表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/38

第32話「盾の使い方」

夕陽が訓練場を赤く染めていた。

 ランキング戦まで残り十三日。

 学園全体がどこか浮き足立っている。

 廊下を歩けば順位予想。

 食堂へ行けば優勝候補の話。

 訓練場へ来れば普段は見ない生徒まで汗を流している。

 誰もが強くなろうとしていた。

 少しでも上へ。

 少しでも強く。

 少しでも評価されるために。

 能力者育成校とはそういう場所だった。

 神代透も例外ではない。

 むしろ最近は以前より訓練時間が増えていた。

 放課後。

 課題。

 妹の見舞い。

 帰宅。

 そしてまた訓練。

 睡眠時間を削るほどではないが、気付けば一日の大半を能力のことを考えている。

 だが。

「上手くいかねぇな……」

 透明な盾が揺らぐ。

 輪郭が歪む。

 そして消えた。

 透は深く息を吐いた。

 盾の密度を上げる。

 それ自体はできるようになった。

 以前より明らかに強度も増している。

 真壁の拳を受けた時。

 相沢の拳を受けた時。

 確かに違いを感じた。

 だが。

 安定しない。

 魔力を圧縮すると形が崩れる。

 形を維持しようとすると密度が落ちる。

 その繰り返しだった。

「くそ」

 盾を再展開する。

 今度は小さく。

 直径二十センチほど。

 魔力を集中。

 圧縮。

 固定。

 少しずつ。

 ゆっくりと。

 すると盾の透明度が下がった。

 ガラスのようだった表面が少しだけ白く曇る。

 密度が上がっている証拠だ。

「よし」

 その瞬間。

 バキッ。

 盾が砕けた。

「よくねぇ」

 思わず突っ込む。

 これで何回目だ。

 十分。

 二十分。

 三十分。

 訓練を続けているのに成果が見えない。

 もちろん成長はしている。

 だが。

 玲司を見れば。

 隼人を見れば。

 美月を見れば。

 どうしても焦る。

 あいつらは前へ進んでいる。

 自分も進んでいるはずなのに。

 差が縮まっている気がしない。

「神代」

 声がした。

 振り向く。

 相沢だった。

 今日も無表情である。

「またお前か」

「ああ」

 相沢は当然のように近付いてくる。

 そして。

 透の盾を見る。

「駄目だな」

 第一声がそれだった。

「お前さ」

 透は呆れる。

「もうちょっと言い方ないのか」

「ない」

 即答。

 本当にないらしい。

「何が駄目なんだよ」

 透が聞くと。

 相沢は少し考えた。

 そして。

「力んでる」

 そう言った。

「力んでる?」

「ああ」

 透は首を傾げる。

 力んでいる自覚はない。

 むしろ集中しているだけだ。

「盾出せ」

 透は言われるまま盾を展開した。

 透明な盾。

 相沢は近付く。

 じっと見る。

 嫌になるくらい見る。

「近い近い」

「黙れ」

「はい」

 怖かった。

 数秒後。

 相沢は盾へ指を当てた。

「ほら」

「何が」

「硬い」

「硬いだろ」

「全部がな」

 透は意味が分からなかった。

 相沢は指先で盾を軽く叩く。

「お前」

「うん」

「全体を硬くしようとしてる」

「駄目なのか?」

「駄目じゃない」

 一拍。

「効率が悪い」

 透は黙る。

 その言葉。

 最近どこかで聞いた。

 玲司だ。

 あいつも似たことを言っていた。

『魔力が均等じゃない』

 あの時はよく分からなかった。

 だが。

 今なら少し分かる。

「じゃあどうする」

「受ける場所だけ硬くする」

 相沢はそう言った。

「できるか?」

「いや無理だろ」

 透は即答した。

 盾全体を維持するだけで精一杯なのだ。

 部分的に強化するなんて。

 そんな器用な真似ができるとは思えない。

「そうか」

 相沢は頷く。

「じゃあやるぞ」

「何を」

「訓練」

 嫌な予感がした。

 非常に。

「待て」

「嫌だ」

「まだ何も言ってないだろ」

「どうせ面倒だから」

 透の予想は当たっていた。

 十分後。

 透は後悔していた。

「痛っ!!」

 ボールが飛んでくる。

 盾で受ける。

 だが。

 今度は右。

 左。

 上。

 下。

 容赦がない。

「相沢ぁ!!」

「集中しろ」

 飛んでくる。

 また飛んでくる。

 しかも。

 どこに来るか分からない。

 その瞬間だけ。

 盾の一部へ魔力を集中させる。

 失敗。

 弾かれる。

 成功。

 受け止める。

 また失敗。

 繰り返しだった。

 だが。

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 感覚が分かってくる。

 魔力を流す。

 集中する。

 受ける。

 その一点だけ。

 硬くする。

「……!」

 ボールが止まった。

 完全に。

 今までなら数歩下がっていた。

 だが。

 今回は違う。

 受け切った。

「今のだ」

 相沢が言う。

 透は盾を見る。

 確かに違った。

 盾全体じゃない。

 一点。

 本当に一点だけ。

 そこへ魔力を集中した。

「これか」

「そうだ」

 相沢は頷く。

「全部守ろうとするな」

 透は顔を上げる。

 相沢は続ける。

「守る場所を決めろ」

 その言葉に。

 透は少しだけ息を呑んだ。

 守る場所。

 今まで考えたことがなかった。

 盾なら全部守るものだと思っていた。

 だが。

 違うのかもしれない。

 守りたいもの。

 優先するもの。

 それを決める。

 そのための盾。

 夕陽はいつの間にか沈み始めていた。

 ランキング戦まで残り十三日。

 神代透はまだ気付いていない。

 この日の訓練が。

 未来の自分の戦い方を大きく変える第一歩になることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ