第29話「Aクラス3位」
ランキング戦開催の発表から三日。
学園全体の空気が変わっていた。
廊下を歩けば順位予想。
食堂へ行けば対戦予想。
訓練場では普段以上に真剣な生徒たちが汗を流している。
当然だ。
ランキング戦は一年生最大のイベント。
結果次第で今後の学園生活が大きく変わる。
そして現在。
神代透は補習を受けていた。
「何でだよ……」
放課後。
教室。
生徒は透一人。
教師一人。
地獄だった。
「自業自得だ」
担当教師が冷たく言う。
「ランキング戦前なのに補習って」
「なら授業を聞け」
正論だった。
透は反論を諦めた。
約一時間後。
ようやく解放される。
「終わった……」
外へ出る。
夕陽が眩しい。
ランキング戦まで残り二週間半。
少しでも訓練したい。
そう思いながら訓練場へ向かう。
途中。
妙な人だかりを見つけた。
「?」
訓練区画の一つ。
かなりの人数が集まっている。
歓声。
どよめき。
透も何となく近付いた。
「うおっ」
思わず声が漏れる。
訓練区画の中央。
一人の男子生徒が立っていた。
銀髪。
百八十センチ近い長身。
鋭い目。
そして。
足元には三体の訓練用ドローンの残骸。
完全に破壊されている。
「終わりか」
男子生徒が呟く。
その瞬間。
歓声が上がった。
「相変わらずやべぇ!」
「速すぎるだろ!」
「さすがだな!」
透は近くの生徒へ聞いた。
「あれ誰?」
すると。
信じられないものを見るような顔をされた。
「知らねぇのか?」
「知らない」
「Aクラス三位だぞ」
透は目を瞬かせる。
「三位?」
「ああ」
生徒は頷く。
「相沢蓮」
「Aクラス最強候補の一人だ」
透は再び銀髪の男子を見る。
確かに強そうだ。
いや。
強い。
実際に見れば分かる。
ただ立っているだけなのに隙がない。
まるで獣だ。
その時。
相沢がこちらを見た。
目が合う。
数秒。
沈黙。
透は軽く会釈した。
相沢も少しだけ頷く。
それだけだった。
だが。
周囲がざわついた。
「え?」
「今見た?」
「相沢が反応したぞ」
透は意味が分からなかった。
「何だ?」
「いや」
近くの男子が言う。
「基本誰にも興味示さないから」
「そうなのか」
「そうなんだよ」
変な奴だな。
透はそう思った。
数分後。
自分の訓練スペースへ到着。
盾を展開する。
透明な盾。
以前より少し小さい。
だが。
密度は増している。
「よし」
玲司の助言。
真壁の指導。
少しずつ成果が出ている。
そう思った瞬間だった。
「違うな」
声。
透が振り返る。
そこにいたのは。
相沢蓮だった。
「え?」
「違う」
相沢は繰り返した。
透は困惑する。
「何が」
「盾」
一歩近付く。
周囲の生徒たちもざわつく。
どうやら珍しいことらしい。
相沢は盾を指差した。
「強くしようとしてるだろ」
「まぁ」
「方向が違う」
透は眉をひそめる。
「どういう意味だ」
相沢は少し考えた。
そして。
「お前」
一拍。
「守ろうとしてない」
透は固まった。
「は?」
意味が分からない。
盾だぞ?
守る能力だろ?
何言ってるんだこいつ。
だが。
相沢の目は本気だった。
「今のお前」
相沢が言う。
「盾を武器にしようとしてる」
透は何も言えなかった。
なぜなら。
少しだけ心当たりがあったからだ。
最近。
盾を刃に変える。
盾を飛ばす。
盾で殴る。
そんなことばかり考えていた。
強くなりたかったから。
玲司に追い付きたかったから。
レーガみたいな怪物に近付きたかったから。
だから。
守ることより。
戦うことを考えていた。
「……」
透は黙る。
相沢はそれ以上何も言わなかった。
ただ。
去り際に一言だけ残した。
「ランキング戦」
透が顔を上げる。
「当たったら本気で来い」
そして。
振り返らずに歩いていく。
夕陽の中。
その背中は妙に大きく見えた。
透は一人残される。
透明な盾を見つめる。
守る。
戦う。
その違いは何なのか。
答えはまだ分からない。
だが。
ランキング戦まで残り二週間。
神代透はまた一つ、新しい壁を見つけていた。




