第十五話 真似ごと
二人の伝説上の者の戦いから一万年後の現在。
「そういえば、先ほど『ファルス神聖国を滅ぼす』と聖天使ラーに話していたようだが?」
ヴァルレインの表情が少しばかり険しくなる。
五芒星の後継者の行動に束縛はない。だから、わざわざ人間を守る必要もない。極端なことをいえば、国を滅ぼしても誰も文句は言えないのだ。
同様に伝説上の者も現世の規則に縛られない存在だ。
だから、始祖の吸血鬼がファルス神聖国を滅ぼすのは自由だし、それを五芒星の後継者が止める必要もない。
とはいえ、七大雄国の一角が崩れるとなると、大陸中が非常に不安定になるのは確実だ。特にファルス神聖国はアスト大陸最大のファルス神教の総本山だ。シャスターではないが、面倒事や厄介事に巻き込まれるのは避けたい。
それでヴァルレインはフローレに尋ねたのだ。
「本当にファルス神聖国を滅ぼすつもりはありません。単なる嫌がらせです。自分が作ったものが壊されるほど悔しいことはありませんから」
フローレは聖天使ラーに聞こえないように小声で話すと無邪気に笑った。
「そろそろ決着をつけてきますね」
フローレは名残惜しそうにシャスターから離れると再び空に上がり、聖天使ラーの前に立った。
聖天使ラーはフローレの血の術式により動けないままだ。
「さて、どうやって殺そうかな?」
元々のフローレの時には決して発しない言葉だ。始祖の吸血鬼の記憶が戻り少しは変わったのだろう。
「そうだ! ファルス神聖国が滅ぶところをあなたにも見せてあげたいから、それまで生かしておくのもいいかもね」
堂々と嘘を言い放ったフローレは高らかに笑う。
しかし、それも束の間のことだった。
「クランヴィアよ、お前には無理だ」
今度は聖天使ラーが高らかに笑う。
「どうしたの? 気でも触れた」
「いや、何も学習していないお前が不憫に思えてな。まぁ、仕方がない。一万年もの間、眠りについていたせいで記憶が退化したのだろう」
「どういう意味?」
訝しそうなフローレを見て、さらに聖天使ラーは笑う。
「私も一万年前のお前を真似て、最後の力を振り絞ってこの場から去ることにしよう」
突然、聖天使ラーの身体が眩く輝くと、動かなかった身体が動くようなっていた。
聖天使ラーは残りの力を一気に放出し、血の術式を解いたのだ。
「なっ!?」
驚くフローレを見ることもなく、聖天使ラーは冥々の大地の奥に向かって飛び去った。




