表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/36

第36話「目標」

相沢との模擬戦から四日が経った。

 神代透はようやく体の痛みが引いてきたところだった。

 あの日。

 相沢蓮との模擬戦。

 結果だけを言えば完敗。

 最後まで決定打を与えることはできず、実力差を見せ付けられた。

 だが。

 不思議と落ち込んではいなかった。

 むしろ逆だった。

 悔しい。

 腹が立つ。

 もっと強くなりたい。

 そんな感情の方が強かった。

 以前なら、自分より遥かに強い相手を前にすると諦めに近い気持ちがあった。

 受験の頃もそうだった。

 玲司を見た時も。

 レーガを見た時も。

 自分との差に圧倒された。

 だが今は違う。

 差があることは分かっている。

 それでも。

 届かないとは思わなくなっていた。

 昼休み。

 合同座学用の大教室。

 AクラスとSクラスが合同で授業を受ける数少ない時間だ。

 透は弁当を持ちながら席を探していた。

 すると。

「神代くん」

 聞き慣れた声がした。

 振り返る。

 橘美月だった。

 長い黒髪を揺らしながらこちらへ歩いてくる。

 相変わらず目立つ。

 美人だからというのもある。

 それ以上に、美月にはどこか人を惹き付ける雰囲気があった。

「おう」

 透が軽く手を挙げる。

「隣、座ってもいいかな?」

「どうぞ」

 美月が微笑みながら向かいへ座る。

 それから数秒もしないうちに。

「よっ」

 朝霧隼人。

「……眠い」

 黒瀬迅。

 自然と受験組が集まった。

「お前ら毎回集まるな」

 透が言う。

「別にいいだろ」

 隼人は笑う。

「知り合い少ないし」

「それは分かる」

 透も頷いた。

 入学して一ヶ月近く経つとはいえ、クラスが分かれている以上、受験組と会う機会はそこまで多くない。

 だからこそ。

 こういう時間は自然と集まる。

「神代くん」

 美月が口を開いた。

「最近、相沢さんと訓練してるって聞いたけど本当?」

 透は少し驚いた。

「何で知ってるんだ?」

「結構有名だよ」

 隼人が答える。

「Aクラス三位と毎日訓練してる盾男がいるって」

「マジかよ」

「マジ」

 透は少し頭を抱えたくなった。

 そんなつもりはなかった。

 ただ訓練していただけだ。

「相沢さんって強いんでしょ?」

 美月が言う。

「強い」

 透は即答した。

 強い。

 それ以外の言葉が思い浮かばない。

「玲司ほど?」

 隼人が興味深そうに聞く。

 透は少し考えた。

「分からん」

「分からん?」

「あいつら戦ってるとこ見たことないし」

 これは本音だった。

 強さの種類が違う。

 玲司は圧倒的だ。

 雷そのものみたいな戦い方をする。

 一方で相沢は。

 もっと静かだ。

 派手さはない。

 だが無駄がない。

 気付けば距離を詰められている。

 気付けば倒されている。

 そんな怖さがあった。

「なるほどなぁ」

 隼人が頷く。

「でも相沢とやれてるだけ羨ましいわ」

「そうか?」

「そうだろ」

 隼人は笑った。

「強い奴とやるのが一番伸びるし」

 それは否定できない。

 実際。

 透はこの数日でかなり成長していた。

 盾の強度。

 魔力操作。

 戦闘中の視野。

 どれも以前より良くなっている。

 もちろん。

 まだ全然足りない。

 その時だった。

 教室後方がざわつく。

 視線が一斉に集まる。

 透も振り返った。

 そこにいたのは。

 九条玲司。

 Sクラス主席。

 学年最強候補。

 相変わらず一人だった。

 騒がない。

 群れない。

 必要以上に話さない。

 なのに。

 なぜか目立つ。

 歩いているだけで空気が変わる。

「相変わらずだな」

 隼人が苦笑した。

「オーラあるよね」

 美月も小さく笑う。

 透は何も言わなかった。

 玲司を見る。

 やはり遠い。

 受験の頃からそうだ。

 玲司はずっと前を歩いている。

 だが。

 前ほど絶望はしていない。

 追い付けないと思わなくなった。

 それだけでも大きな変化だった。

 すると。

 玲司がこちらを見た。

 一瞬だけ。

 目が合う。

 そして。

 玲司はそのまま席へ向かった。

 何も言わない。

 だが。

 透はなぜか笑ってしまった。

「何だよ」

 隼人が聞く。

「別に」

 透は肩を竦めた。

 追い付きたい。

 勝ちたい。

 いや。

 まずは並びたい。

 それが今の目標だった。

 昼休み終了のチャイムが鳴る。

 生徒たちが席へ戻っていく。

 ランキング戦まで残り一週間。

 学園全体の熱気は日に日に増していた。

 そして。

 放課後。

 透が訓練場へ向かう途中だった。

「神代」

 声。

 振り返る。

 相沢だった。

「何だ」

「来い」

「またかよ」

「まただ」

 相沢は平然と言う。

「今日は桐山もいる」

 透は少しだけ眉を上げた。

 Aクラス五位。

 桐山烈。

 騒がしい男だが実力者だ。

「何やるんだ?」

 透が聞く。

 相沢は短く答えた。

「実戦訓練」

 そして。

「ランキング戦まで時間がない」

 一拍。

「少しは形にしてやる」

 そう言って歩き出した。

 透は苦笑する。

 相変わらず不器用な奴だった。

 だが。

 嫌いじゃない。

 透はその背中を追いかける。

 ランキング戦まで残り一週間。

 それぞれが。

 それぞれの場所で。

 前へ進もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ