第2話「雷装」
実技試験会場には緊張した空気が漂っていた。
広い訓練場では既に何組かの模擬戦が始まっている。炎が飛び、氷が舞い、金属音が響く。その光景を見ながら、透は改めて自分がとんでもない場所に来てしまったのだと実感していた。
「やっぱレベル高いな……」
思わず呟く。
すると隣で朝霧隼人が笑った。
「今さらかよ」
「いや、分かってたけどさ」
「まあ安心しろ。俺も結構ビビってる」
全然そんな風には見えなかった。
試験官が次々と受験生の名前を呼び上げていく。
そして。
「神代透」
「はい」
「九条玲司」
その名前が呼ばれた瞬間、周囲が少しざわついた。
「九条ってあの九条か?」
「雷装の」
「今年の本命だろ」
透は眉をひそめる。
嫌な予感しかしない。
視線を向けると、一人の少年が静かに歩いてきた。
整った顔立ち。
鋭い目。
無駄のない立ち姿。
透と同年代とは思えないほど落ち着いている。
「よろしく」
透が声を掛ける。
「……ああ」
返事はそれだけだった。
愛想が悪い。
だが不思議と嫌な感じはしなかった。
試験官が手を上げる。
「それでは始め!」
直後。
玲司の身体から青白い雷光が走った。
「っ!?」
透の目が見開かれる。
速い。
本当に速い。
視界から消えたと思った瞬間には目の前にいた。
反射的に盾を出す。
透明な魔力の盾が形成される。
次の瞬間。
ガァン!!
凄まじい衝撃が腕を貫いた。
「ぐっ!?」
透の身体が吹き飛ぶ。
地面を転がり、何とか受け身を取る。
観客席からどよめきが上がった。
「速っ……」
「今の見えたか?」
「いや無理だろ」
透は歯を食いしばりながら立ち上がった。
腕が痺れている。
まともに受けたら危なかった。
だが玲司は追撃してこない。
ただ静かにこちらを見ている。
「終わりか?」
淡々とした声だった。
煽りではない。
本当にそう思っただけなのだろう。
だからこそ少し腹が立った。
「まだだ」
透は再び盾を構える。
玲司の眉がわずかに動いた。
次の瞬間。
再び雷光が弾ける。
右。
違う。
左。
いや正面だ。
玲司の拳が盾に叩き込まれる。
ガンッ!!
衝撃。
さらに二発、三発。
透は必死に受け続けた。
受けることしかできない。
攻撃する暇すらない。
圧倒的な差だった。
それでも透は倒れない。
吹き飛ばされても立ち上がる。
息が切れても前を見る。
膝が震えても盾を構える。
その姿に観客たちの空気が少し変わった。
「意外と粘るな」
「盾能力だろ?」
「普通もっと早く終わるぞ」
隼人も腕を組みながら感心したように頷いていた。
「やるじゃん」
一方の玲司も透を見ていた。
勝負は既に決まっている。
それでも透は諦めない。
勝てないことを理解しているはずなのに。
それでも前に出る。
玲司には少し理解できなかった。
「何故そこまで戦う」
透は荒い息を吐きながら笑った。
「受かりたいからだよ」
「それだけか?」
「十分だろ」
透の頭に妹の顔が浮かぶ。
病室で笑っていた妹。
頑張れと言ってくれた妹。
ここで負けるわけにはいかない。
「俺には理由があるんだ」
玲司は黙る。
そして静かに構えた。
「そうか」
雷光が迸る。
先ほどまでとは比べ物にならない速度。
玲司の本気に近い一撃だった。
透も盾を構える。
逃げない。
受ける。
ただそれだけだ。
轟音が響く。
雷と盾が激突する。
その瞬間だった。
試験官の目が細められる。
透の盾が動かない。
本来なら吹き飛ばされるはずの衝撃。
だが盾は空間に固定されたかのようにその場に留まった。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
しかし確かに。
「……?」
玲司も違和感を覚えた。
だが次の瞬間には衝撃が透を吹き飛ばしていた。
「そこまで!」
試験官の声が響く。
試合終了。
透は仰向けに倒れながら空を見上げた。
完敗だった。
勝負になったとは言い難い。
それでも不思議と悔しさだけではなかった。
玲司は立ち去る前に振り返る。
「神代透」
「ん?」
「悪くなかった」
それだけ言って歩き去っていく。
透はしばらく呆然とした後、苦笑した。
「それ褒めてるのか?」
返事はなかった。
だが少なくとも、最初よりは興味を持たれたらしい。
透はゆっくりと立ち上がる。
まだ試験は終わっていない。
ここからだ。




