第23話「居心地」
災害級魔獣との遭遇から三日後。
魔力特務育成校はいつも通りだった。
いや。
正確には少し違う。
生徒たちの間で例の事件が話題になっているのだ。
食堂でも。
廊下でも。
訓練場でも。
話題は同じ。
災害級魔獣。
そして特級指定犯罪者レーガ。
もっとも。
透たちAクラスは口外禁止命令が出ているため詳しいことは話せない。
結果として。
「なぁなぁ、マジでレーガ見たって本当か?」
「災害級と戦ったって聞いたぞ」
「どっちが勝ったんだ?」
などという質問攻めに遭っていた。
もちろん答えられない。
答えたら桐生に怒られる。
かなり怒られる。
だから透は適当に誤魔化していた。
「機密」
「それ便利な言葉だよな」
同じクラスの男子が不満そうに言う。
透は苦笑した。
実際便利なのだから仕方ない。
昼休み。
透は食堂にいた。
広い。
学生数が多いだけあってかなり広かった。
メニューも豊富だ。
カレー。
ラーメン。
定食。
丼物。
そして能力者向け高カロリーメニュー。
普通の学校とは少し違う。
「お前それ食うのか」
向かいの席で隼人が言った。
透のトレーを見ながら。
「何か問題あるか?」
「いや」
隼人は呆れた顔になる。
「それ三人前だぞ」
透は視線を落とした。
確かに量は多い。
だが能力訓練を始めてから異常に腹が減る。
「足りないんだよ」
「化け物か」
「お前に言われたくない」
隼人のトレーも大概だった。
大盛りカレー。
唐揚げ。
うどん。
炭水化物の暴力である。
その時。
「失礼します」
美月がやって来た。
トレーを持っている。
「ここ座っても?」
「もちろん」
透が答える。
美月は静かに席へ座った。
今日のメニューは和風定食だった。
健康的である。
非常に彼女らしい。
「橘はちゃんとしてるな」
隼人が言う。
「誰かさんと違って」
「喧嘩売ってる?」
「事実だろ」
透は反論できなかった。
しばらくすると。
「おー」
聞き慣れた声がした。
迅だった。
トレー片手に近付いてくる。
「空いてる?」
「どうぞ」
美月が答える。
迅は席へ座った。
そして。
全員が固まる。
「お前それ昼飯か?」
透が聞く。
「昼飯」
迅は頷く。
トレーの上には。
アイス。
ポテト。
ジュース。
以上。
終わり。
「栄養どうした」
「知らん」
「知らんじゃないんだよ」
美月が頭を抱えた。
その光景が少し面白くて。
透は笑った。
入学してまだ二週間ほど。
だが。
何となく居心地が良かった。
不思議な感覚だった。
その時。
食堂の入り口付近が騒がしくなる。
透たちが視線を向ける。
そこにいたのは。
九条玲司だった。
「相変わらずだな」
隼人が呟く。
玲司は目立つ。
本人にその気がなくても。
受験主席。
Sクラス。
雷の能力者。
既に有名人だった。
だが。
透が気になったのはそこではない。
玲司が一人だったことだ。
いつも通り。
誰とも話していない。
誰とも食事していない。
ただ一人で席へ向かう。
「なぁ」
透が言う。
「ん?」
隼人が顔を上げる。
「玲司誘わないか?」
数秒。
沈黙。
「は?」
隼人が言った。
「は?」
迅も言った。
「は?」
美月まで言った。
透は困惑する。
「何だよ」
「いや」
隼人が真顔で言う。
「お前勇者か?」
「意味分からん」
「九条だぞ?」
「九条だな」
だから何だ。
透にはよく分からなかった。
すると。
迅が面白そうに笑う。
「いいんじゃね?」
「お前も乗るな」
「見てみたい」
完全に面白がっていた。
美月も少し迷っている様子だった。
「でも」
「一人は寂しいですし」
「だよな」
透は立ち上がった。
「待て」
隼人が止める。
「本当に行くのか」
「行く」
「死ぬぞ」
「何でだよ」
そして。
透は玲司のいる席へ向かった。
食堂が少し静かになる。
何故か周囲まで見ていた。
透は気付いていない。
「九条」
声を掛ける。
玲司が顔を上げた。
鋭い目。
整った顔立ち。
相変わらず近寄りがたい。
「何だ」
「飯食ってるか?」
「見れば分かるだろ」
正論だった。
透は咳払いする。
「いや」
「一緒にどうかなと思って」
沈黙。
長い。
非常に長い。
透は少し後悔し始めていた。
だが。
やがて。
「別に構わない」
玲司はそう言った。
透は目を瞬く。
「マジで?」
「断る理由がない」
そして玲司は立ち上がった。
その瞬間。
食堂中がざわついた。
「えっ」
「行くのか」
「九条が?」
透は周囲を見て首を傾げる。
そんなに驚くことなのだろうか。
そして。
玲司を連れて席へ戻る。
隼人。
美月。
迅。
全員が妙な顔をしていた。
「どうした?」
透が聞く。
「いや」
隼人が言う。
「お前結構すげぇ奴かもしれん」
透には意味が分からなかった。




