第27話「Aクラスの実力者」
放課後。
訓練場にはまだ多くの生徒が残っていた。
能力者育成校では珍しい光景ではない。
むしろ当たり前だった。
授業だけで満足する者など少ない。
特にAクラス以上ともなればなおさらだ。
誰もが強くなりたい。
誰もが上を目指している。
だから放課後の訓練場はいつも混んでいる。
神代透もその一人だった。
「……」
透明な盾が宙に浮かぶ。
直径三十センチほど。
受験時よりは明らかに洗練されている。
だが。
まだ足りない。
『魔力が均等じゃない』
昼の玲司の言葉を思い出す。
悔しいが正しかった。
実際に意識してみると分かる。
盾の右側。
少しだけ魔力が濃い。
左側は薄い。
今まで全く気付かなかった。
「難しいな……」
透は額の汗を拭った。
見つけるのは簡単。
直すのは難しい。
魔力を均等に流そうとする。
すると今度は形が崩れる。
形を維持しようとすると流れが乱れる。
思うようにいかない。
「神代」
後ろから声がした。
振り返る。
高梨だった。
「まだやってたのか」
「お前もじゃん」
「まぁな」
高梨は肩を回しながら笑う。
能力訓練の帰りらしい。
「どうだ?」
「全然」
透は盾を消した。
高梨が苦笑する。
「真面目だな」
「そうか?」
「そうだろ」
高梨は訓練場のベンチへ腰を下ろした。
「俺だったら今日は帰る」
「もったいない」
「だから真面目なんだよ」
透は少し考える。
自覚はない。
ただ。
追い付きたいだけだった。
玲司。
隼人。
美月。
迅。
同じ受験を突破したはずなのに。
まだまだ差がある。
もちろん焦っても仕方ない。
分かっている。
それでも。
何もしないのは嫌だった。
「神代」
「ん?」
高梨が少し真面目な顔になる。
「今度のランキング戦出るのか?」
透の手が止まる。
ランキング戦。
学園内で定期的に行われる順位戦。
能力者育成校の目玉制度の一つだ。
透も説明は受けている。
ただ。
まだ実感がない。
「出るつもり」
「マジか」
高梨が笑う。
「楽しみだな」
「何が」
「神代がどこまで行くか」
透は首を傾げる。
「俺そんな期待されてるか?」
「されてるだろ」
高梨は即答した。
「気付いてないのか」
「何が」
「結構有名だぞお前」
透は本気で驚いた。
「俺が?」
「お前」
高梨は指を差す。
「入試で盾能力使ってた奴」
「災害級遭遇者」
「桐生先生のお気に入り疑惑」
「最後は違うだろ」
「知らん」
高梨は笑う。
だが。
透は少しだけ困惑した。
そんなつもりはなかった。
ただ受験して。
授業を受けて。
訓練しているだけだ。
「まぁ」
高梨が立ち上がる。
「ランキング戦で勝てばもっと有名になるぞ」
「プレッシャーかけるなよ」
「事実だ」
そう言って高梨は去っていった。
訓練場に再び静寂が戻る。
透は一人になる。
そして。
ふと。
隣の訓練場へ目を向けた。
ガラス越し。
少し離れた場所。
Sクラス専用訓練施設だった。
設備の規模が違う。
広さも違う。
魔力障壁も高性能。
その中心で。
誰かが戦っていた。
「……」
透は目を細める。
玲司だった。
雷光が走る。
轟音。
訓練用ドローンが次々と破壊されていく。
一撃。
また一撃。
迷いがない。
無駄もない。
ただ強い。
圧倒的に。
透はしばらく見入っていた。
悔しい。
その感情が一番近かった。
嫉妬じゃない。
憧れでもない。
ただ。
追い付きたい。
それだけだった。
その時。
「見学か?」
声がした。
透は振り返る。
そこにいたのは真壁だった。
鬼教官。
相変わらず怖い。
「いや」
「嘘だな」
即バレだった。
真壁はガラス越しに玲司を見る。
「気になるか」
「まぁ」
透は正直に答えた。
「強いですし」
真壁は少し笑う。
珍しい。
本当に少しだけだったが。
「なら見ているだけじゃ駄目だ」
透は顔を上げる。
「え?」
「追い付きたいなら」
真壁の視線が透へ向く。
鋭い目。
教師の目だった。
「自分の武器を磨け」
「武器」
「そうだ」
真壁は言う。
「九条は雷だ」
「朝霧は炎」
「橘は糸」
「黒瀬は振動」
一拍。
「お前は何だ」
透は答える。
「盾です」
「違う」
真壁は即座に否定した。
「それは能力だ」
透は黙る。
真壁は続けた。
「武器は何だ」
その問いに。
透は答えられなかった。
盾と武器。
何が違う。
分からない。
だが。
真壁はそれ以上教えてくれなかった。
「考えろ」
それだけ言い残し。
歩いて去っていく。
透はその背中を見送った。
そして。
再びガラスの向こうを見る。
玲司がいる。
自分より遥か前を走る存在。
だが。
真壁の言葉も頭から離れない。
『それは能力だ』
『武器は何だ』
夕陽が沈み始める。
透はゆっくりと盾を出現させた。
透明な盾。
未熟な盾。
だが。
いつか。
この盾で。
玲司たちに並ぶ。
そう静かに決意しながら。
神代透はもう一度訓練を始めた。




