第十九話 聖都へ
聖天使ラーはレジェンド・アイテムを使って空間転移をしたのだろう。
「その場所は……八聖卿の間の奥か」
「ああ。おそらくあの場所に移動できるアイテムを設置していた。だから、突然八聖卿の間に現れることもできたのだろう」
二人の五芒星の後継者が推測する。
「私のせいです」
星華が再度謝罪した。
星華はこの場所でルーシェが撒いておいた破聖魔石を全て集めてシャスターに渡していた。
破聖魔石は聖天使ラーを弱体化させる石だ。ルーシェが、いつかシャスターが聖天使ラーと戦う時のために破聖魔石を集めておいたと星華は考えた。だから、星華は全ての石を拾い集めてシャスターに渡したのだ。
しかし、それが大きな間違いだったのだ。
「おそらく、ルーシェ様は聖天使ラーと戦っている最中、解析系のゴーレムを使って聖天使ラーの能力を調べていたのだと思います。そして、戦いに敗れた後に聖天使ラーの能力を知ったのでしょう」
さらにルーシェとの戦いの後、力を消耗した聖天使ラーは近くで死んでいた聖騎士たちの魂を吸い取った。しかし、なぜか第四聖騎士団だけは残しておいた。
「その状況をルーシェ様は何処からか見ていた、あるいは探索系ゴーレムから情報を得ていた。そして、全ての事柄を状況分析したルーシェ様は聖天使ラーの考えていることが分かったのだと思います」
それは、聖天使ラーが近いうちに他の五芒星の後継者と戦う可能性が高いと考えていること。それは冥々の大地でルーシェと共闘していたシャスターであること。その時、万が一に備えて第四聖騎士団の魂を残しておいたこと。
「だからこそ、シャスター様の勝利を確信していたルーシェ様は聖天使ラーがこの場所に逃げてくることを予測し、破聖魔石を集めておいたのです。シャスター様との戦いで力を消耗した聖天使ラーが、この場所で破聖魔石の影響を受ければ、さらに弱体化するのは確実です。そうなればシャスター様が聖天使ラーを倒すことは容易にできる。そうルーシェ様は考えていたのでしょう。それなのに、私はその計画を壊してしまいました」
珍しく星華が長く話した。
それだけ自責の念に駆られているのだ。
残念ながら、聖天使ラーを追い詰めたのはシャスターではなくフローレだった。しかし、それは登場人物が代わっただけで大したことではない。問題は追い詰められた聖天使ラーが破聖魔石が無かったせいで弱体化せずに聖騎士の魂を吸い取ってしまったということだ。
「いや、だから星華は悪くない。そもそもあの時、俺が破聖魔石を持っていなければ、聖天使ラーの七つの大罪に対抗できなかったし」
傲慢の罪は受けた者の身体が動かなくなる聖天使ラーの特殊神聖魔法だ。しかし、シャスターには傲慢の罪は効かなかった。星華がシャスターに破聖魔石を渡してくれたおかげだ。
「ルーシェの確信とは正反対に、フローレが来る前に俺は死んでいたと思うよ」
シャスターは大真面目な表情だ。
「それに星華が破聖魔石を持って来てくれたから、ルーシェが生きていることも分かった。だから星華には感謝しかないよ。ありがとう」
「シャスター様……」
こんな時、どんな感情になれば良いのか分からない星華が、嬉しそうで悲しそうで困った表情をしている。
そんな星華を地上から優しい瞳でフローレが見つめていた。
「そろそろ、私たちも聖都に行きましょう」
フローレが皆がいる上空に上がってきた。
聖都では聖天使ラーが待っている。本来、聖天使ラーのホームグランドで戦うのは下策だが、戦わなければ聖天使ラーはフローレに対抗すべく、さらに勢力を拡大してくるはずだ。そう考えれば、今が最も倒せる可能性が高いのだ。
「とはいえ、ここから聖都まで全力で飛ばしても数時間は掛かる。その間に聖天使ラーは防御を固めてくるはずだ」
ヴァルレインの言うことはもっともだった。
すでに聖天使ラーは八聖卿たちに命じて、戦う準備を進めているかもしれない。何も知らないファルス神聖国の兵士たちと戦うとなると、こちら側もやりにくい。
「ヴァルレイン様、その心配は杞憂ですわ」
フローレはダリアーナの方を向いて微笑む。
その意図を理解したらダリアーナは頭を下げた。
「皆さま、失礼します」
ダリアーナは自分の指に小さな傷をつけると、シャスター、ヴァルレイン、星華、そしてフローレに血を飛ばした。
「まさか、それは!」
次の瞬間、五人はファルス神聖国の聖都ファルス・アイレアの上空を浮かんでいた。




