三日。

 その日。

 神代透は確かに成長していた。

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