第十六話 逃亡
聖天使ラーが冥々の大地の奥へ向かって飛び去ったことに一瞬だけ唖然としたフローレだったが、すぐに笑いに変わる。
「最後の力を振り絞って逃げるなんて、らしくないわ」
聖天使ラーは視界から小さくなっていく。
しかし、フローレは慌てない。
もう殆ど力が残っていないラーが逃げても、フローレならすぐに追いつくことができるからだ。
「逃げてどうするつもりなの?」
フローレはここにはいない者に向かって、ため息をついた。
必死になって逃げていくラーが哀れに思えたからだ。逃げる前に自分のことを不憫だと笑っていたが、あれも単なる強がりなのだろう。
「こんなことしても意味がないことを分かっているはずなのに」
いくら遠くに逃げても、殺されることに変わりはない。逃げた分だけ寿命が少し先延ばしになるだけだ。
そんなことが分からないラーではないはずだが、よほど死ぬことが嫌なのだろう。しかし、だからといってフローレは同情しないし助命もない。
それだけのことをラーはしてきたからだ。
しばらくすると聖天使ラーは完全に見えなくなった。
フローレはその後をゆっくりと追いかけようとする。
その時だった。
「まさか!」
大きな声を上げたのはフローレではない。
地上からだ。
その声の主に全員が一斉に振り向く。
その声の主……星華は彼女としては珍しく、青ざめた表情で聖天使ラーが消えた方角を見つめていた。




