第22話「それぞれの夜」
その日の帰り道。
透は一人で歩いていた。
空は既に暗い。
街灯の光がアスファルトを照らしている。
だが透の頭の中は今日のことでいっぱいだった。
レーガ。
災害級魔獣。
赤い結晶。
そして。
天城黎人。
『もし君の妹を治せる方法があるとしたら?』
黎人の言葉が頭から離れない。
妹を治せる方法。
そんなものが本当にあるのだろうか。
もしあるなら。
自分は何だってする。
あの時そう答えた。
それは本心だった。
だが。
今になって少しだけ怖くなる。
何故あんな質問をしたのか。
何故自分だったのか。
考えれば考えるほど分からなかった。
スマートフォンが震える。
結衣からだった。
『今日どうだった?』
短いメッセージ。
透は少し笑う。
そして返信した。
『めちゃくちゃだった』
『何それ笑』
『今度話す』
『楽しみにしてる』
そのやり取りだけで少し肩の力が抜けた。
結衣は昔からそうだった。
どんな時でも。
自分を少しだけ楽にしてくれる。
だから。
絶対に助けたい。
透は改めてそう思った。
一方その頃。
学生寮。
Sクラス専用フロア。
玲司は自室にいた。
机の上には大量の資料。
魔獣。
能力。
災害級。
そして。
レーガ。
彼はパソコンの画面を見つめていた。
だが表示される情報は少ない。
年齢不明。
本名不明。
出生不明。
能力《流躁者》。
以上。
「少なすぎる」
玲司が呟く。
こんなことは珍しい。
魔力庁のデータベースですら情報がない。
まるで。
最初から存在しなかった人間みたいだった。
玲司は思い出す。
あの戦闘。
あの能力。
あの動き。
「完成している」
昼間と同じ言葉を呟く。
あれは才能じゃない。
経験だ。
積み重ねだ。
何年。
何十年。
どれだけ戦えばあそこへ辿り着く。
玲司は拳を握る。
悔しかった。
素直に。
圧倒的な差を見せ付けられたから。
「追い越す」
誰もいない部屋で。
玲司は静かにそう言った。
一方。
別の部屋。
隼人はベッドへ寝転がっていた。
「無理だろあれ」
天井を見ながら呟く。
そして。
「絶対無理だろ」
もう一度言った。
災害級魔獣。
レーガ。
黎人。
化け物ばかりだ。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
むしろ。
燃える。
「負けてられるかよ」
そう言って笑う。
朝霧隼人はそういう男だった。
一方。
美月の部屋。
机の上にはノートが広げられていた。
びっしりと文字が書かれている。
今日の戦闘記録。
能力分析。
魔獣の特徴。
そして。
一番多く書かれている名前。
『神代透』
美月はペンを止める。
「……何ででしょう」
小さく呟く。
レーガ。
玲司。
迅。
もっと凄い人はいた。
なのに。
何故か気になる。
何度負けそうになっても。
何度実力差を見せ付けられても。
前へ出る少年が。
美月は慌てて首を振る。
「違います」
誰に言い訳しているのか。
自分でも分からなかった。
一方。
黒瀬迅。
彼は。
寝ていた。
本当に寝ていた。
爆睡だった。
部屋にはゲーム機と漫画が散乱している。
今日のことなど既に頭から消えていた。
だが。
夢の中で。
迅は確かに見ていた。
レーガを。
「おもしれぇな」
夢の中のレーガが笑う。
そして。
「お前もか」
意味深な言葉だけを残して消えた。
迅は寝返りを打つ。
そして再び眠る。
一方その頃。
東京某所。
高層ビルの屋上。
夜風が吹いていた。
フェンスの上。
常人なら立つことすら難しい場所。
そこへ腰掛ける男がいる。
レーガだった。
赤い結晶を弄びながら夜景を見下ろしている。
「チッ」
舌打ち。
昼間からずっと機嫌が悪い。
「出てきやがった」
赤い結晶を見る。
その瞳には珍しく怒りがあった。
「面倒なことになりそうだな」
その時。
スマートフォンが震える。
レーガは画面を見る。
そして。
表情が変わった。
本当に珍しく。
驚いた顔だった。
「は?」
そこに表示されていた名前。
天城黎人。
レーガは数秒沈黙した後。
「ふざけてんのか」
思い切り顔をしかめた。
そして。
スマホをポケットへ突っ込む。
「……くだらねぇ」
そう呟く。
だが。
その声には僅かな苛立ちが混じっていた。
遠くで雷が鳴る。
まるで。
何かが動き始める合図のように。




