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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
選ぶ者と選ばない者

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言葉にしない違和感

 違和感は、だいたい言葉にしないまま残る。


 言葉にした瞬間、

 それははっきりした“対立”になるから。


 だから皆、分かっていても言わない。


 ただ、少しだけ距離を変える。


 それだけ。


 午後の講義は、討論形式だった。


 テーマは、王都の税制改革。


 複雑な話題。

 正解も、一つではない。


 発言は自由。


 だからこそ、差が出る。


「段階的に上げるべきです」


「一気に変えると反発が出ます」


「ですが、遅すぎると意味がない」


 声は、落ち着いている。


 以前のようなぶつかり合いはない。

 それでも、意見は明確に分かれる。


 そして。


 誰がどちらに立つかは、

 もうなんとなく決まっている。


(分かりやすいな)


 リリアは、少し離れた位置で聞いていた。


 選ぶ側は、決断を優先する。

 選ばない側は、条件を優先する。


 完全に一致しているわけではないけれど、

 傾向ははっきりしている。


「補佐官様は、どう思われますか?」


 不意に、声がかかる。


 視線が集まる。


 少し前なら、よくあったこと。


 でも今は。


 少し意味が違う。


「今回は候補者として答えます」


 前置きしてから、口を開く。


「急な変更は、確かに反発を生みます」


「では段階的に?」


「ただし」


 一度、言葉を切る。


「段階的な変更は、途中で止まる可能性が高い」


 数人が、わずかに反応する。


「どちらを優先するかで、結論は変わります」


「つまり?」


「どちらでもいいと思います」


 小さなざわめき。


「無責任では?」


 誰かが言う。


 強い言い方ではない。

 ただ、少しだけ棘がある。


「そうですね」


 リリアは、否定しない。


「責任を負う立場ではないので」


 空気が、少しだけ止まる。


 それは、言い訳にも、事実にも聞こえる言葉。


「……便利ですね、その立場」


 ぽつり、と誰かが言った。


 冗談のようでいて、冗談ではない。


 リリアは、そちらを見なかった。


「便利ですよ」


 そのまま返す。


「だから、なくなるべきです」


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を返さない。


 その間が、少しだけ長い。


(ああ)


 分かる。


 今のは、少しだけ踏み込んだ。


 軽く流せるはずの会話が、

 ほんの少しだけ、引っかかった。


 討論は、そのまま続いた。


 特に荒れることもなく、

 時間通りに終わる。


 でも。


 終わったあとに残る空気が、

 少しだけ違う。


 夕方。


 廊下を歩いていると、後ろから声がかかる。


「さっきの」


 振り返ると、アマーリエだった。


「便利って、どういう意味?」


「そのままです」


「責任を取らなくていいってこと?」


「はい」


 彼女は、少し考える。


「ずるいわね」


「そうですね」


「否定しないのね」


「できないので」


 アマーリエは、小さく笑った。


「でも、それでいいの?」


「よくはないです」


 少しだけ、間を置く。


「だから、いずれなくなるべきだと思っています」


「……本気で言ってる?」


「はい」


 視線が、少しだけ変わる。


 軽さが消える。


「自分の立場、なくなるのに?」


「はい」


「変なの」


「よく言われます」


 同じ会話。


 でも、少しだけ違う。


 アマーリエは、しばらく何も言わなかった。


 それから。


「ねえ」


「はい」


「あなたって、どっちなの?」


 静かな問い。


「選ぶ側? 選ばない側?」


 答えは、もう分かっているはずの問い。


 それでも、聞く。


 確認するために。


 リリアは、少しだけ考えた。


 そして。


「どちらでもないです」


 そう答えた。


 アマーリエは、ため息をつく。


「それ、一番困るやつ」


「でしょうね」


「でも」


 彼女は、少しだけ笑った。


「嫌いじゃない」


 それだけ言って、去っていく。


 一人、廊下に残る。


(どちらでもない)


 それは、便利な言葉だ。


 でも同時に。


(どこにもいないってこと)


 自分の立ち位置が、はっきりしない。


 それでも、今はそれでいいと思っている。


 夜。


 窓の外を見ながら、静かに考える。


 違和感は、まだ小さい。


 言葉にするほどでもない。


 でも。


 確実に、どこかに溜まっている。


 言葉にしないままの感情。

 整理されないままの考え。


 それが、いつか。


(形になる)


 そのときは、たぶん。


 もう“チル”ではいられない。


 第6章は、まだ静かに進む。


 けれど。


 静かさの中に、少しずつ温度が混ざり始めている。

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