表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/24

第1話「盾」

春の朝。

 神代透は全力で走っていた。

「やっべぇぇぇぇ!」

 坂道を駆け上がりながら叫ぶ。

 肩に掛けた鞄が暴れ、制服のネクタイが風になびく。

 腕時計を見る。

 入学試験開始まであと八分。

 終わった。

 いや、まだ終わってない。

 終わりかけているだけだ。

「間に合え……!」

 透は息を切らしながら走り続ける。

 本来なら三十分前には到着している予定だった。

 だが予定は予定だ。

 病院へ寄ったのがまずかった。

 

今朝も妹の顔を見てから来たのだ。

 病室のベッドの上。

 少し痩せた身体。

 それでも妹は笑っていた。

『お兄ちゃん、頑張ってね』

『絶対合格してよ?』

 そう言われてしまったら頑張るしかない。

「だからって電車乗り過ごすなよ俺……!」

 自分にツッコミを入れながら走る。

 角を曲がった瞬間だった。

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 誰かとぶつかった。

 透は慌てて足を止める。

 相手は同年代くらいの少女だった。

 長い黒髪。

 整った顔立ち。

 制服姿。

 受験生だろう。

「あっ、ごめん!」

「……いえ」

 少女は一歩下がりながら服についた埃を払う。

 怪我はなさそうだ。

 透はホッと息を吐いた。

「本当にごめん。急いでて」

「試験ですか?」

「そう!」

「なら急いだ方がいいですよ」

 少女は透の腕時計を見た。

 透もつられて見る。

 残り七分。

「あっ」

「あと七分ですね」

「うわぁぁぁぁ!?」

 透は再び走り出した。

「ごめん! じゃあ!」

 少女はそんな背中を見送り、小さく息を吐く。

「騒がしい人ですね……」

 


魔力特務育成校。

 能力者育成機関として国内最高峰と呼ばれる学校だ。

 能力者だけでなく非能力者も入学できる。

 ただし試験は厳しい。

 毎年何万人もの受験生が集まる。

 卒業後は魔力庁や警察、自衛隊など様々な進路が約束されているからだ。


「神代透さんですね」

 受付の女性が言う。

「は、はい!」

「開始一分前です」

「すみません!」

「ギリギリですね」

 本当にその通りだった。

 あと少し遅ければ受験すらできなかった。

 実技試験会場。

 広い訓練場に受験生たちが集められていた。

 透は周囲を見回す。

 やはりというべきか。

 皆強そうだった。

 指先で炎を揺らしている少年。

 氷の刃を作る少女。

 金属製の槍を具現化している男。

「すげぇ……」

 思わず呟く。

 どれも派手だ。

 どれも強そうだ。

 それに比べて自分は。

「お前も受験生か?」

 突然声を掛けられた。

 振り向く。

 茶髪の少年が立っていた。

 人懐っこそうな笑顔。

「そうだけど」

「能力何?」

「いきなりだな」

「いいじゃん」

 少年は悪びれもなく笑った。

 透は少し迷った後で答える。

「盾」

「盾?」

「盾」

「それだけ?」

「それだけ」

 少年は数秒黙った。

 そして。

「地味だな!」

「知ってる」

 透は苦笑した。

 今まで何度言われたか分からない。

 炎。

 氷。

 雷。

 そういう能力に比べれば盾は地味だ。

 攻撃もできない。

 派手さもない。

「でもまあ」

 少年は肩をすくめる。

「能力なんて使う奴次第だろ」

 透は少し驚いた。

 馬鹿にされると思っていたからだ。

「俺は朝霧隼人」

 少年は親指で自分を指した。

「よろしくな、盾」

「神代透だ」

「じゃあ透で」

「最初からそう呼べ」

 隼人は大笑いした。

 その時だった。

 訓練場正面の大型モニターが点灯する。

 ざわついていた受験生たちが静かになった。

 画面に映ったのは一人の男。

 黒いスーツ。

 整った顔立ち。

 穏やかな笑み。

「受験生の皆さん」

 落ち着いた声が響く。

「本日は魔力特務育成校入学試験へようこそ」

 透も自然と画面を見上げていた。

 この男を知らない人間はいない。

「私は魔力庁長官、天城黎人です」

 英雄。

 能力社会の礎を築いた人物。

 魔力庁の頂点。

「皆さんの未来に期待しています」

 短い挨拶だった。

 だがそれだけで十分だった。

 会場の空気が引き締まる。

 画面が消える。

 そして。

「これより実技試験を開始する」

 試験官の声が響いた。

 透は拳を握る。

 妹の顔が浮かぶ。

 絶対に合格する。

 妹を助けるためにも。

 自分の未来のためにも。

 そのためにここへ来たのだから。

 まだこの時の透は知らない。

 この入学試験が。

 自分の人生を大きく変える最初の一歩になることを。

 そして。

 いずれ世界そのものを揺るがす戦いへ繋がっていくことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ