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ジャッジメント・マナ  作者: 顕微鏡


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12/22

第12話「初任務」

翌朝。

 透は少し眠そうな顔で教室へ入った。

 昨日は帰宅してからもなかなか寝付けなかった。

 結衣のことが頭から離れなかったのだ。

「おはよー」

 隼人が手を振る。

 相変わらず元気だった。

「おはよう」

「顔死んでるぞ」

「寝不足」

「珍しいな」

 透は席へ座る。

 すると前の席にいた迅が振り返った。

「病院どうだった」

 透は少し驚く。

 迅がそんなことを聞くとは思わなかった。

「大丈夫だった」

「そっか」

 それだけだった。

 だが悪い気はしない。

 透が礼を言おうとした瞬間。

 教室の扉が勢いよく開いた。

 桐生だった。

「全員席につけ」

 いつも通りの低い声。

 だが今日は少し空気が違う。

 教室が静かになる。

「予定変更だ」

 桐生が言った。

「お前らには今日から校外実習へ出てもらう」

 生徒たちがざわつく。

「え?」

「早くないか?」

「まだ入学二日目だぞ」

 当然の反応だった。

 透も同じことを思った。

 すると桐生がため息を吐く。

「俺もそう思う」

 珍しく本音が出た。

「だが上の判断だ」

 教室が静まる。

 上。

 つまり学校や魔力庁の判断だろう。

「実習内容は簡単だ」

 桐生は資料を配り始めた。

 透も一枚受け取る。

 そこには。

【第八区画・魔力異常調査】

 と書かれていた。

「調査?」

 透が呟く。

「最近、第八区画で魔力濃度の異常上昇が確認されている」

 桐生が説明する。

「原因は不明」

 それだけで少し不気味だった。

「危険なんですか?」

 美月が手を挙げる。

「現時点では不明」

 桐生が答える。

「だから調査する」

 誰も反論できなかった。

 確かにその通りだ。

「ただし」

 桐生の声が低くなる。

「何かあった場合は俺の指示を優先しろ」

 その言葉で全員察した。

 危険がゼロではない。

 だから教師が同行するのだ。

 昼過ぎ。

 透たちは専用車両で第八区画へ向かっていた。

 窓の外を眺めながら透は考える。

 初任務。

 いや。

 実習か。

 どちらにせよ少し緊張する。

「神代くん」

 美月が声を掛けてきた。

「ん?」

「昨日の病院」

 透は少し驚く。

「大丈夫だったんですか」

「ああ」

「そうですか」

 美月は少し安心したようだった。

 透は思わず笑う。

「心配してくれてたのか」

「クラスメイトですから」

 そう言いながら少し視線を逸らした。

 隼人がニヤニヤしている。

「おい」

「いや何も」

 絶対何か考えている顔だった。

 一時間後。

 車両が停止する。

「到着だ」

 桐生が立ち上がる。

 透たちは車外へ出た。

 第八区画。

 都心から少し離れた工業エリアだった。

 倉庫。

 工場。

 広い道路。

 人通りは少ない。

 しかし。

「なんだこれ」

 透は思わず呟く。

 空気が重い。

 まるで嵐の前のような圧迫感。

「魔力濃度が高い」

 美月が周囲を見回す。

 確かにそうだった。

 体内の魔力が妙にざわつく。

 初めての感覚だ。

「気を付けろ」

 桐生が言う。

「ここ数日で急激に上昇したらしい」

 透は周囲を見る。

 何かがいる。

 そんな気がした。

 その時だった。

 遠くから悲鳴が聞こえた。

「助けて!」

 全員が反応する。

 桐生の表情が変わった。

「走れ!」

 透たちは駆け出す。

 角を曲がる。

 そして。

 その光景を見た。

「な……」

 透の目が見開かれる。

 道路の中央。

 そこにいたのは。

 人間ではなかった。

 黒い身体。

 歪な四肢。

 赤く光る目。

 まるで獣と人間を無理やり混ぜたような異形。

 一般人が数人逃げ惑っている。

「魔獣……!」

 誰かが呟いた。

 透は息を呑む。

 ニュースでは見たことがある。

 だが実物は初めてだった。

 空気が違う。

 存在感が違う。

 そして。

 異様な殺気があった。

 魔獣がこちらを見る。

 赤い瞳。

 その瞬間。

 全身に悪寒が走った。

「全員下がれ」

 桐生が前へ出る。

 低い声だった。

「こいつはお前らにはまだ早い」

 だが。

 魔獣は待ってくれなかった。

 地面を砕きながら突進する。

 一瞬で距離を詰める。

 一般人へ向かって。

「っ!」

 透の身体が勝手に動いた。

 考えるより先だった。

 盾を展開する。

 一般人と魔獣の間へ飛び込む。

「神代!」

 桐生の怒声。

 だが遅い。

 魔獣の爪が振り下ろされる。

 轟音。

 盾が軋む。

 透の足が地面にめり込む。

 重い。

 玲司の攻撃とは違う。

 純粋な暴力だった。

 だが。

 透は叫ぶ。

「下がってください!」

 一般人たちが逃げ出す。

 間に合った。

 その瞬間。

 桐生の姿が消えた。

 そして。

 次の瞬間には魔獣の懐にいた。

 巨大な魔力剣が振り抜かれる。

 一閃。

 魔獣の身体が真っ二つになった。

 沈黙。

 透はその場に座り込む。

 桐生は振り返った。

「馬鹿野郎」

 怒っていた。

 本気で。

「死ぬところだったぞ」

 透は何も言えなかった。

 確かにそうだった。

 だが。

 もしもう一度同じ状況になったとしても。

 きっと自分は飛び出してしまう。

 そんな気がしていた。

 その様子を。

 少し離れた倉庫の屋上から見下ろす者がいた。

 白髪の男。

 赤い瞳。

 口元に僅かな笑み。

「へぇ」

 男は呟く。

「面白いな」

 そして。

 誰にも気付かれることなく姿を消した。

 まるで風に溶けるように。

 ただ一人。

 桐生だけがその方向を見ていた。

 険しい表情で。

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