第24話「昼休みの距離」
災害級魔獣との遭遇から数日。
神代透は授業中だった。
「――魔力には大きく分けて三つの流れが存在する」
教壇の前で教師が話している。
魔力理論学。
透が最も苦手な科目だった。
「体内循環魔力」
「自然循環魔力」
「変換魔力」
黒板へ文字が書かれていく。
透も一応ノートを取っている。
一応。
本当に一応だ。
理解できているかは別問題だった。
「神代」
突然名前を呼ばれる。
透は反射的に顔を上げた。
「はい」
「今説明した三種類を答えろ」
終わった。
透は悟った。
完全に聞いていなかった。
周囲から小さな笑い声が聞こえる。
教師は腕を組んでいる。
「えっと……」
透は必死に記憶を探る。
体内なんとか。
自然なんとか。
あと一個何だ。
その時。
前の席からノートが少しだけ見えた。
美月だった。
ちらりとこちらを見ている。
助けてくれているらしい。
「体内循環魔力!」
「その次は」
「自然循環魔力!」
「最後は」
「……」
沈黙。
分からない。
本当に分からない。
美月のノートをもう一度見ようとした瞬間。
「見るな」
教師にバレた。
教室中が笑う。
透は机へ突っ伏したくなった。
「放課後補習だ」
「そんなぁ……」
さらに笑い声が広がる。
透は心の中で泣いた。
授業終了のチャイムが鳴る。
昼休みだった。
透は机へ突っ伏している。
「補習おめでとう」
隼人が笑いながら近付いてきた。
「うるさい」
「神代君」
美月もやって来る。
「途中までは良かったですよ」
「途中までな」
「最後も見せてくれればよかったのに」
「先生に見つかってたじゃないですか」
正論だった。
透は反論できない。
「そういや」
隼人が言う。
「神代って勉強ダメなの?」
「ダメってほどじゃない」
「じゃあ何で補習なんだよ」
「眠かった」
「ダメじゃねぇか」
それはそうだった。
実際。
最近少し寝不足だった。
結衣の病院へ行ったり。
訓練をしたり。
課題をやったり。
忙しい。
能力者育成校を甘く見ていた。
そこへ迅が現れる。
「飯」
第一声がそれだった。
「お前それしか言わねぇな」
隼人が呆れる。
「腹減った」
「まだ三時間目終わっただけだぞ」
「腹減った」
重要なので二回言ったらしい。
透たちは食堂へ向かった。
昼の食堂は賑やかだった。
様々な制服。
様々な能力者。
会話。
笑い声。
食器の音。
最初は緊張していた透も、最近は慣れてきた。
「何食う?」
隼人が聞く。
「カレー」
「またか」
「うまいだろ」
「分かる」
迅が頷く。
珍しく意見が一致した。
結局。
透はカツカレー。
隼人は唐揚げ定食。
迅はラーメン大盛り。
美月は日替わり定食。
それぞれ注文する。
「橘って毎回健康そうなの選ぶよな」
透が言う。
「栄養は大事です」
「正しい」
「でしょ?」
隼人と迅を見る。
ラーメン。
カレー。
唐揚げ。
茶色しかない。
「お前らの方が問題だ」
美月が呆れていた。
席へ向かう途中。
透はふと見つけた。
一人の男子生徒。
窓際の席。
静かに食事している。
九条玲司だった。
やはり一人だった。
誰とも話していない。
誰かが話しかける様子もない。
透は少し気になった。
前に一度だけ同じ席で食事した。
だがあれ以来特に接点はない。
「また見てる」
美月が言った。
「え?」
「九条君」
透は慌てて視線を逸らす。
「いや別に」
「気になるんだろ?」
隼人がニヤニヤしている。
「違うって」
「本当か?」
「本当」
半分本当だった。
半分嘘だった。
気になる。
それは事実だ。
強いから。
だけではない。
玲司はいつも一人だ。
周囲も妙に距離を置いている。
本人も近付こうとしない。
それが少しだけ気になっていた。
「神代ってさ」
隼人が言う。
「変だよな」
「何でだよ」
「普通ああいうタイプには近付かない」
「そうか?」
「そうだろ」
美月も頷く。
透は少し考えた。
「でも」
「ん?」
「強い奴と仲良くなった方が得じゃね?」
数秒。
沈黙。
そして。
「お前らしいな」
隼人が笑った。
美月も少し笑う。
迅だけは真顔だった。
「それはある」
全員吹き出した。
「お前もかよ!」
食堂に笑い声が響く。
その時。
「何の話だ」
突然声がした。
透たちは振り返る。
そこには。
トレーを持った玲司が立っていた。
沈黙。
固まる四人。
玲司は首を傾げた。
「座ってもいいか?」
今度は。
透たちが驚く番だった。
昨日は体調が優れず投稿出来てませんでした。すみません。ですので今日は2話分投稿させて頂きます。
これからも毎日投稿続けさせて頂くので応援よろしくお願い致します。




