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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
王冠より重いもの

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背負うということ

 重さは、分けられる。


 でも。


 最後に背負うのは、一人だ。


 朝。


 講義室に入ると、机の上に紙があった。


 久しぶりの配布。


 静かなざわめきが広がる。


(課題か)


 手に取る。


 内容を読む。


 複数の案件。


 どれも、単体なら難しくない。


 でも。


(同時に処理しろ、か)


 それが問題。


 人手も、時間も、限られている。


 全部は取れない。


 だから。


(切る必要がある)


 何かを。


「本課題では、優先順位に基づき対応を決定してください」


 老女官の声。


「なお」


 一拍置く。


「決定した内容に関する責任は、提出者が負うものとします」


 静か。


 でも、はっきりと。


 誰かが、小さく息を呑む。


(明確だな)


 選ぶだけじゃない。


 その結果も、背負う。


 形式だけじゃない。


 実際に。


「以上です」


 それだけ。


 あとは、各自。


 紙を見つめる。


 案件は三つ。


 一つ目。


 地方の飢饉対策。


 即時の食料支援が必要。


 二つ目。


 国境付近の小規模衝突。


 放置すれば拡大の可能性。


 三つ目。


 国内のインフラ老朽化。


 今すぐではないが、将来的に重大な影響。


(全部やるのは無理)


 だから、選ぶ。


 優先順位。


 そして。


(切ったものの責任も来る)


 対応しなかった結果。


 それも、自分のもの。


 ペンを持つ。


 まだ書かない。


 考える。


 時間はある。


 でも、無限じゃない。


 周囲は、すでに動き始めている。


 眉を寄せる者。


 すぐに書き始める者。


 それぞれ。


(どうするかな)


 頭の中で整理する。


 即時性。


 影響範囲。


 回復可能性。


 いくつかの軸。


 組み合わせる。


 削る。


 選ぶ。


 そして。


(責任)


 そこに戻る。


 どれを選んでも、何かは起きる。


 選ばなかった方で。


 それを、引き受ける。


 それが、この課題。


「……」


 ふと、視線を上げる。


 セレナが、もう書いている。


 迷いが少ない。


 手が止まらない。


(決めてるな)


 基準に従って。


 迷わない。


 少し離れた位置。


 アマーリエは、ペンを止めている。


 紙を見つめたまま。


 考えている。


(どっちも分かる)


 どちらのやり方も。


 間違いじゃない。


 リリアは、視線を戻す。


(……よし)


 小さく息を吐く。


 書く。


 選ぶ。


 順番を決める。


 理由を書く。


 簡潔に。


 無駄なく。


 提出。


 それで終わり。


 でも。


(終わらない)


 これからが、本番。


 講義が終わる。


 人が動き出す。


 ざわめきは、小さい。


 でも、いつもより重い。


 廊下。


 歩きながら、誰もすぐには話さない。


 しばらくして。


「……決めました?」


 アマーリエ。


「決めました」


「どうだった?」


「普通です」


「ほんとに?」


「はい」


 彼女は、少しだけ笑う。


「私はね」


 軽く息を吐く。


「ちょっと嫌だった」


「そうですか」


「どれ選んでも、誰か困るじゃん」


「そうですね」


「それを“自分で決める”って、思ったより重い」


 その言葉は、軽くない。


 本音。


 リリアは、少しだけ頷く。


「そうですね」


「でも」


 アマーリエは続ける。


「誰かが決めなきゃいけないなら」


 一拍。


「自分で決めた方が、まだマシかなって」


 小さく笑う。


「人のせいにしたくないし」


(ああ)


 と思う。


 それも、一つの覚悟。


 重さを、自分で引き取る。


「あなたは?」


 視線が来る。


「どう思った?」


 少しだけ考える。


 そして。


「分かりやすいと思いました」


「分かりやすい?」


「はい」


「どういう意味?」


「選んだ結果が、そのまま自分に返ってくるので」


 シンプル。


「他人を挟まない」


「……それ、楽?」


「楽ではないですね」


「でしょ」


「でも」


 少しだけ続ける。


「納得はしやすいです」


 自分で決めたなら。


 その結果も、自分のもの。


 アマーリエは、少しだけ黙る。


「……そっか」


 短く呟く。


 そのまま、少し歩く。


 今度は、セレナ。


「終わりましたか」


「終わりました」


「どうでした?」


「いつも通りです」


「そうですか」


 彼女は、少しだけ目を細める。


「私は」


 言葉を選ぶ。


「迷いませんでした」


「そうですね」


 見ていたから、分かる。


「基準に従っただけなので」


「はい」


「その代わり」


 一瞬だけ、間。


「結果も、全部引き受けます」


 静かな声。


 でも。


(重いな)


 覚悟がある。


 逃げない前提。


「それが、役割だと思うので」


 王妃候補として。


 当然のこと。


 そう言い切る。


 リリアは、何も言わない。


 ただ、少しだけ頷く。


 三人で、少し歩く。


 言葉は少ない。


 でも。


(全員、背負った)


 選択。


 責任。


 その重さ。


 中庭。


 ベンチに座る。


 空は、静か。


(背負う、か)


 考える。


 軽くはない。


 でも。


(避けるものでもない)


 たぶん。


 ここにいる以上。


 第9章は、さらに深くなる。


 重さは、まだ終わらない。


 次に来るのは――


 その重さを、誰かに渡すかどうか。

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