表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/24

第16話「流躁者」

魔獣が動いた。

 一体ではない。

 二体でもない。

 群れだ。

 二十近い魔獣が一斉に地面を蹴る。

 轟音。

 アスファルトが砕ける。

 コンクリート片が宙を舞う。

 それだけで十分な脅威だった。

 透は思わず拳を握る。

 さっき一体と対峙しただけでも分かった。

 強い。

 間違いなく強い。

 今の自分ではまともに戦えない。

 そんな化け物が二十体。

 普通なら絶望していた。

 だが。

 レーガは笑っていた。

「やっとその気になったか」

 退屈そうだった顔が少しだけ変わる。

 嬉しそうに。

 楽しそうに。

 子供がおもちゃを見つけたように。

 その姿を見て透は背筋に寒気を覚えた。

 何なんだ。

 本当に。

 何なんだこいつは。

 先頭の魔獣が飛び掛かる。

 巨体。

 鋭い爪。

 人間なら真っ二つになる一撃。

 だがレーガは動かない。

 避けない。

 防がない。

「危な――」

 透が叫びかけた瞬間だった。

 魔獣の身体が止まる。

 空中で。

 不自然に。

 まるで見えない壁へ激突したように。

「……え?」

 透の声が漏れる。

 誰も理解できなかった。

 魔獣自身も理解できていないようだった。

 空中でもがく。

 暴れる。

 咆哮する。

 だが。

 動けない。

 何かに掴まれているように。

「何だあれ……」

 隼人が呟く。

 美月も目を見開いている。

 玲司だけは黙って見ていた。

 その時だった。

 レーガが右手を軽く握る。

 瞬間。

 ドゴォッ!!

 魔獣の身体が地面へ叩きつけられた。

 アスファルトが陥没する。

 衝撃で周囲の窓ガラスが割れた。

 土煙。

 悲鳴。

 轟音。

 しかし。

 それら全てよりも。

 透は別のことに意識を奪われていた。

 見えない。

 何をしたのか。

 本当に分からない。

 魔獣が立ち上がる。

 いや。

 立ち上がろうとした。

 だが。

「うるせぇんだよ」

 レーガが言う。

 その瞬間。

 魔獣の身体が弾け飛んだ。

 血飛沫。

 肉片。

 黒い魔力。

 全てが一瞬で消し飛ぶ。

 静寂。

 誰も喋れない。

 透も。

 隼人も。

 美月も。

 言葉を失っていた。

 強いとか。

 そういう話じゃない。

 次元が違う。

 すると。

「なるほど」

 玲司が呟いた。

 透が振り返る。

「分かったのか?」

 玲司は数秒考えた後で言う。

「魔力だ」

「は?」

「魔獣の体内魔力」

 透はますます分からなくなる。

 だが。

 桐生の目が僅かに細くなった。

 どうやら正解らしい。

「触れてもいないぞ」

 透が言う。

「いや」

 玲司は首を横へ振る。

「触れている」

「どこを?」

「流れを」

 透は完全に理解を諦めた。

 何を言っているんだ。

 隼人も同じ顔をしている。

 美月だけが何か考え込んでいた。

 その時。

 さらに三体の魔獣が飛び出した。

 今度は別方向。

 左右と上。

 完全な挟み撃ち。

 だが。

 レーガは笑う。

「それだよ」

 楽しそうに。

 本当に楽しそうに。

「そういうのを待ってた」

 そして。

 両手を広げた。

 瞬間だった。

 世界が歪む。

 透はそう錯覚した。

 空気が震える。

 地面が揺れる。

 空間そのものが軋んでいるような感覚。

 そして。

 三体の魔獣が同時に吹き飛んだ。

 右の魔獣は壁へ。

 左の魔獣は地面へ。

 上から来た魔獣は空へ。

 それぞれ別方向へ。

 まるで巨大な手で弾き飛ばされたように。

「嘘だろ……」

 透が呟く。

 意味が分からない。

 攻撃しているように見えない。

 能力を使っているようにも見えない。

 だが。

 確実に何かをしている。

 その時だった。

 桐生が口を開く。

「流躁者」

 低い声だった。

 透たちが振り返る。

「先生」

 美月が言う。

「知っているんですか」

 桐生は頷く。

 そして。

 レーガを見ながら言った。

「触れた魔力の流れを操る能力」

 透は目を見開く。

 それが。

 レーガの能力。

「流れ……」

「人間の体内魔力」

 桐生が続ける。

「能力で生み出された魔力」

「空気中の魔力」

「地面に流れる魔力」

 透の背中を冷たいものが流れる。

 嫌な予感がした。

「待ってください」

 美月が言う。

「それって」

 桐生は答えた。

「ああ」

 短く。

「ほぼ全部だ」

 沈黙。

 誰も言葉を発せなかった。

 透はレーガを見る。

 白髪の男。

 笑っている。

 魔獣の群れの真ん中で。

 楽しそうに。

 まるで遊んでいるかのように。

 そして透は理解する。

 ニュースで聞いた時。

 特級指定犯罪者と聞いた時。

 その意味を分かったつもりになっていた。

 だが違う。

 全然違う。

 目の前の男は。

 そんな言葉で説明できる存在じゃない。

 化け物だ。

 誰よりも自由で。

 誰よりも危険で。

 そして。

 誰よりも強い。

 その時。

 レーガがふとこちらを見た。

 透と目が合う。

 赤い瞳。

 そして。

 レーガは笑った。

「見てろよ」

 その一言だけだった。

 だが。

 透は何故か目を逸らせなかった。

 次の瞬間。

 魔獣の群れが再び咆哮する。

 レーガはゆっくりと前へ出た。

 まるで散歩でもするかのように。

 そして。

 本当の戦いが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ