第13話「異常」
魔獣との遭遇から十分後。
透たちは現場の封鎖作業を手伝っていた。
幸い負傷者はいない。
一般人も無事避難できた。
だが空気は重い。
誰もが分かっていた。
何かがおかしい。
魔獣は本来、人の多い都市部にはほとんど現れない。
ましてや東京の管理区域内など異常だった。
「お前」
桐生の声。
透が振り返る。
「はい」
「後で説教だ」
「……はい」
予想通りだった。
隣では隼人が笑いを堪えている。
「助けろよ」
「無理」
即答だった。
現場には既に魔力庁の調査員たちも到着していた。
特殊な機器を使いながら周囲を調べている。
透たちは少し離れた場所で待機していた。
すると。
「なぁ」
迅が口を開く。
珍しい。
自分から話すことはあまりない。
「今の魔獣」
「ん?」
透が見る。
「変じゃなかったか」
透は考える。
そして頷いた。
「確かに変だった」
ニュースで見た魔獣と違う。
何というか。
狂暴すぎた。
「普通はあそこまで人間に執着しない」
今度は玲司だった。
透が少し驚く。
玲司も会話に入るらしい。
「知ってるのか?」
「教本で見た」
相変わらず真面目だった。
「通常個体と行動パターンが違う」
美月も頷く。
「私もそう思います」
その時。
桐生が戻ってきた。
表情が険しい。
かなり。
「先生」
美月が呼ぶ。
「何か分かったんですか」
桐生は少し黙った。
そして。
「まだ分からん」
そう言った。
だが。
その顔は明らかに何かを知っていた。
日が傾き始めた頃。
調査は一旦終了となった。
透たちは帰還する準備を始める。
その時だった。
ピピッ。
調査員の持っていた機器が鳴る。
全員が振り返った。
「反応?」
調査員が眉をひそめる。
機器を確認する。
次の瞬間。
顔色が変わった。
「下がれ!!」
怒鳴り声。
同時だった。
地面が揺れる。
「なっ!?」
透が目を見開く。
道路が割れた。
アスファルトが砕ける。
その下から。
黒い腕が現れた。
一本じゃない。
二本。
三本。
四本。
大量だ。
「嘘だろ……」
隼人が呟く。
次々と地面を突き破ってくる。
異形。
魔獣。
しかも。
「多すぎる……!」
美月の声が震える。
一体や二体ではない。
十体以上。
いや。
まだ増えている。
「全員下がれ!!」
桐生が叫ぶ。
巨大な魔力剣が出現する。
今までで最大だった。
「車両へ向かえ!」
生徒たちが動く。
だが。
魔獣の一体が飛び出した。
真っ直ぐ。
調査員へ向かって。
「っ!」
透が動こうとする。
しかし。
その瞬間だった。
バチッ。
妙な音が響いた。
誰も動いていない。
なのに。
魔獣の身体が突然吹き飛んだ。
轟音。
地面へ叩きつけられる。
全員が固まる。
「……は?」
隼人が呟く。
何が起きた。
誰も理解できない。
そして。
バチッ。
再び音。
今度は別の魔獣だった。
頭部が弾け飛ぶ。
一瞬だった。
桐生の目が鋭くなる。
知っている顔だった。
「チッ……」
珍しく舌打ちをする。
そして。
ゆっくりと上を見た。
倉庫の屋上。
そこに一人の男が立っていた。
白髪。
黒いコート。
赤い瞳。
風が吹く。
男は楽しそうに周囲を見渡していた。
「おいおい」
男が口を開く。
どこか楽しそうな声だった。
「澱んでんなぁ」
透たちは息を呑む。
誰だ。
そう思った。
だが。
桐生だけは違った。
「レーガ……」
低い声だった。
その名前を聞いた瞬間。
透の目が見開かれる。
ニュースで見た。
あの。
特級指定犯罪者。
レーガ。
男は桐生を見る。
そして。
ニヤリと笑った。
「久しぶりじゃねぇか」
その笑みには敵意も殺意もない。
ただ。
何か面白いものを見つけた子供のような危うさがあった。
そしてレーガは視線を魔獣の群れへ向ける。
「くだらねぇ」
そう呟いた。
次の瞬間。
周囲の空気が震えた。
透は全身に鳥肌が立つのを感じた。
本能が理解していた。
目の前にいる男は。
今まで見てきた誰よりも危険だと。




