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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
王冠より重いもの

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王冠より重いもの

 重さ、というのは。


 目に見えるものだけじゃない。


 むしろ、見えないものの方が、重い。


 朝。


 講義室に入ると、空気が少し違った。


 静か。


 でも、張っている。


(……来てるな)


 何かが。


 特別なことが起きているわけじゃない。


 人数も変わらない。


 配置も同じ。


 それなのに。


(軽くない)


 今までより、明らかに。


 席に着く。


 紙はない。


 いつもの形。


 でも。


(評価は、続いてる)


 見えないだけで。


 蓄積されている。


 選んだ基準。


 その使い方。


 全部。


 老女官が入ってくる。


 足音は、変わらない。


 表情も同じ。


 でも。


(少しだけ、距離が近い)


 見ている。


 前よりも、はっきりと。


「本日は討議のみとします」


 短い宣言。


「テーマは――“優先順位”」


 一瞬、空気が止まる。


「複数の利益が衝突した場合、何を最優先とするか」


 静かな説明。


「各自の基準に従い、結論を出しなさい」


 それだけ。


 シンプル。


 でも。


(逃げ場はない)


 基準は、もう決まっている。


 あとは、それをどう使うか。


 討議が始まる。


 すぐに、声が上がる。


「私は、国家の安定を最優先とします」


 はっきりした声。


「一時的な利益よりも、長期的な維持を」


 頷きがいくつか。


「私は逆です」


 別の声。


「短期的な損失を許容してでも、即時の利益を取るべきだと」


 意見が分かれる。


 ぶつかる。


 でも、荒れない。


 静かに進む。


(ちゃんと“基準”で話してる)


 感情じゃない。


 選んだ軸。


 それを使っている。


 リリアは、聞いている。


 まだ話さない。


 必要なときだけ、話す。


 それでいい。


「あなたは?」


 視線が向く。


 イーサ。


「どう優先しますか」


 逃げられない問い。


 リリアは、少しだけ考える。


 そして。


「状況次第です」


 答える。


 静かに。


「具体性に欠けます」


 すぐに返ってくる。


「基準はあるはずです」


「あります」


「では」


 視線が、揃う。


 少しだけ、空気が締まる。


(……面倒だな)


 でも、避ける理由はない。


「私は」


 言葉を選ぶ。


「変化に対応できることを優先します」


 短く。


「固定しすぎないこと」


 それが、自分の基準。


 数秒の沈黙。


「つまり」


 イーサが整理する。


「状況に応じて優先順位を変える、と」


「はい」


「それは、基準とは言えないのでは?」


 予想通りの指摘。


「一貫性がありません」


 リリアは、少しだけ首を傾げた。


「ありますよ」


「どこに」


「変える、という点に」


 静かに答える。


「固定しないことが、一貫しています」


 また、少しの沈黙。


 誰かが、小さく息を吐く。


「不安定ですね」


 別の声。


「判断がぶれる」


「そうですね」


 否定はしない。


「でも」


 少しだけ続ける。


「変わらない方が危険な場合もあります」


 それも事実。


 完全な正解はない。


 ただの選択。


 討議は、そのまま続く。


 意見は分かれる。


 交わることはない。


 でも。


(全員、自分の基準を使ってる)


 それが、前と違う。


 講義が終わる。


 静かに、終わる。


 老女官は、何も言わない。


 評価も、その場では出ない。


 でも。


(見られてる)


 確実に。


 廊下に出る。


 空気は、まだ重い。


 歩きながら、考える。


(優先順位、か)


 結局のところ。


 何を捨てて、何を取るか。


 それだけ。


 でも。


(それが一番、面倒)


 全部は取れない。


 だから、選ぶ。


 そして、その結果を背負う。


「さっきの」


 セレナが並ぶ。


「面白かったです」


「そうですか」


「変えることを前提にする、というのは」


「楽ですよ」


「楽、ですか」


「はい」


 少しだけ笑う。


「責任を分散できるので」


 半分、本音。


 半分、冗談。


 セレナは、少しだけ考える。


「でも」


 彼女は言う。


「最終的に決めるのは、自分ですよね」


「そうですね」


「なら」


 視線が、まっすぐ来る。


「重さは、変わらないのでは」


 リリアは、一瞬だけ止まる。


 そして。


(……そうかもな)


 と思う。


「そうかもしれませんね」


 素直に答える。


 少しだけ、間。


「私は」


 セレナは続ける。


「一つに決めた方が、楽です」


「なぜですか」


「迷わないから」


 シンプルな答え。


「迷う時間も、責任も、減る」


「そうですね」


「だから、私は固定します」


 はっきりと。


 彼女のやり方。


(強いな)


 と思う。


 どちらが正しいかは分からない。


 でも。


(覚悟はある)


 それだけで、十分。


 中庭。


 ベンチに座る。


 空は、少し晴れている。


(重さ)


 ふと、思う。


 王冠の重さ。


 よく言われる言葉。


 でも。


(それより前に)


 選ぶ重さ。


 決める重さ。


 それを背負うこと。


 それが、先にある。


 王冠は、その後。


 たぶん。


 第9章は、ここから深くなる。


 重さの正体。


 それを、知るかどうか。


 そして。


 それを、受けるかどうか。

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