表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第21話「長官」

魔力庁長官。

 天城黎人。

 その男が目の前にいた。

 透は思わず立ち上がりそうになる。

 テレビで何度も見た顔だ。

 能力犯罪対策。

 魔獣討伐。

 魔力技術開発。

 今の日本において最も有名な人物の一人。

 その男が何故ここにいる。

 何故自分の名前を知っている。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

 黎人は柔らかく笑った。

 優しそうな人だった。

 少なくとも見た目は。

 透は慌てて頭を下げる。

「は、初めまして」

「初めまして」

 黎人は向かいの席へ腰掛けた。

 その動作一つに無駄がない。

 自然だ。

 不思議なくらい。

 それなのに。

 透は落ち着かなかった。

 理由は分からない。

 だが。

 何かがおかしい気がした。

「座りなさい」

 黎人が言う。

 透は再び椅子へ腰掛けた。

 桐生は部屋の壁際に立っている。

 腕を組んだまま。

 一言も喋らない。

 その様子も少し気になった。

 桐生は基本的に誰に対しても遠慮しない。

 だが今は違う。

 まるで様子を見ているようだった。

「まず」

 黎人が口を開く。

「今日の実習、お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

「怖かったでしょう?」

 透は少し考える。

 そして正直に答えた。

「かなり」

 黎人は小さく笑った。

「正直で良いですね」

 透は何と返せばいいか分からなかった。

 部屋に静かな空気が流れる。

 黎人は透を見ている。

 ただ見ているだけ。

 なのに。

 何故か落ち着かない。

 試験官に採点されているような。

 そんな感覚だった。

「神代君」

「はい」

「君はどうして能力者になりたいのですか?」

 突然だった。

 透は目を瞬く。

「どうして?」

「ええ」

 黎人は頷く。

「理由は人それぞれです」

「名誉」

「お金」

「憧れ」

「正義感」

「君はどれですか?」

 透は少し考えた。

 嘘をつく必要はない。

「妹です」

 即答だった。

 黎人の目が僅かに細くなる。

「妹さん?」

「病気なんです」

 透は続ける。

「魔力循環障害で」

 その瞬間だった。

 黎人の表情が変わる。

 本当に一瞬。

 一秒もなかった。

 だが透は見逃さなかった。

 何かを知っている顔だった。

「そうですか」

 黎人は静かに言う。

 だが。

 その声は少しだけ重かった。

「辛いですね」

「……はい」

 透は拳を握る。

 思い出す。

 病室。

 薬。

 検査。

 何もできない自分。

「だから強くなりたいんです」

 気付けば口にしていた。

「能力者になって」

「偉くなって」

「妹を助けたい」

 言葉にすると少し恥ずかしい。

 だが。

 本心だった。

 黎人は黙って聞いていた。

 否定しない。

 笑わない。

 ただ静かに。

「良い理由です」

 やがてそう言った。

 優しい声だった。

 透は少し安心する。

 だが。

 次の言葉で空気が変わった。

「もし」

 黎人が言う。

「君の妹を治せる方法があるとしたら?」

 透は固まった。

 心臓が跳ねる。

「え?」

 思わず聞き返す。

 今。

 何と言った。

「仮定の話です」

 黎人は笑う。

「そんな方法があったとして」

「君はどこまでできますか?」

 透は答えられなかった。

 頭が真っ白になる。

 妹を治せる方法。

 そんなものがあるなら。

 そんなものが。

 本当にあるなら。

「……何でもします」

 気付けば言っていた。

 迷いはなかった。

「そうですか」

 黎人は頷く。

 その笑顔は優しい。

 だが。

 何故だろう。

 透は少し寒気を覚えた。

 その時だった。

「天城」

 桐生が初めて口を開く。

 低い声。

 明らかに不機嫌だった。

「それ以上はやめろ」

 部屋の空気が止まる。

 黎人は振り返る。

 笑顔のまま。

「何故ですか?」

「生徒だ」

「分かっていますよ」

「ならやめろ」

 二人の視線がぶつかる。

 透は息を呑んだ。

 何だこれ。

 普通じゃない。

 数秒後。

 黎人は肩を竦めた。

「分かりました」

 あっさり引いた。

 だが。

 透にはそう見えなかった。

 引いたというより。

 今回はやめた。

 そんな風に見えた。

 黎人が立ち上がる。

「今日はこれで終わりです」

「え?」

 透は拍子抜けする。

 呼ばれた理由が分からない。

 だが。

 黎人は扉へ向かう。

 そして。

 出て行く直前。

 立ち止まった。

「そうだ」

 振り返る。

 柔らかな笑み。

 だが。

 その瞳だけは何故か冷たかった。

「レーガには気を付けてください」

 透は目を瞬く。

「レーガ?」

「ええ」

 黎人は頷く。

「彼は危険です」

「君が思っている以上に」

 そう言い残し。

 黎人は部屋を出て行った。

 静かに。

 まるで何事もなかったかのように。

 扉が閉まる。

 沈黙。

 透はしばらく動けなかった。

「先生」

 やがて口を開く。

「何だったんですか今の」

 桐生は答えない。

 窓の外を見ている。

 そして。

 珍しく疲れたような声で言った。

「神代」

「はい」

「一つだけ覚えておけ」

 透は真剣な表情になる。

 桐生はゆっくり振り返った。

 そして。

 こう言った。

「レーガより」

 一拍。

「天城黎人の方が怖い」

 透は言葉を失った。

 冗談だと思った。

 だが。

 桐生は笑っていなかった。

 その頃。

 校舎の屋上。

 夕焼けの中。

 一人の男がフェンスへ腰掛けていた。

 白髪。

 赤い瞳。

 黒いコート。

 レーガだった。

 彼はポケットから赤い結晶を取り出す。

 そして。

 面倒そうに呟いた。

「動き始めやがったか」

 その視線は。

 天城黎人が去っていった方向へ向いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ